記事提供:サイゾーウーマン

NPO法人Japan Hair Donation & Charity代表 渡辺貴一さん。

柴咲コウや水野美紀、ベッキーなど、人気の女性芸能人が長い髪をバッサリと切り、寄付したことで一気に注目を集めたヘアドネーション。

寄付された髪の毛で作った「フルオーダーメイドの医療用ウィッグ」は、病気や事故などが原因で頭髪に悩みを持つ18歳以下の子どもたちに無償でプレゼントされる。

この活動が一般にも徐々に浸透しつつある今、ヘアドネーションの草分け的存在であるNPO法人Japan Hair Donation & Charity(通称:JHDAC、ジャーダック)の代表・渡辺貴一さんに、活動を始めた動機や意図などについて話を聞いた。

■「もったいない」が始まり

大阪で美容室を経営しながら、JHDACを運営する渡辺さんは、2008年、ビジネスパートナーと現在の店舗を立ち上げた時、本来、営利目的である美容室で、あえてそれとは逆の、お金儲けにはならないけれど世の中に役立つことをしたい――という考えで、ヘアドネーション活動を始めた。

「せっかくの髪の毛がもったいない、今まで切って捨てていたものを何かに役立てたい――という美容師としての職業意識」と、動機について語る渡辺さん。また、当時ヘアドネーションを行っている美容室がなかったのもきっかけだそうだ。

事務所に届いた郵便物は、開封後、手紙などと毛束とで仕分けされる。

08年から美容室のHPで「髪の毛の寄付を集めております」と表明、09年にはNPO法人化。ヘアドネーションの活動を綴ったブログも開始した。法人化前に送られてきた髪の毛は月に1~2束だったが、法人化後は週1~2束に。

送られてきた髪の毛を撮影し、ブログにアップし始めると、寄付がさらに増加した。それでもひとつのウィッグを完成させるのに20~30人分の髪の毛が必要となるため、最初のウィッグを完成させるのに約2年半かかったそうだ。

現在は郵便で届く髪の毛が1日100~150通にも上る。髪の毛を寄付する「ドナー」は日本に住む日本人にとどまらない。留学生、在日外国人や、海外に住んでいる日本人からも髪が届くという。

■震災と芸能人のSNSによって拡大

美容室を営みながらの活動は忙しく、ヘアドネーションのPRに、あまりお金や時間を費やすことはできない。しかし、そんな状況でもJHDACに送られてくる髪の毛は増え続けている。

渡辺さんは、ドナー増加の背景には、大きな2つの出来事と、世の中の流れの後押しがあるとみている。

まず、11年3月11日の東日本大震災以降、寄付は急激に増加。

「やはり、あれほどの災害を目にして、皆さんの中に『誰かの役に立ちたい』というボランティアへの意識が高まったことは、自然な流れなのでは」

また、昨年から今年にかけて、水野美紀や柴咲コウ、ベッキーといった芸能人がJHDACに髪の毛を寄付したことも、ドナー増加の追い風となったそうだ。

柴咲は、昨年12月、美容室を通じて寄付した髪の毛の束の写真を、自身のインスタグラムにアップした。その投稿が多くの人にシェアされて広がり、JHDACの活動はNHKのドキュメンタリー番組でも紹介された。

社会を根底から揺るがし、人々の心に大きな影響を与えた震災、芸能人による寄付といった出来事に加えて、スマートフォンの普及とそれに伴うSNS文化の浸透という世の中の流れによって、今までボランティアに興味がなかった若い世代にも広く知られるようになったのではないか――と、渡辺さんは冷静に分析している。

■髪の毛に同封された手紙から浮かぶ、ドナーの人物像

取材当日も郵送ではなくわざわざ事務所まで髪を届けに来た人がいた。岐阜県から大阪まで4時間車を飛ばしてくる人も。それだけドナーの思いは強い。

髪を寄付するのはほとんどが女性だが、まれに男性もいる。年齢は下は3歳から上は60代まで。繰り返し、同じ人が寄付することもある。

そして、事務所には、髪とともに手紙が同封されて届くことが多い。「一つひとつの手紙にドラマがある」と渡辺さんは言う。

手紙には親や兄弟、友達など身近な人が病気であったり、さまざまな理由で頭髪を失ったり、闘病の末に亡くなったことなどが綴られていて、「自分には、もっと何かできることがあったんじゃないか?」という後悔にも似た想いが感じられるそう。

もちろん「ちょうど切るタイミングだったので」という軽い気持ちで提供する人も少なくない。中には、夏休みの自由研究で髪を寄付する子どもも。

また、今年の夏は、髪の寄付だけでなく、仕分けなどのボランティア体験をするために、関東、九州、シンガポールから20組以上の子どもたちが保護者とともに訪れた。

■頭髪のない人が自然に受け入れられる世の中が理想

頭のサイズに合わせて完成したウィッグは、本人の要望のもとにカット。

これまで124台のウィッグを子どもたちに提供してきた、JHDAC。提供先は、8~18歳以下の子どもが対象で、約9割が女子、約1割が男子。幼い子どもの場合は親が、高校生以上の場合はスマートフォンなどで調べて、自ら申し込むケースが多いという。

もちろん、心からウィッグを望み、手に入れた子どもは非常に喜ぶが、現実はもう少し複雑だ。幼い子どもの場合、保護者が子どものためにウィッグを求めるケースがほとんどで、特に母親の場合は、我が子に対して責任を感じてしまいがちだという。

「脱毛などの症状には、特に遺伝的要因は見られない。抗がん剤治療など、原因が特定できるもの以外は、脱毛のほとんどが原因不明(突発性)であると専門医も認めているんです。いつ、誰がなってもおかしくない」

がんなどの病気の場合、皮膚が過敏になっているので、ウィッグを着けること自体が子どもの身体に負担になってしまう場合もある。

また、生まれつき頭髪のない子どもであれば、本人や周りがその状態を自然な姿だととらえているので、ウィッグに戸惑うこともある。

親が子どものためを思って申請したウィッグであっても、子ども自身が嫌がって着用しないケースもある。保護者の気持ちは十分すぎるほど理解できるが、まずは、使用する本人の気持ちを十分に尊重してほしいと渡辺さんは考えている。

「本当に求められているのはウィッグそのものではなく、安心できる普通の生活。ウィッグがなくても、頭髪がない状態の人がいてもじろじろ見られたりせず、自然に受け入れられる世の中が理想だと思う。そのような世の中で、ネイルやつけまつげみたいなおしゃれ感覚で、気軽にウィッグを装着できるようになればいい」

■賛同美容室も約1,500店舗に増加

賛同美容室に常設されている募金箱。受け入れているのは31cm以上の髪だが、長さが足りない人も寄付金などで協力することができる。

ヘアドネーションに対応したカットを行う、ウィッグを要望に応じてカットする、何人分かの髪の毛をまとめて事務所に送付するなど、さまざまな形でJHDACに協力する賛同美容室は、2016年11月時点で1,500店舗に迫る勢いで増加し続けている。

しかしこれまで、特に協力を呼びかけたわけではないそうだ。

ドナーが寄付に対応した方法でカットするようリクエストしたことで、美容室がヘアドネーションについて知ったり、「美容師さんがきちんと束ねて切ってくれなかったから、髪がバラバラになってしまった」「対応してくれる店を教えてほしい」という問い合わせがJHDACにあったりなど、ドナー個人の働きかけが大きかったとのこと。

そこで、ヘアドネーションについて協力してくれていた美容室を、了解をとってHPに掲載したことが、賛同美容室の始まりだという。

最初は東京や大阪など都市部のみだったが、募金箱を置く、ステッカーを張るといった条件を定め、賛同美容室のシステムを作り、協力方法を整理したことで徐々に増加。

ヘアドネーションの知識も広まり、美容室側から協力を申し出てくることも多くなった。現在では月に100店舗前後(先月の2016年10月は97店舗)のペースで増えている。

また、賛同美容室として登録されていない美容室から、髪の毛の束がまとめて送られてくることもあるという。

■髪を寄付する上で、一番気をつけてほしいこと

毎日大量の髪が送られてくるJHDACの事務所だが、受け取る際、困っていることもある。「まずは、HPの情報をしっかりと読んでいただきたい」と渡辺さんは言う。

JHDAC のHP(ヘアドネーションの仕方)では、送る際の手順を図解し丁寧に説明しているが、きちんと見られていないのか、間違った方法で髪の毛が送られてくることも少なくないそうだ。

よくあるのは、毛束をラップやテッシュを重ねて包む過剰包装。ゴミが増え、作業の負担となっている。包装を解こうとして髪がバラバラになることもあるので、「可能な限り、簡易包装でお願いしたい」とのこと。

また、特によくないのは、湿った髪の毛。「髪の毛が少しでも濡れているとカビが発生し、周囲にあるほかの毛束まで使えなくなってしまうので、完全に乾燥させてから送ってほしい」と渡辺さんは訴えた。

前述した通り、寄付する側にはたくさんの思いがあるが、渡辺さん自身は気負いすぎず自然体だ。

「僕らはウィッグを必要とする子どものニーズに寄り添い、寄付したい人とつなげているだけです。ヘアドネーションを経験した多くの人々が、無毛症や病気で頭髪をなくした人たちの『普通の生活』について考えたり、思いやるためのきっかけとして、この活動が広がっていけばいい」

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス