記事提供:おたぽる

(C)S.P/N.A

日曜日夕方を彩るアニメとしてすっかり定着、『サザエさん』(フジテレビ系)や『アンパンマン』(日本テレビ系)、『ドラえもん』(テレビ朝日系)などと並んで、“国民的アニメ”と呼んで差し支えない存在感を誇る『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系/原作:さくらももこ)。

懐かしくも穏やかな1970年代半ばという時代を舞台に、家族や友人たちと過ごすまる子の日常を、日曜日の夕方という放送時間帯に相応しく、老若男女、家族皆で楽しめる作品を送る――という基本は変わっていないのだが、

おたぽる」でも何度かレビューで紹介しているように、『ちびまる子ちゃん』はさくらももこ原作ならではのシニカルさ・毒っ気を残しつつも、ちょっといいお話だったり、AパートとBパートの2弾構えのストーリー構成を試してみたりと、やたらとアグレッシブで且つ面白い。

“国民的アニメ”という非常に重たそうな看板を背負いながら、『ちびまる子ちゃん』のストーリーテリングは、なぜこんなにアグレッシブなのか。

「『永沢、班長になる』の巻」「『たまちゃん、班長になる』の巻」(記事参照)を手掛けるなど、担当した脚本回の評価も高い、『ちびまる子ちゃん』の脚本を担当する一人、脚本家・高橋幹子(高の字はハシゴダカ)氏、日本アニメーション制作担当・熊谷那美氏にお話を聞いた!

■採用までが非常に厳しい『ちびまる子ちゃん』脚本制作過程

――まず、髙橋さんと『ちびまる子ちゃん』との出会いから教えていただけますか?

高橋幹子(以下、「高橋」) やっぱり「りぼん」ですね、連載第1話が掲載されたのを読んだのを覚えています(「りぼん」1986年8月号より連載開始)。面白くて大好きなマンガで、「りぼん」もコミックも買って読んでいましたね。

――連載陣が豪華で面白かったですよね

高橋 『ときめきトゥナイト』(作:池野恋)、『星の瞳のシルエット』(作:柊あおい)、それに『お父さんは心配性』(作:岡田あーみん/以上全て版元は集英社)…本当に豪華でしたね。

自分のギャグセンスはさくらももこ先生と岡田あーみん先生で培われたものだと思っています(笑)。

――12年からアニメ『ちびまる子ちゃん』の脚本に携わるようになるには、どんなキッカケがあったんですか?

高橋フジテレビヤングシナリオ大賞」という、フジテレビが主催している脚本の賞があるんです。そこで大賞をいただいて、TVドラマの脚本家としてデビューしたところ、業界関係者の方から同局の『ちびまる子ちゃん』を紹介していただきました。

――最初にそのお話を聞いたときはどう思われました?

高橋 すごくうれしかったです、小さいころから好きで、コミックも持っているぐらいでしたから。もちろん自分に『ちびまる子ちゃん』を書けるのか、とても不安でしたけど。

「『たまちゃん、藤木の紹介に悩む』の巻」より。(C)S.P/N.A

――やっぱりプレッシャーも大きかったんですね。

高橋 ええ。でも『まるちゃん』ですよ、挑戦しない人はいませんよ!周りからよく言われます、「空きがあるならぜひやってみたい」と(笑)。

国民的なアニメですし、さくらももこ先生の作品に携われるということで、もう参加する以外の選択肢はありませんでしたね。何とかしてこのチャンスを掴みたい!という一心でしたね。

――高橋さんが脚本として参加されるようになって、最初の作品がオンエアされるまでの経緯をお聞きしたいのですが。

高橋 初めての作品は第884話(Bパート)「『たまちゃん、藤木の紹介に悩む』の巻」(12年12月2日放送)ですね。これは高木(淳)監督が自ら絵コンテを描いてくださいました!

熊谷那美(以下、「熊谷」) あ、そのお話、私が制作進行を担当していました!

――演出・絵コンテを担当している方が複数いらっしゃるんですよね。

熊谷 基本的には5人でローテーション組んで担当してもらっていますが、この時はスケジュールがきつくて、監督が「Bパートは俺がやるよ」と言ってくださったんです。

――高橋さんのデビュー作を監督が担当したのは偶然だったんですね?

高橋 あら、たまたまだったんですね?聞かなきゃよかった、選んでくれたのかと思っていたのに(笑)。

熊谷 でも脚本を読んで俺がやると言ってくれたんですよ。

――脚本は具体的にどんな段階を踏んで、作られていくものなんですか?

高橋 まずネタ出し会議が2カ月に一度あります。大体半年後にオンエアされるお話を、今だったら来年の5~6月に放送される分のお話のネタを、会議で脚本家から提出するんです。季節的にはちょうど真逆になるので、ちょっと大変ですが(笑)。

熊谷 会議は監督、日本アニメーションのプロデューサーと文芸担当――現在は私ですね、あとフジテレビのプロデューサーさん、さくらプロダクションさんのご担当の方の5人でやります。

そこでネタが採用されたら、各ライターさんにネタをお戻しして、プロットづくりからお願いしています。

高橋 プロット=あらすじをA4用紙3~4枚ぐらいにまとめたものを提出します。このプロットにNGが3回出るまでにOKをもらわないと、脚本執筆に移れないんです。

――ネタ出し会議を通っても、プロットが通らないと脚本にならない?

高橋 そうですそうです。ネタからプロットから移行しても、いざ書き始めてみると意外とお話が進まない、というケースもありまして。

だからOKが出なかった場合は、より良くなるようにブレスト(ブレインストーミング。集団でアイデアを出す会議)して、改良を重ねて。

それでOKが出たら、脚本に取り掛かっていきます。この脚本も、基本NGが3回出るまでに上手くいかないときは、そのお話は「どこかが上手くいってない」ということで採用されません。

――それはなかなか厳しいですね…。

高橋 私も最初に条件を聞いたときは厳しいと思いましたね。ただ、やっぱり面白いお話というのはすんなり通りますからね、これは何年かやってみてわかったんですけど。

もちろんちゃんと途中で直しはするんですけど、やっぱりお話の芯がしっかりしているものは、進行が早い。芯がブレているものは、「ん?」と何かが引っかかりやはりなかなか進まない。だから自然と、このスタイルが出来上がったんじゃないでしょうか。

熊谷 そうですね、長い間、そういうやり方と聞いてます。

■厳しい“過去作品との戦い”、14本のネタがすべてダメだったときも

――脚本が完成して、高橋さんの手を離れたあとの過程についてもお伺いしたいのですが。

熊谷 まずは絵コンテですね、先ほども言ったように5人でローテーションを組んで担当してもらっていて、その後原画、動画と順々に進めていきます。

弊社は社内と一部の別スタジオ、フリーランスの方で完結できるようなシステムになっているんです。アフレコ以外の作業はほぼ社内でできるようになっていて、昔ながらのオーソドックスな進行をしています。

――今のご時世、なかなかできることじゃないですよね?

熊谷 もちろん、忙しいときはどうしてもあるので難しいこともありますが、それでもちゃんとチェックが行き届く範囲でとどめていますね。

――長期に渡って放送されている作品なので、脚本作りでも独自のルールがあって手間取った、みたいなことはなかったのでしょうか?

高橋 最初のネタ出し会議に、はりきって14本もネタを出したんですよ。これだけ出せば、一本ぐらいは採用されるだろうと思っていたんですが、それが全部ダメだったんです。その理由が、「過去の作品と似ている」。

12年頭の段階で、すでに800回以上放送されていたんですよ『ちびまる子ちゃん』は。自分が書いているものはすでに先輩方が書かれていた、まずはこれまで放送された800回との勝負なんだということにそこで初めて気がついて、ガーンとやられたわけです。

――先週の13日放送回が1077話で、基本1回の放送で2話ずつですから、そりゃ似ているお話だって出ますよね。

熊谷 しかも、90年に放送されたTVアニメ第1期も140話ぐらいありますから。今でも出していただいたネタの半分ぐらいが、「これ、(近い話を)やったことがありますね」となるときもあります。

「『夏にお年玉!?』の巻」より(C)S.P/N.A

高橋 『ちびまる子ちゃん』ってすごく普遍的なものを扱っている作品だと思うんです。家族、日常、友だち、絆…そういった普遍的なものをテーマにした作品はいくら時代が違っても、変わることはない。

ですから、『ちびまる子ちゃん』の舞台になっている70年代の描写などでつまずくよりも、どの時代にも通じるこの作品の深さ、面白さに毎回気づかされ、そこを掘り下げるよう力を注いでいます。あと、“笑い”も大事にしています。

もちろん、70年代を描くのに苦労することもありました。たとえばこの家電は当時すでにもう発明されていたか、当時の郵便局って何時ぐらいに閉まっていたのかな?とか。

毎年1月に年賀はがきの当選番号を発表するじゃないですか。景品引き換えの期限が7月なんですが、そのお話を去年書きまして(第1013話「『夏にお年玉!?』の巻」15年7月19日放送)。

そこで当時の静岡県清水市の景品はどんなものだったのか、当時何時まで郵便局の窓口が開いていたのか?

その時は苦労して、清水郵便局に電話して、古株の方、何人かにお話しさせてもらったんですが、景品の方は調べることができたものの、時間だけはどうしてもわからず…。

結局、演出の堂山(卓見)さんと監督に相談して、「作中で時間を見せないように調整しよう」となったんですけど、そういう苦労はありますよね。

――手間暇がかかっているんですね…。そういった資料探しも大変だと思いますが、『ちびまる子ちゃん』の脚本家さんは、70年代を知るベテランの方が多いんですか?それとも高橋さんのように中堅・若手みたいな年齢の方も結構多いんですか?

熊谷 半々です。一番長い方だと12~13年も書いてくださっています。原作やアニメをちゃんと理解し、愛してくれている方と一緒にお仕事ができるのはうれしいですね。

――そうやって新鮮さを保っているんですね。

熊谷 そうですね。『ちびまる子ちゃん』は現在、1回につき2話ずつ放送することが多いのですが、その1話分はわずか10分ちょっとです。その時間内にストーリーをしっかりと描かないといけないので、脚本家さんは大変かもしれません。

高橋 私自身は尺の長短によって、苦労するということはあまりないんです。約10分の『ちびまる子ちゃん』でも、1時間のTVドラマでも、起承転結――物語を作っていくというのは同じことだと思ってますので。

「『まる子、リレーのアンカーに選ばれる』の巻」より(C)S.P/N.A

■脚本、演出、音楽、音響、声優…プロの技が結集!

――高橋さんが書かれた脚本で、オンエアを見て、「すごい!」と思われたエピソードがあったら教えていただけませんか?

高橋 まずは「『まる子、リレーのアンカーに選ばれる』の巻」(第925話 13年10月13日放送)という、2本立てで30分まるごとのお話です。

脚本の段階で自分でも好きな話だったんですけど、アニメではまる子がリレーで頑張って1位になったとき、少しだけ静寂――間があって。

動きも止まるというタメがあってから、「やったー!」と声が入って、絵も音も動き出すというシーンになっていて、「うわ、やられたな」と思いましたね、私の脚本では普通に「…やったー!」って書いていましたから、この「…」を見事、表現して下さったんですね。

脚本家の楽しみというのは、こういうところにあるんだなと思いました。

あと好きなのが、「『思い出のオルゴール』の巻」(第983話 14年12月7日放送)。

たまちゃんが両親の思い出のオルゴールを、うっかり壊してしまう。修理しようとするんだけど、部品が古すぎて修理できない…という悩みをたまちゃんがまる子に相談するというストーリーで。

たまちゃんはピアノを弾く女の子ですから、オルゴールの音楽をピアノで再現するというラストにしたんです。「モノは壊れるけど、想いは受け継がれてゆく」そのテーマで1本、お話を書きたかったんです。

監督からは「その曲ってどんなイメージ?イメージがあるなら送って」と言われました。何本か動画のURLをお送りしたんです、こんな切ない感じのイメージですと。そうしたら一から楽曲を作ってくれて…。

熊谷 あの曲は音楽の中村(暢之)先生が作ってくださいました。

高橋 それがまたイメージとピッタリで、もう本当に素晴らしくて!ネットを見ても――すぐにネットを見ちゃうんですけど(笑)、「この曲、知りたい!」「既成の曲なの!?」と反響もすごく大きかったんですよ。

音楽や演出から力をもらえると改めてわかった作品です。

あと「『対決!大野くんと杉山くん』の巻」(第979話 2014年11月9日放送)。コンテと演出を監督が担当してくれたんですが、これはもともと大野くんと杉山くんをライバルにしたら面白いのでは、と発想したのがはじまりです。

大野くん、かっこいいですよね(笑)。たしか最初は水泳だったと思うんですが、打ち合わせで野球にしようという話になりました。監督が野球大好きなんです(笑)。

でも私は『タッチ』(作:あだち充/小学館)しか知らない。なので脚本に入る前に、「何試合かテレビで野球を観て下さい。今ならデーゲームもやってますから」と監督から言われ、録画して3試合ほど観ました。

あとはもう『タッチ』で得た知識を総動員させようと(笑)。『タッチ』大好きなんです。オンエアを観た時はとても面白くて、一視聴者として楽しんだのを覚えています。

スピード感もあるし、間の取り方も絶妙ですし、対決の緊張感もさすが野球好きだなぁと。一視聴者として楽しめる、というのは演出が素晴らしい証拠だと思います。

――演出に加えて、声優さんの演技もありますよね。

高橋 たしかに!声優さんも本当にすごいですよね、何度かアフレコの見学にお邪魔させていただきましたけど。皆さん長年やられているからだと思いますが、早い!リテイクがほとんどなくて。2時間くらいで終わっちゃうんですよ。

――2時間!?通常は30分アニメは4~5時間かかると聞きます。それ、テスト一発、本番一発ぐらいで済んでいるんじゃないですか?

熊谷 そうですね、大体それぐらいです。別録りもほとんどないので、予定時間よりも早めに録り終えてしまうことが多いです。皆さんの26年の積み重ねがあるからこそですね。「あうんの呼吸」とはまさにこういうことだな、と毎回思います。

高橋 ドラマの現場だと、ご長寿シリーズはあまりないので、現場が慣れたころに解散なんです。でも『ちびまる子ちゃん』は26年やってますから、一体感がすごい。また音響監督の本田(保則)さんのことも尊敬しています。

本田さんは決して怒らず、的確に指示を出していくし、その指示に声優の皆さんもまた的確に答えていく。やっぱりプロはすごいなと思いますね。

私はよくドラマとコラボしたときの脚本を担当させてもらうんです、最近だと松下奈緒さんとかシャーロットさん(シャーロット・ケイト・フォックス)さんが登場した回とか。皆さん役者さんではあるけれど、声優さんとしては初めてだったりする。

でもそういった方々に対しても、本田さんはいつも的確な指示を出し、役者さんもまたちゃんとそれに応えるんです。プロって怒らないんだなと思いました。静かに指示し、静かに応える。自分もそうありたいと、あの現場に行くたびいつもそう思います。

1話の脚本を仕上げるまでに、ここまで手間がかかっていたとは…恐るべし『ちびまる子ちゃん』。といったところで、インタビューは20日配信予定の後編へと続く。

なお、その20日放送の第1078話「『さくら家のお医者さん』の巻」は、高橋氏が脚本を担当!インタビュー【後編】とあわせてチェックしてみよう!

脚本・高橋幹子氏。

■TVアニメ『ちびまる子ちゃん』

公式サイト
・公式Twitter @tweet_maruko
・放送情報 毎週日曜日夕方6時よりフジテレビ系にて放送中

日本アニメーション公式サイト

アニメ『ちびまる子ちゃん』

(C)さくらプロダクション/日本アニメーション

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス