記事提供:おたぽる

(C)S.P/N.A

1990年のTVシリーズ放送開始から今年で26年目、日曜日夕方を彩るアニメとしてすっかり定着、『サザエさん』(フジテレビ系)や『アンパンマン』(日本テレビ系)、『ドラえもん』(テレビ朝日系)などと並んで、“国民的アニメ”と呼んで差し支えない存在感を誇る『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系/原作:さくらももこ)。

そんな国民的アニメの、知っていそうで意外と知らない制作過程について、『永沢、班長になる』の巻」「『たまちゃん、班長になる』の巻」(記事参照)を手掛けるなど、担当した脚本回の評価も高い、『ちびまる子ちゃん』の脚本を担当する一人、脚本家・高橋幹子氏、日本アニメーション制作担当・熊谷那美氏に教えてもらったインタビュー【前編】に引き続き、【後編】をお届け!「おたぽる」でも度々取り上げている、高橋氏担当脚本エピソードがどう作られているのかについて、お2人にお話を聞いた!

■いいお話すぎて中学校の道徳の授業にも採用!?

――比較的最近、今年に入ってから高橋さんが担当されたエピソードについて一言ずつコメントをお願いします。まずは「『まる子、お年玉で蟹を買う』の巻」(1035話/1月10日放送)ですね。

高橋幹子(以下、「高橋」)当時、アシスタントプロデューサーを担当されていた山本さんという方から、「お年玉で何か面白いお話になりませんかね?」という提案をいただいたんです。

お年玉で何を買ったら面白いかなと思って、「豪華なカニを買ったら面白いな」と思いついて(笑)。すぐにそれで行きましょうとなったんです。何がいいって、消えモノだから。

『ちびまる子ちゃん』はずっと続いていく世界ですから、形になって残るものは避けたいということもありますし、まるちゃんならカニを買いそうだよな、と。

ただ、初期の脚本は高木(淳)監督に「リアルじゃないですね」と言われてしまったんです、「カニって食べるときはもっと忙しいんです」と。たしかに、自分でカニを買って食べる機会なんてあまりありませんからね。

それが悔しくて、一人でお店に食べにいったんです、5,000円ぐらいかけて(笑)。その経験を踏まえて脚本を書いたら、「リアルになりましたね」「カニ食べに行きましたから!」とやり取りをしたことが印象的な1本です。

「『スランプ藤木のスケート対決』の巻」より(C)S.P/N.A

――次は「『スランプ藤木のスケート対決』の巻」(1041話/2月21日放送)。

高橋 スランプからどうやったら立ち直れるのか、それをテーマに書いてみたかったんです。シーズン中でしたから、羽生結弦選手のようなキャラを出してみたいなぁと(笑)。

それと8年前、脚本家になってからずっとスポーツ選手の記事を切り抜いてるんです。脚本家も才能の世界ですから浮き沈みがある。

スポーツ選手と似ているなぁと思い、どうやって彼らがスランプから立ち直るのかをずっと追っていまして。スポーツに詳しいわけではないんですが、沈んだ時、それを励みにしているんです。

高橋大輔選手や羽生選手の前向きなコメントやインタビュー記事を大切に持っています。

そういうのもあって、何か得意なことがある人がスランプになったらどうするのか、というのは挑戦してみたいテーマでもあったので、藤木で書いてみたというわけです。

「『永沢、班長になる』の巻」「『たまちゃん、班長になる』の巻」より(C)S.P/N.A

――次が我々もレビューさせていただいた、「『永沢、班長になる』の巻」「『たまちゃん、班長になる』の巻」(第1048話 4月17日放送)。

高橋 そんな話題になるとは思わなかったんですよ。当初は「永沢班長になる」という1本分のネタを提案していたんです。

ところが監督や、先ほどもお話に出たアシスタントプロデューサーの山本さんから、「高橋さん、これは30分のお話になるよ」「これはたまちゃんの班のことも書かなきゃダメだよ」「オチにするのはもったいないよ」と。

これが会議、ブレストの醍醐味ですよね、まるで自分からは出てこない発想が出てくるという。それで30分、2話構成のお話になったんです。

で、監督に「どう30分にしましょう?」と聞いたんです、そうしたら「少し時間をズラせばいいんじゃないか」と。

――少しずつ時間を遡って、Aパート、まる子の裏でたまちゃんがどんな苦労をしているかを、Bパートで描かれていました。

高橋 そうなんです、Aパートでこんなことをやっている間、裏ではこんなことになっていたというのをBパートで見せるという――これも監督の大胆な発想で、「あ、見えた」と思った作品です。

自分はいかにズレが生じないようにするか、どうしたらAとBをリンクさせられるかという部分に一生懸命で、話題になるなんて全然思っていなかったので、レビューしてくれたときはうれしかったですね。

――たまちゃんはもちろん、永沢も、たまちゃんのお母さんも良かったですよね。

高橋 そう、永沢が良かったですよねぇ。リーダーシップを特に持ち合わせていない人でも、リーダーをやってこそ学べることがあるじゃないですか。

自分もOLを15年間やっていたとき、頼りになる上司もいれば、そうじゃない上司もいて。そうじゃない上司についたからこそ学べることもあると体験していたので、そういった部分が書きたかったんです。

――またこのお話がいいなと思うのは、いつもはまる子がボヤいて、たまちゃんが「大変だね」と相槌を打ってくれる。このお話があったことで、実はたまちゃんも同時進行で大変な目にあっていたのかも、という妄想が捗るのが楽しいなと思いました。

高橋 そうなんですよね、そういうことを言わないたまちゃんは偉いし、思いやりがある子だなって。

それにたまちゃんのお母さんのセリフがいいですよね、たまえは人を引っ張る力はないかもしれないけど、気づける力があるんじゃないかという…。

広報・弥山 ちなみにそのお話には続きがありまして。なんととある中学校の先生から、お問い合わせがあったんですよ、「道徳の授業で映像を使いたいんですが」と。

高橋 本当ですか!?なんだ、そういういい話はもっと早く教えてくださいよ、いいなぁ、その授業受けてみたかったなぁ~(笑)。

――実際、どんな授業になったのか、気になりますね。さて次が「『まる子、お母さんと二人きりになる』の巻」(1051話/5月8日)。これは「『父と娘の日曜日』の巻」(1060話/7月10日)と、対になっているようなお話でした。

高橋 そうですね、ネタ出しのときから対で出したお話でした。「母と子ども」「父と子ども」というシンプルなお話を書きたかったんです。

私の父が仕事に忙しい人で、母が私と弟の面倒を見てくれていたんですけど、寂しい思いをさせないようにと、家の中で色んな工夫をして面白がらせてくれたんですよ。

例えば、たまには寝室でなく居間で川の字になって寝ようとか言い出して、深夜に放送している再放送の、普段は子どもが見ないようなドラマを一緒に遅くまで見たりとか。

家にいながらどれだけ子どもをワクワクさせられるか、というのを、母はすごく工夫してくれたんです。そんな母との思い出をもとに作った作品です。

「『父と娘の日曜日』の巻」より(C)S.P/N.A

「『父と娘の日曜日』の巻」は…最初はお父さんとまるちゃんで、と思ったんです。これがなかなか上手くいかなくて、3稿までいっちゃったんです。

そこで、熊谷さんから「パートナーをお姉ちゃんにしてみたらどうだろう」というご提案があって。というのも、ヒロシとまるちゃんは仲が良過ぎるんですよ。

――似たもの親子ですよね。

高橋 そうなんです。このお話で描きたかったのは、「父と娘ってギクシャクするもの」ということでしたので。

私自身、父と2人きりになったとき、何を話したらいいかわからない、という時期がありまして。ヒロシとまるちゃんだと似たもの同士だからなかなかそういう雰囲気にならないんです(笑)。

――年齢的にも、お姉ちゃんは父親とギクシャクしだす頃合かもしれませんね。

高橋 そうそう。書いていて思いました、やっぱお姉ちゃんはそういう時期なのかもなと。また一見、父親というのは気難しかったり、だらしなさそうに見えて、実は家族を気遣っている、ということも書きたかったんです。

父は「尊敬」、母は「大好き」、自分が両親から学んだことを、『ちびまる子ちゃん』に落とし込んだ作品です。

――その2本の間に放送されたのが「『静岡の国のアリス!?』の巻」(1055話/6月5日放送)です。

高橋 これはアフレコ現場にお邪魔したので、その時の印象が強いです。声優さんもすごいけど女優さんもやっぱりすごいですよね!

シャーロットさん(シャーロット・ケイト・フォックス)は指示やリテイクをもらうたびにこうやって(小さく両コブシを握るポーズをとって)「OK!」とか「ファイト!」とか小さな声で自分を励まして、絶対にめげない。プロの姿を見せてもらいましたねぇ。

――「『丸尾君、夏休みに選挙活動をする』の巻」(1065話/8月21日放送)は、個人的に大好きです。

高橋 新学期になって学級委員の選挙で丸尾君が張り切るというお話は以前にも何度かあるんです。

でも彼のことだから、一年中、学級委員のことを考えているのでは?と思いまして。特徴的なのは、クラスメイトをたくさん出そうと思ったんですよ。

熊谷那美(以下、「熊谷」)セリフがない子もいますけど、顔はいっぱい出しましたね。

高橋 そのわりにはセリフも最小限に抑えられて、我ながら素晴らしいと思っているんですけど(笑)。また丸尾君のがんばりが、かよちゃんを動かすというラストシーンを一番書きたくて。

全員の心を動かすのは難しくても、誰か1人の背中を動かせる、“行動する”ってそういうことだと思いますので。

――映像も面白かったです、丸尾君がクラスメイトの家を一軒一軒回っていく過程で、いろんな背景の処理をされていて。映像的にも面白い1話でしたよね。

熊谷 ラストを除けば基本ばかばかしいというか、笑えるお話なので、そういうお話が合う方に演出をお願いしました。

高橋 あ、やっぱりそういうところも配慮されているんですね。どなただったんでしょうか?

熊谷 市橋(佳之)さんですね。いつもすごく楽しい、笑える回にしてくださいます。監督とも「これは市橋さんに依頼したいね」と一致しまして。

――そういう相性もやっぱり大事なんですね。

熊谷 そうですね、あったかいお話が合う方もいらっしゃいますし。できるだけ、その人に合うお話をお願いしたいな、と思っています。

――「『なんでもない日の友蔵』の巻」(1071話/10月2日放送)。これまた、ちょっといいお話ですよね。

高橋 アニメ『おじゃる丸』(NHK Eテレ)でご一緒させていただいている脚本家の先輩がおりまして、その方が1年に1回ご自宅にカメラマンを呼んで、年賀状用にご家族の写真を撮ってもらっているんですね。

「そのお話、すごいステキですね。参考にさせてもらっていいですか?」と聞いたところ、OKをいただいて脚本にしたという1本です。

ただ、そのご家族はいろいろポーズを取ったりして撮影されるそうなんですが、それとは逆にしてみました。何でもない瞬間、たとえば爪を切っていたり、髪の毛をとかしているような日常の写真を撮る話にしようと。

旅行先や誕生日とかの記念写真はあっても、「普段の姿」を撮った写真って、なかなかないと思うんです。誕生日という特別な日に、なんでもない日の写真をプレゼントする…これが浮かんだ瞬間に、「あ、見えた」と書き出しました。

盗撮のようなアイディアは監督です。こうしてみると、監督のおかげで、切り口が斬新になったり大胆になったりしていますね。ありがたいです(笑)。

皆さんも何でもない日に写真を撮るという機会はあまりないと思いますが、後になったらこういう写真のほうが大事になってくるんじゃないでしょうか。

オンエアの後、実家の両親から「確かに家にもそういうのないな。今度撮ってみるか」と連絡がきました(笑)。

――ちなみに自分が担当されたお話以外で、印象的だったエピソードはありますか?

高橋 たくさんありますけど、絞るのがなかなか難しいですね…印象に残っているのは、松島(恵利子)さんが担当された「『まる子と絹とお蚕さん』の巻」(1023話/15年10月4日放送)。

まるちゃんが絹、蚕のことを学ぶというお話なんですが、考えさせられました。蚕があんな切ない生き物であるという、感動する内容を10分ちょいの間にまとめられていて…しかも説教臭くない。

「命」という難しい題材に向き合いながらも、絵本のようにわかりやすく作られている。いち視聴者としても、いち物書きとしても学ぶところがたくさんある作品でした。

■『ちびまる子ちゃん』の世界同様、温かい製作現場

――『ちびまる子ちゃん』の、他の脚本家さんと交流があったりするものですか?

高橋 年に一度の忘年会のときぐらいしかお会いできないんですけど、その際に色んなお話をします。脚本に対する悩みなんかにも、すごく真摯に丁寧に応じてくれて。『ちびまる子ちゃん』の脚本家は皆いい人なんですよ!

たとえば当時私が2~3年目だったときに、「どうやったら10年間、続けられますか?」なんて質問をしても、惜しみなく「それにはね…」と教えてくださって。

学ぶことが多いです。なんというか男性でも女性でも穏やかな人ばかりで。お会いするのは1年に1ぺんでも、毎週作品を観ているので、どこかで繋がっている気がします。

『ちびまる子ちゃん』に限らず、TVアニメは数人の脚本家で作ることが多いんですが、お一人お一人からたくさんのことを学べるなぁと。それは作品からだったり、その方の脚本家としての姿勢からだったり。

脚本家は年がら年中、机に向かい、構成はこうして…台詞はこうして…キャラクターは…と、すべて「ひとりでジャッジする孤独な作業」なので、同業者の方に対して、ライバル心というよりも、同士、励みになる存在、であることの方が多いと思いますね。

どの方からも学ぶべきところがあり、憧れの人がたくさんいて、だから続けていけるんだと思います。

熊谷 ちなみに『ちびまる子ちゃん』は脚本家に限らず、全スタッフ、そういう感じなんです、穏やかというか。

高橋 そう!私は「日本アニメーションさんに就職したかった!」とよく言っているんです。

実際、入社したら大変なこともあるかもしれませんけど(笑)、打ち合わせで毎週通っていると、皆でカレーを食べていたり、お花見とかもしているのがほんとうらやましくて。

歴代の担当PDさんも、山本さんも熊谷さんも人がよくて、ライターにとって働きやすい会社だと思います。打ち合わせに来るのが楽しいですもん。

――『ちびまる子ちゃん』の現場が実は超ギスギスしている、とかだったらいやだなと思いましたけど、良かったです(笑)。

高橋 現在、山形新聞で連載中の『アートフロンティア』というエッセイでも書かせていただいたんですけど、最初は監督が壁に見えたんですよ、14本も出して全部ダメだったわけですから(笑)。

でも今はもう1本の大きな木、アニメ『ちびまる子ちゃん』の幹だなと思っているんです。監督から指摘される箇所って、私がネタとして出しつつも、う~んと不安に思っていたりするところばかりで。

「ああ、監督、やっぱり気付きましたか」みたいな。その「眼」に脚本家としてものすごく信頼感を抱いてます。もちろん、ここを膨らませたら面白くなるかも、というところも一緒で。

監督が1本の大きな木、ブレない強さを持っているからこそ、みんなが安心して制作を進められる、そんな現場だと思います。もちろんそんな監督は、原作者のさくらももこ先生の世界感を一番大切にしています。

またプロデューサーの田中さんや制作担当の熊谷さんが、現場が作業に集中できるよう、常に気を配って下さっているのも、とてもありがたいです。お2人ともとても親しみやすい雰囲気をお持ちで、私、ものすごーくホッとしてるんです。

「作品」を作るのは現場でも、「作品を作れる環境を作る」のはプロデューサーや制作担当の方のお仕事ではないかと思っておりますので、楽しく打ち合わせに行ける、というのは田中さんや熊谷さんの環境づくりのうまさだと思うんです。

――現場の雰囲気がいいところは、それがやっぱ作品にも伝わるんでしょうね。

高橋 そうですね。だから私は、旅行に行くと必ず『ちびまる子ちゃん』と『おじゃる丸』チーム用のお土産を買っていくんです。それぐらいこのチームが好きなんですよ。

そういうムードだから、楽しいお話が作れていると思いますし、そういうムードを監督をはじめ、プロデューサーや皆さん、もっといえばさくらももこ先生の生みだした『ちびまる子ちゃん』という世界が、作りだしてくれているんだと思います。

アットホームな雰囲気のもと、ネタ出しや脚本作成は厳しく、という環境で制作されていたアニメ『ちびまる子ちゃん』。

レビューしていて感じた日曜夕方に相応しいんだけど、最近何だかアグレッシブで面白いと感じられたのは、全然気のせいではなく、さすがに伊達ではなかった“国民的アニメ”の看板。

なお、本日11月20日第1078話「『さくら家のお医者さん』の巻」は、インタビューに応じてくれた、高橋氏が脚本を担当!気になった人は、オンエアをチェックしてみてはどうだろうか。

脚本・高橋幹子氏。

■TVアニメ『ちびまる子ちゃん』

公式サイト
・公式Twitter@tweet_maruko
・放送情報毎週日曜日夕方6時よりフジテレビ系にて放送中

日本アニメーション公式サイト

アニメ『ちびまる子ちゃん』

(C)さくらプロダクション/日本アニメーション

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス