記事提供:messy

上:CoverGirlより。下:資生堂INTEGRATEより。

日本で非難囂々(ごうごう)の挙げ句、放映中止となった資生堂インテグレートのCMを観てみた。25歳の誕生日を迎えた女性に対して、友人が「25歳は女の子じゃない。もうチヤホヤされない」と語りかけるものだ。

筆者が日本にいた頃とまったく同じ「25歳」がキーワードとなっていることに驚かされた。当時、盛んに使われた「女はクリスマスケーキ」(25日を過ぎたら売れなくなる)という古いジョークそのままの世界観ではないか。

25歳と言えば、実際には教育はもう修めた、社会経験もある程度積んで分別もつく、体力的にはまだ頑健でやりたいことのためなら無理も利く。同時に肌も体型も若く美しく、そこに大人のセクシーさが徐々に滲み始め…と、まさにベスト・エイジのはず。

「25歳」を過ぎた女性を煽るCMは、資生堂がいまだに既成の概念に捉われていることの証左のように感じられた。

一方、アメリカの化粧品メーカーは次々と革新的な広告を打っている。中でも一歩抜きん出たのがカヴァーガールだ

今秋、同社はCMに初の“ボーイ”アンバサダーを登場させた。アンバサダーとは広告に登場し、同社のメッセージを伝えるセレブ・モデルのこと。

今、新製品のマスカラSo Lashy!(とってもまつ毛!)のCMを仕切っているのは、YouTube で大人気のメイクアップ・アーティスト、ジェームス・チャールズだ。

弱冠17歳ながら卓越したスキルと独特のキラキラ・センスを駆使したジェームスのメイク・チュートリアル・ビデオは若い女性を夢中にさせている。

ジェームス・チャールズtwitterより。

そのジェームスと共にCMに登場するのがシンガーのケイティ・ペリー(白人)、人気女優のソフィア・ベルガラ(コロンビア生まれのラティーナ)、マルチな才能を持つDJエイミー・ファム(アジア系)、ビヨンセが紹介して人気沸騰のキュートなR&B姉妹、クロエ×ハリー(黒人)、そしてヒジャブを被ったコスメ・ブロガーのヌラ・アフィア。

言うまでもなくイスラム教徒だ。

アメリカ大統領選の直後にオンエアが始まったこのCM、アンチ・トランプ・デモ参加者の多様性をそのままコピーしたかのようのラインナップに思わずニヤリ。

「どんなタイプのまつ毛にも使える」ことからキャッチフレーズは“Lash Equality”(まつ毛の平等)で、これも時勢への皮肉が込められているのかと良い意味で疑ってみたくなる。

アメリカのコスメ・シーンはエスティローダー、ランコム、クリニーク、シセイドウなどデパートで売られる高価格ブランドと、カヴァーガールも含め、レブロン、メイベリンなどドラッグストアの棚に並ぶ大衆ブランドに大別される。

たとえばマスカラならデパート・ブランドは30ドル程度、ドラッグストア・ブランドなら10ドル前後。購買者の年齢よりも所得によって分かれており、CMに起用するセレブも自ずと変わってくる。

もちろん昔はどのブランドも一様にフェミニンな白人モデルの独壇場だったが、マイノリティの人口増加によって変化が起きた。

カヴァーガールは黒人専用のサブ・ブランドQueenの広告には元ラッパーで今は俳優、シンガー、実業家として広く人気を集めるクイーン・ラティファを使っている。

メイン・ブランドにも白人セレブに混じってリアーナ、ジャネル・モナイといった黒人ミュージシャンが登場し、基礎化粧品の広告には常にナチュラル・メイクのゲイのトークショー・ホスト、エレン・デジェネレスを起用した。

そして今回、ついに男性の登場と相成ったのである。ちなみに同社のブランド名“CoverGirl”とは雑誌の表紙を飾る女性モデルのことであり、社名に反する人選も意に介さない英断だ。

他方、デパート・ブランドはやや慎重かつ保守的。アメリカでは顧客の収入は人種と結びつく。

高級品の購買層はやはりまだ白人が多く、例えばランコムはスポークスウーマン(=広告モデル)にジュリア・ロバーツ、ケイト・ウィンスレット、ペネロペ・クルスなどアメリカとヨーロッパの俳優を使っている。

ランコムはそもそもフランスのブランドであり、ヨーロッパ俳優も起用されるわけだが、アメリカ人には欧州へのほのかな憧れもある。そんな中、2014年にルピタ・ニョンゴが同社初の黒人スポークスウーマンに抜擢されたのは驚きだった。

ランコム公式サイトより。

ルピタはケニア人の両親のもとメキシコで生まれてケニアで育ち、4カ国語を操るケニア/メキシコの二重国籍俳優。アメリカの大学に進んで俳優として活動を始め、後にイェール大学も卒業。

2013年にアメリカ映画『それでも夜は明ける』(12 Years a Slave)で奴隷主の愛人になることを強要され、そのために奴隷主の妻から虐待される奴隷女性を演じてアカデミー助演女優賞を受賞。

そこから一気に人気と知名度がアップした。

ランコムの黒人スポークスウーマンの抜擢は近年、黒人女性にも中高所得者が増え、かつ彼女たちがコスメに相当の額を投資する傾向を見越してのことだった。

そうした高等教育を受けて収入の良い職に付き、可処分所得を持つ女性たちを惹き付けるために、ルピタの「錚々たる学歴」「郊外中流家庭育ちの上品さ」「ファッションセンスの良さ」は重要な要素だったのではないかと思える。

それにしてもランコムとルピタの肌の色の取り合わせは衝撃だった。過去にドラッグストア・ブランドの広告に登場した黒人モデルは皆、肌の色が薄かった。そのほうが一般受けするからだ。

また、ダークスキンは撮影が難しいというテクニカルな理由もあるだろう。そうした過去のルールをすべて取り去り、ルピタほどダークかつ美しい肌を持つ黒人女性が高級コスメ・ブランドのポスターに抜擢されたことは、いまだに新鮮な驚きなのである。

アメリカにも「女は若いほどいい」という偏見はもちろんあるが、それを象徴する特定の年齢はない。日本では年齢と学年が完全一致し、新入社員の年齢も同じ。

そこにキリのよい数字でモノゴトを区切る習慣と極端な男尊女卑の風習が重なり、生み出されたのが「25歳」ではないかと思う。

この「区切る」文化が問題の根源になっているケースは他にも少なからずある。今後、日本に住む人の多様性を広げ、年齢的横並びを崩壊させるのも長い目でみればひとつのテかもしれない。

ちなみに前出のカヴァーガールのCM、出演者がバラエティに富んでいるのは性別・人種・宗教だけではない。年齢も10 代、20代、30代、40代が混在している。ランコムのルピタ・ニョンゴも童顔だが、女盛りの33歳だ。

結論:デパート・ブランドのランコム、ドラッグストア・ブランドのカヴァーガール。価格帯と顧客層は違えど、それぞれに革新的な広告を打ち、女性に対する既成の概念を打ち破ろうと頑張っているのである。

堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

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