今日も上司は不機嫌だ。忙しいのはわかるけど、電話を取り次いだだけでイラっとするのやめてくれ…。声掛けるだけなのに、何でこんなに気を遣わなきゃいけないんだ。

いや、怒りは隠して明るく笑顔で仕事しないとね。この前みたいに、態度が悪い、ビジネスマンとして成ってないって怒られるのは面倒だ。

このような残念な職場にいる方、あなたは実務以外にも、もうひとつの労働をしている。その名は「感情労働」。

『あなたの仕事、感情労働ですよね?』(関谷大輝/花伝社)は、この「感情労働」という言葉を多くの人に知ってもらい、そこから生まれるストレスに少しでも上手く対処してほしいという願いのもとに書かれた本だ。

読者対象は、仕事中、常に笑顔を作らねばならない、自分の意見を言えず常に我慢しなければならないなど、素の自分が出せない環境にいる人だという。

ここまででも想像はできるだろうが、「感情労働」の定義は、「仕事上の必要に応じて、自分の感情をコントロールしなければ務まらない仕事」だ。

この定義からいくと、「スマイル0円」に代表される接客業に携わる人だけでなく、オフィスワーカーにも職人系ワーカーにも十分関係することだと思う。

この「感情労働」には、2つの種類がある。ひとつ目は「表層演技」、2つ目は「深層演技」だ。

最初の「表層演技」とは、例を挙げると、本心では疲れたと思っていても、表面上は笑顔でいるといった場合。つまり、本人が意識的に、内面とは別の外面を演技している状態のことだ。

もう一方の「深層演技」とは、俳優が怒りっぽい役を演じているうちに、プライベートの自分まで怒りっぽい人間になってしまうような状態。つまり、初めは外面を装っているだけの感情が、内面にまで及び、本来の自分の感情を隠蔽している状態だ。

どちらも、本当の自分と偽りの自分が対立し、感情の不協和音を生むので、ストレスのもととなる。殊に「深層演技」は、仕事が楽しいなどプラスに働けば良いが、マイナスに働くと深刻だ。

理由は、自分の本当の感情にふたをしている状態なので、自分で自分の疲労に鈍感になるからだ。知らないうちに限界を超えてしまい、燃え尽き症候群(バーンアウト)と呼ばれる激しい疲労を感じて初めて負荷を自覚することもある。

バーンアウトの症状は、疲れ果てて身体が鉛のように重い、人と関わることが嫌、やりがいや達成感がまったく感じられない、といったもの。

さらにひどくなると、この電車に飛び込めば会社に行かなくていいんだ、といった希死願望やうつ病につながることもある。

また、人と職とストレスとの関係を考える上で、もっと国や社会に意識が向いてほしいのが仕事区分だ。かつては肉体労働・頭脳労働と区分された仕事も、現代ではそこに感情労働が含まれる割合が年々高まってきている。

例えば、バスの運転手。ひと昔前なら、安全に乗客を運んでいれば文句を言われなかったが、今や「ご乗車ありがとうございます」「おつかまりください」などと声を響かせなくてはならない。

コミュニケーション能力や空気を読む力がなくては生きていけない世の中となっており、仕事のすべては「感情労働」といっても過言ではない状態だ。

著者は、仕事のストレスを減らす絶対の正解はないと断りつつも、予防の大切さを説く。その第一歩が、自分が「感情労働」をしていることを知り、負荷に気づくことだという。

今の社会の労働環境の多くは、自分以外の誰かを良い気持ちにさせることが優先だ。だが、心は自分のものであり、感じてはいけない感情などない。

本心は本心で堂々と認め、偽りの仮面を被らざるを得ない自分を労ってあげてほしい。

読書1冊で、「今の嫌な職場がパッと素敵に変わります!」とは言えないが、自分の本心を閉じ込めて窒息してしまう前に、知識を得ておくことは、きっと良いことに違いない。

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