記事提供:日刊サイゾー

出典 https://www.amazon.co.jp

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』

「お断りします」

招待状を受け取ったブラックマヨネーズの小杉竜一は、困惑しながらそう言った。

差出人は松本人志だ。

「松本さんの頭脳で考えたものにこんな感じで入ったら俺、死んでしまいますわ!」

また松本人志が新たに動き始めたのだ。

漫才では『M‐1グランプリ』、コントでは『キングオブコント』、大喜利では『IPPONグランプリ』、フリートークでは『人志松本のすべらない話』…と、松本は笑いのそれぞれのジャンルで頂点を決する舞台を作ってきた。

それはいずれのジャンルにもプレイヤーとして精通し、その頂点を極めている説得力があるからこそ、なし得ているものだ。

だが、個人の笑いの総合力を測る舞台は用意されていなかった。

突飛な発想力のボケと、鋭い言葉のセンスや天然ボケ。それらに対する瞬時のツッコミ…。すべて「笑い」だが、種類はまったく違う。したがって、それを得意とする人もたいてい別々だ。

だから、当然、その優劣を測定するすべもなかったのだ。けれど、ついに松本は、そんな笑いの総合力を競い合える場を作り上げたのだ。

それが、Amazonプライムビデオで始まった『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』(全4話/毎週水曜 新エピソード更新)だ。

Amazonプライム会員への独占配信である。総合演出は『ダウンタウンのごっつええ感じ』や『一人ごっつ』、『笑う犬の生活』(いずれもフジテレビ系)などを手がけた小松純也。

さらに演出には『PRIDE』中継などで「煽りVアーティスト」の異名を取った佐藤大輔が名を連ねている。その結果、ネット番組にありがちな安っぽさとは無縁。適度な緊張感が維持され、荘厳にセットからバカバカしさが醸し出されている。

タイトルの『ドキュメンタル』とは「ドキュメンタリー」と「メンタル」の造語。つまり「メンタル」こそが、この新たな戦場で重要になるということが示唆されている。

「小学校からずっと笑いのことを考えてきて、その成れの果て」だと松本が言う『ドキュメンタル』のルールは、以下のようなものだ。

密閉された空間に、10人の芸人たちが集まり、そこで笑わせ合う。笑わせる方法もタイミングも自由だ。トークでもボケでも、持ち込んだ小道具を使ってもいい。

もちろん、相手の言動にツッコミを入れて笑わせてもいい。相手を笑わそうと思った言動が呼び水となって、その相手のリアクションで笑ってしまうなんてことも起こり得るだろう。

これを松本は「無法地帯」と表現した。

「もしかしたら一番シンプルで、ホントに一番面白いやつを決めるには適しているんじゃないか」と。

制限時間は6時間。その間、決められたエリアの中でなら、飲食や喫煙はもちろん、風呂までもOK。そして、最後まで笑わなかった芸人が優勝だ。

賞金は1,000万円。しかし、この番組には参加費がかかる。100万円だ。つまり、10人から集められた参加費を優勝者が総取りできる。

すでにテレビでブレークしている芸人はともかく、100万円は大金である。妻子がいる場合は、なおさらだ。

芸人仲間や吉本興業に借金をしてなんとか工面する者から、「(薬の)人体実験をやって金を作った」という者まで、さまざま。もちろん、小杉のように断った者もいる。断るのもまた自由なのだ。

そうして集まったのが、宮川大輔、ダイノジ・大地洋輔、とろサーモン・久保田和靖、FUJIWARA・藤本敏史、野性爆弾・くっきー、トレンディエンジェル・斎藤司、天竺鼠・川原克己、東京ダイナマイト・ハチミツ二郎、マテンロウ・アントニー、そしてジミー大西である。

松本は、お笑い芸人の世界を「ジャングル」に喩え、「いろいろな猛獣がいる」と評したが、まさにキャリアも芸風もまったく違う、一癖も二癖もある10人だ。

ジミーが登場した時の、ほかの9人のどよめきはすごかった(ちなみに、登場とともに松本がその人物に対して行う、「板尾創路の系譜<川原>」「笑いの能力が高い<宮川>」といった寸評も興味深い)

このメンツをひとつのルールで競わそうと思ったら、確かに『ドキュメンタル』のように「無法地帯」で、ただ相手を笑わせたら勝ちというルールしかないだろう。

たとえば、藤本のガヤ的なツッコミは、ネタの賞レースでは評価されにくいが、このルールでは強力な武器になりそうだ。だが、藤本に限らず、笑いの精鋭たちの多くには共通する“弱点”がある。

それは“ゲラ”だということだ。すぐ笑ってしまう。相手を笑わすことに長けた人間は、笑いどころに敏感である。ちょっとした相手の言動に、普通では気づかないおかしみを察知してしまうのだ。

だからこそ、それをツッコんだり、ボケに転用できたりするのだが、このルールでは、笑ってしまったら、その時点で失格だ。

実際、開始十数秒で、ほとんどみんなが笑ってしまい、一度仕切り直しになってしまったほど。そこに難しさと面白さがある。

たった一度笑っただけで、100万円という大金が奪われてしまう過酷な精神状態の中で、本当に笑ってしまう笑いとはどんなものなのか?おそらく、大きなボケよりも、なにげないちょっとしたことではないかと予想するが、果たしてそうなるのか?

テレビでは視聴率は取れない、伝わらないだろう」と松本は言う。Amazonプライムビデオという限定された場所で、戦う場所も密閉された空間だ。だからこそ、笑いがいかに奥深く、そして幅広い自由なものであるか証明されるはずだ。

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