出典(C) 2016「ちょき」フィルムパートナーズ

12月に公開の映画「ちょき」で主演を務める吉沢悠さん。現在は人間味溢れる中年の役もこなされますが、芸能界デビューは18歳のとき。初出演のTBSテレビドラマ「青の時代」では堂本剛さんの親友役に抜擢され、その後も数々の映画やドラマに出演。売れっ子俳優として注目を浴びましたが、2005年、突然の芸能活動休止

そして一年後、芸名の読みを「ゆう」から本名の「ひさし」に戻して、活動を再開されました。今だから語れる、あのときの真実とはーー。Spotlight編集部に、心の内を語っていただきました

“前略、今どうしてる?” Special interview

デビューから19年。本名で再出発を果たし、40代を見据えた「吉沢悠」の今

出典Spotlight編集部

人生の中では、皆さん大なり小なり何かしら抱えて生きてきていると思うんです。僕も俳優をしている中で、自分の中でうまくバランスがとれなくなってしまったことがあり、芸能活動をお休みしていたこともあります

最近では、今年12月に公開の映画「ちょき」では、直人という美容師の役をやらせていただいたんですけど。やっぱりそれぞれ抱えたものがある、妻を亡くした中年の美容師と盲目の少女の物語で、二人の心の動きを大切に演じさせていただきました。

「みせよう」と意識するとあざとさが見えてしまうと思ったので、気持ちの重なるシーンを決めずにその場で微調整をしていった
んです。監督も“人をちゃんと描きたい”という意見を持たれていて、そこがすごく共感できました」

出典(C) 2016「ちょき」フィルムパートナーズ

「オール和歌山ロケで、和歌山のどこか懐かしさを感じる風景、関西弁なのに柔らかく響く方言、そして登場人物の心の動きを丁寧に描いたストーリーです。見終わった後はじんわり温かい気持ちになって貰えると思います。

この映画を通して、“こういう人生もあるんだ”とか、“じゃあ自分も頑張ってみよう”とか、何かしらを感じていただければうれしいですね」

役作りは準備に時間をかけ、その後は捨てる

「僕は役作りって、準備が一番大事だと思っているんです。現場入るまでは自分の思いつく限りできる作業を、全部やるようにしていますね。映画「ちょき」の直人は和歌山弁をしゃべる美容師の役ですが、今回はとにかく美容師という設定と和歌山弁を先に準備しました。友達に美容師がいるので、一通りの仕事を教えて貰ったあと、動画を撮って。ウィッグとハサミを貸してもらって、自宅でも練習しましたね。

和歌山弁は妻が大阪出身なので先に関西弁を頭に入れて、後は和歌山弁のテープを聞き、最後は現地の人に直接台詞の言い回しを教えて貰ったり。他にも役柄に近い環境の人にいろいろ聞き取りをしました」

出典(C) 2016「ちょき」フィルムパートナーズ

「僕は撮影中より、準備期間の方がナーバスになります。でも準備期間にいろんな要素を詰め込むだけ詰め込んで、クランクインしたら、居直るタイプです。全部を本番に入れてしまうと、発表会になりかねないので…(笑)。

いつもそうですけど、クランクインするまでは不安の日々なんですよ。正解って分からないですし。でも現場に入っていつも思うのは、結局正解ってないんだな、ってことなんです。

今回の映画「ちょき」のおかげで、今まで関わりを持てていなかった和歌山のことをいろいろ知ることができました。何より、今まで僕より年下の監督ってあまりなかったので、そういう意味でもっとしっかりしなきゃと。年齢もありますが、一個背負ったものができたのかなと思います」

18歳での芸能界デビュー。そして「再出発」

出典Spotlight編集部

「僕自身、本来は人見知りで、もともと華やかな場所な場所にふわっといられるタイプではないんですよね。なので、壁にぶつかりました。

18歳でデビューしてから数々の素敵な作品に出会えたのですが、すごく真面目に表現しよう、表現しようと考え過ぎてしまって。自分の中で処理しきれなくなり、キャパオーバーしてしまったんですね。一回芸能界を離れてみようと思ったんです。

それで一年くらい、ニューヨークに行っていました。エンターテイメントが溢れているの街だから、興味があったんです。地下鉄で移動もスムーズだし(笑)。連日ミュージカルや芝居をみていたら、ふと『なんで自分は舞台側に立っていないんだろう』と思えてきたんです。そこで、『あれ、やっぱり自分は演じることが好きなんだな』と改めて気づいたんですよね。

この休業期間のおかげで『役者としてやっていこう』という意思も、より固くなりました。結果的には良かった時期なのかもしれません」

出典Spotlight編集部

芸名に関しても、せっかくだし心機一転しようと改めました。もともと名前の読みだけが異なるだけで、そんなに大きな変化があるわけではなかったんですけど…。

親が付けてくれた本名に変え、役者として“全てをさらけ出す覚悟でいこう”と心に決めたんですよね」

「自分の心に従うことが一番幸せ」

「芸能界を一回離れることに恐怖を抱いたりしなかったですか」と聞かれることもあるのですが、コレ僕の性格なんでしょうけど、最後は居直れちゃうんですよ(笑)。自分の気持ちが潰されるくらいなら、死ぬわけじゃないし、自分の心に向き合っていた方が幸せだなって思っちゃうんです。ある意味自分の強みかもしれないですけどね。

小さいころから、何で生きているのか、何が幸せなのか、っていうことに興味がありました。それがお金なのか、有名になることなのか…って考え出すと、いろいろ疑問に思ってしまって。自分は何を幸せに思うのかっていったら、それは、一番は心に従っているということだなって。なので、芸能界を一回離れる怖さよりも自分の心に従った選択をしたと思います。

出典Spotlight編集部

“もし、このまま芸能界を離れることになったら何をしよう…”と考えたこともありました。それまで何かをやってきたわけでもないので、芸能の仕事から派生する何かだとは思いましたね。今覚えているのは、本職の方のそばで言うのも何ですけど(笑)、スタイリストとか。たまたま自分の周りに、人間的に面白いスタイリストさんがいた影響です。

あと、親父が消防士で公務員なのですが、もともと僕は、芸能界に憧れていたわけでもなかったので、実は僕も公務員試験を受けているんですよ

デビューのきっかけは“人見知りを直すために始めたカラオケ”

出典Spotlight編集部

「僕の芸能界デビューのきっかけは、カラオケのオーディションだったんです。当時自分が思っていることを表に出すのが苦手で、女の子とも全然話せませんでした(笑)。

人前で何かをするってこともすごく苦手だったんですけど、それを打破してくれたのがカラオケだったんです。優しい友達が「仲間内なんだからカラオケでバカをやるくらいいいじゃん」「一人が恥ずかしいならいっしょにデュエットしようぜ」と声かけてくれて

「奇跡の星」っていう「桑田佳祐&Mr.Children」さんの曲を歌ってみたら、とても楽しかったんです。人前で歌えるようになったことは自信にも繋がっていきました。

その頃、そのカラオケ屋さんでオーディションが出来ますよ、っていうシステムがあって。一等がハワイだったので(笑)、友達といっしょに受けてみたんです。そうしたら、たまたま本選まで残って、準グランプリに選んでいただきました。本選は渋谷のON AIR EASTという所だったんですが、スカウトの事務所が多く来ていて。所属も事務所預かりの形だったんですが、すぐにドラマの出演が決まり…。巡り合わせって、なんだか面白いですよね」

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40歳を目前にして、今思うこと

「今38歳なんですが、40代を迎えることにワクワクしているんです。というのも、僕の周りに素敵な先輩が山ほどいて、すごく楽しそうなんですよね。「美味しいお酒を飲んで笑いがある、この瞬間のために頑張って生きているよね」って。常に新しいことにトライしていて、目がイキイキしていて。

そういう素敵な先輩が周りに多いのでありがたいです。僕も純粋な心や情熱が枯れないような大人になりたいな、って思っていますね」

出典Spotlight編集部

「40歳からの俳優って、立場的にも役柄的にも広がりを見せやすい年齢だと思うんです。でも、僕はどちらかと言うと童顔なので、自分の年齢より下の役が多い(笑)。そんななかでも、年とってからの方が役の幅が増えてきている印象があるので、その流れに抗わないようにしようと思っています。

昔から目標にしてきた俳優さんは西田敏行さんと竹中直人さん。お二人とも人柄がすごく素敵だと思っていて。竹中さんは何度か共演させていただいているんですが、竹中さんがいるだけで現場の空気が本当に明るくなりますし、個性的な役柄もこなせて、幅が広いじゃないですか。西田さんは出てくるだけで重厚感があるというか、笑いが生まれたり、空気を動かしているイメージ。お二人とも人を引きつける魅力がすごくて、「自分もいつかこういう俳優になりたいな」って思っていますね」

出典Spotlight編集部

夢を語るよりも、今の連続を大事にしていきたい

「目標とする俳優さんを言った後にこんなことを話すのは矛盾していると思われそうですが、今後の夢や展望についてはあまり考えないようにしているんです。もちろんこうありたい、っていうのはあって、昔はよく言ってきたんですけど。今は、その場その場の出会いや、そこで感じるものを一番大事にしようと思っています。

先を見すぎてしまうと、今の出会いに感謝が薄れてしまうと思うんです。せっかく今こういう仕事で自分が求められているのに、先への想いが強すぎると、今をおろそかにしてしまう瞬間が出てきてしまうと思うので。それなら、一個一個の仕事を大切に、今の連続を大事にしていきたい。僕の人生はそっちの方が向いていると思います

今活躍されている役者さんもすごく成功している役者さんも、僕が見えない大変なこと、すごいことがたくさんあったと思うんですよ。だから、今そこにいる。表面的なことばかりを見るのではなく、その人たちもやったであろう、これから自分がやらなくちゃいけないことは「今」の積み重ねなんだと思いますね」

プライベートでは健康にも気遣います

「プライベートでは妻と一緒にのんびり過ごしたり、趣味のサーフィンをしています。今、余裕があるときは合気道にも通っているんですよ。これ、すごく自分の感覚に合っていて、気持ちを引き締めてくれるんです。ちょっとでも気を抜いていると先生に見抜かれて「あなたが真剣な気持ちじゃないと何も得られないですよ」って指摘される。日常でそういうことを言ってくれる場所ってなかなかないので貴重ですよ。

後は年齢的に、健康にも気を使うようになりましたね。米麹を使った甘酒など健康食品にも興味があります。スタッフさんに教えてもらった健康茶をときどき飲むようにしたり。腸内環境が良くなってお肌の調子が良くなるらしいです(笑)。

とにかく今は、38歳のこの瞬間を大事に、一つ一つの出会いに感謝していきたいです。そして俳優を長く続けていきたいと思っていますね

出典Spotlight編集部

――俳優として約20年のキャリアがありながらも、傲ることなく、ひたむきに俳優という仕事に向き合う吉沢悠さん。「今を大事に生きたい」と語る姿は、根本にある誠実な人間性を垣間見れた瞬間でした。

忙しい毎日の中では“自分は何が幸せか”という真実をつい見失いそうになります。彼は思慮深く、冷静に自分の内面にも向き合える人間だからこそ、俳優としてもさらに前進していくのでしょう。

一つ一つの出合いに感謝を忘れず、着実に人間力と経験値を積み上げている吉沢さんのお話を伺い、今後の彼のお芝居にますますの待ち遠しさを抱きました。

【吉沢悠(よしざわひさし)プロフィール】
1978年8月30日生まれ。東京都出身。98年に俳優デビュー。主な出演作に、星に願いを。 (2003年)、Believer (2004年)、逃亡くそたわけ (2007年)、孤高のメス (2010年)、道〜白磁の人〜 (2012年)、アイアムアヒーロー、ちょき(2016年)、公開待機作にトマトのしずく(2017年1月14日渋谷シネパレスほか全国順次公開)、サクラダリセット(2017年春2部作連続公開)、主演「エキストランド」など。

Interview / 黒川沙織 齊藤カオリ Text / 齊藤カオリ Photo / 梅田直子 Styling / 柴山陽平  Hair&Make / 佐々木愛

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