記事提供:日刊SPA!

イギリスでイギリス人相手に芝居をした時、千秋楽にオフィシャルな「打ち上げ」がないことに驚きました。一か月必死で稽古して、一か月苦労を共にした本番を過ごしたのに、最後の日、普通に終わるのです。

もちろん、飲みたい奴は飲みます。僕は俳優と共に深夜まで飲みました。

でも、参加したくない奴は参加しません。それは、「共に時間を過ごすこと」を強制しない文化だからです。

僕は繰り返し「世間」と「社会」の違いについて書いています。

「世間」の特徴のひとつは、「共通の時間意識」というものです。つまりは、「私とあなたは同じ時間を生きている」というものです。

ちゃんとした会社に電話すると、相手の人は「いつもお世話になってます」と言います。相手が誰だろうが、関係なく、機械的に言います。

僕は初めての会社の時は、こう言われると、「いえ、電話するのは初めてで、お世話になるかどうかは、これからの話次第です」と答えます。たいてい、電話の相手は、「危ないクレーマーの電話だ」と思うようで、態度が急変します。

先週、おごってもらったら、日本人は次の週に「先週はごちそうさまでした」と言います。欧米の文化では、「わざわざ言うってことは、またおごってもらいたいということなのか」と考えます。

先週のことをお礼するのは、あなたと私は先週から同じ時間を過ごしていると考えるからです。その延長線上でお礼を言うのです。

欧米では、あなたと私の時間は別々です。先週、私はあなたにおごったが、今週は私は私、あなたはあなたの時間が流れているのです。

なのに、わざわざ、「先週はごちそうさまでした」と言うということは、また、同じ時間に戻したいということなのかと思われるのです。

「ひとつよろしくお願いします」とか「これからよろしくです」とかは、基本的に英語に翻訳することが不可能な文章です。

もちろん、通訳の人は、「あなたと仕事ができることが嬉しい」とか「いい結果が出ることを希望します」とか、英語文脈に変換しますが、日本人が意図している「これからずっと、うまくやれるといいですね」という「あなたと私に素敵な同じ時間が流れますように」というニュアンスとは違います。

◆22時に消灯、朝5時に灯りがついた電通ビル

電通の過労死問題は、電通という会社の体質だけではなく、日本文化そのものが色濃く出ていると僕は思っています。

それは、「共通の時間を過ごすことがあなたと私の絆を作る」という意識です。

これをすっごく分かりやすくいうと「みんなが会社にいるのに自分だけ帰れない」とか「上司が残っているのに、先に帰れない」ということになります。

つまりは、「同じ時間を過ごすことが、仲間の証明」というのが日本文化なのです。

だからこそ、芝居やプロジェクトの終わりに、必ず「打ち上げ」をします。

それは、共に同じ時間を過ごしたことを、お互いに確認するためです。「打ち上げ」は、ひとつのピリオド、時間の区切りです。同じ時間を過ごしているからこそ、区切りもみんなと同じにつけるのです。

電通だけではなく、どの会社もグループも「同じ時間を過ごすこと」が、仲間であることの証明になっています。どんな成果を上げることより、どんな結果を出すことより、とにかく同じ時間を過ごすことが大切になっているのです。

それが「世間」のルールです。

欧米には「世間」はありませんから、ただ「同じ時間を過ごすこと」は目的にはならないのです。だから、ひとつの芝居、ひとつのプロジェクトが終わっても、それぞれが自分の時間で勝手に帰れるのです。全員でピリオドをつける必要はないのです。

電通は、夜22時から朝5時までの消灯を決めました。みんなで時間を共有するのも、じつに日本的です。

さっそく、朝5時に煌々と灯りのついた電通ビルがツイッターで報告されていました。22時には真っ暗にする分、朝5時から働くのでしょう。

やはり、仕事の中身より「同じ時間を過ごすこと」が大切にされる文化なのです。「ただ一緒にいること」に、みんなが心底うんざりしない限り、日本企業の過労死は悲しいけれど続くだろうと思うのです。

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