あなたは初めて夜更かしした日を憶えているだろうか。

少しだけ自分が大人になったような気分がもたらす高揚感
は、あの時にしか味わえない特別なものがあった。そんな夜更かしデビューと濃いつながりがあるのは土曜日。翌日に学校もなく、親も少し寛容な土曜の夜更かしにうってつけだったのが日本テレビの9時枠、いわゆる土9(どっく)だった

土9の歴史は長く、1969年に「90日の恋」を皮切りに土曜グランド劇場枠としてスタート。家族をテーマにした作品が多かったが、時代に合わせて扱う話のテイストも変容していった。

90年代に入るとCD全盛期を迎え、ドラマタイアップの楽曲がチャートを賑わす時代となった。土9もその例に漏れず、ドラマ人気と共に多くのミリオンヒットが生まれた。
今回はその土9主題歌から抜粋。あなたの好きだったドラマは何ですか?

あの時、あの曲。

#22 「アツい名曲が盛り上げた、90年代の土曜9時ドラマソング5選」

1.「接吻 / ORIGINAL LOVE」

“長く甘い口づけを交わす 深く果てしなくあなたを知りたい fall in love 熱く口づけるたびに やけに色のない夢を見る”

出典ORIGINAL LOVE『接吻』

1993年、ドラマ『大人のキス』の主題歌。はみだし刑事情熱系で夫婦役だった柴田恭兵風吹ジュンが、離婚する夫婦にキャスティングされたことに注目が集まった。また、石田純一が女癖の悪い男を演じたり、当時20歳の深津絵里による演技が評価されたりなど現在から振り返っても興味の持てるメンツだ。

複雑な恋愛事情の行方を見守る今作に『接吻』はムードたっぷりに響き、ORIGINAL LOVEの代表的なヒット曲のひとつとなった。

2016年の現在も田島貴男自身が音楽番組で歌唱することも多い『接吻』。この曲ができたことについて田島は「初めて納得できるラヴソングが書けたかもしれない」と語った。また、名曲ゆえに数々のアーティストにもカバーされ、2003年にリリースされた中島美嘉によるカバーはオリコンチャートで4位を記録し『接吻』をより幅広い層に知らせることとなった。

今の『接吻』はワインが発酵していく感じだと喩える田島貴男。ソウルフルでエネルギッシュな彼の歌唱は今も、そしてこの先も上質なビンテージに成熟していく。

2.「空と君のあいだに / 中島みゆき」

“空と君とのあいだには今日も冷たい雨が降る 君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる”

出典中島みゆき『空と君のあいだに』

同情するなら金をくれ!」という劇中のセリフが流行語大賞に選ばれた、1994年放送のドラマ『家なき子』。貧しい暮らしに加え、父の暴力、重病を患う母などのさまざまな困難に、安達祐美が演じる相沢すずが立ち向かって生きていくさまを描いた作品。テレビの前で多くの視聴者が胸を締め付けられた。

暴力や卑劣ないじめなどのセンセーショナルな描写もストレートにされ「来週はすずが報われるように」と放送回数を重ねるほど祈るように見守られ、平均視聴率24.7%、最高視聴率37.2%を記録した。

ドラマのヒットと悲哀の中に力強さを感じる歌詞とが相乗効果となって『空と君のあいだに』は中島みゆき自身最高の売り上げを記録。無論、オリコンチャート1位も獲得しており「わかれうた(77年)」「悪女(81年)」そして『空と君のあいだに(94年)』で、史上初の西暦10年代3つに渡り同一名義で首位を獲得した初めての歌手となった。

歌詞はドラマのために書き下ろされたもので、楽曲制作を依頼された時点での設定が「犬を連れた家のない少女」としか決まっておらず、犬の写真を唯一の手掛かりに曲を書いたという。そのため愛犬リュウの目線から描かれた特殊な視点となり、中島みゆきのソングライティングの凄さを改めて示すこととなった。

3.「Chase the Chance / 安室奈美恵」

“Just Chase the Chance 信じてる道は Chase, Chase the Chance まっすぐに生きよう 夢なんて見るモンじゃない 語るモンじゃない 叶えるものだから”

出典安室奈美恵『Chase the Chance』

「ブラック・ジャック」のオマージュ作品としても有名な漫画のドラマ化『ザ・シェフ』は1995年に放送。文字通り料理を題材にした作品だが、漫画原作ということもあって常識外のハチャメチャな展開にツッコミどころが満載。視聴者に「いやいやありえないでしょ!」と言わせることがメインの娯楽となるよう意図された作りとなっている。

出演陣にはジャニーズ事務所のタレントが多くおり、メインの味沢匠には東山紀之国分太一は田部太一という役名で脇を固めた。V6からは森田剛が松本三宅健は市川という役名で、下の名前を同じにする遊び心も見える。最終回である第9話には滝沢秀明も出演しており、ファンには嬉しい配役となった。

Chase the Cance』は主題歌としてドラマとリンクする部分は薄いものの、累計出荷枚数155万枚の大ヒットを記録した。SUPER MONKEY'Sから安室奈美恵ソロ名義となって初のドラマタイアップとなったこの曲で、その年の第46回NHK紅白歌合戦に初出場。前作「Body Feels EXIT」のヒットに続いたことで日本のDIVAとして注目度を大きく上げた。

また『ザ・シェフ』やその前後に放送された「金田一少年の事件簿(第1シーズン)」「銀狼怪奇ファイル」で、漫画原作×ジャニーズの流れが出来上がったのもこの時代における土曜9時ドラマの特徴と言えるだろう。

4.「愛の言霊〜Spiritual Message〜 / サザンオールスターズ」

出典 https://www.amazon.co.jp

(画像は7inchアナログ盤)

“生まれく叙情詩とは 蒼き星の挿話 夏の旋律とは 愛の言霊”

出典サザンオールスターズ『愛の言霊 〜Spiritual Message〜』

香取慎吾主演のドラマ『透明人間』の主題歌となった37枚目シングル『愛の言霊 〜Spiritual Message〜』。ドラマは、誰もが一度は妄想したことがあるだろう透明人間になり、さまざまな事件を解決していくストーリー。

怪しげな露天商から手に入れた薬を服用し激しい頭痛に襲われて透明人間となるのだが、このときに香取演じる長谷川半蔵が発する「あったまいてぇ~!」を当時のこども達がラムネ菓子を口に放り、モノマネする姿もよく見られた。

放送の序盤はコミカルな演出が多用され、明るい雰囲気の見せ方がされていた。だが後半になると、それらの事件を陰で操る闇の大組織「ゼウスグループ」との対決が本格化するに従いシリアスな面が強くなり視聴者を引き込んでいった。結果、好評が後押しする形で当初の予定より1話多い全13話の放送となるほどまでに成功を収めた。

『愛の言霊 〜Spiritual Message〜』は不思議な世界を持つ楽曲で、音楽的にもジャンル分けが難しい。怪しいけれど痛快、懐かしさを感じつつも新種なこの奇曲は、前作「あなただけを 〜Summer Heartbreak〜」に引き続き1位を獲得。139.5万枚を売り上げ、サザン通算4枚目のミリオン楽曲となった。

ちなみにこのシングルは1996年に8センチCD、カセットテープ、7インチアナログで発売。2005年には12センチCDで再販と各メディアに記録されている。これらを全て持っているという人は相当なサザンマニアだろう。

5.「ESCAPE / MOON CHILD」

“裸の太陽 Ah この胸に熱く輝きながら 今目覚め始める Uh この想い君に届くまで I love you I love you I love you 走るだけ”

出典MOON CHILD『ESCAPE』

なかなかの問題作として記憶している人も多いだろうドラマ『FiVE』の主題歌『ESCAPE』はMOON CHILDの5枚目シングル。

物語は少女たちの脱獄から始まる。脱獄に成功するも追い詰められた彼女たちを淀橋幸世という男が救い、その下でそれぞれの特化した能力を武器に犯罪組織と戦うグループとなる。「少女版スパイ大作戦」という意識で制作され、スケバン刑事シリーズで知られる脚本家、橋本以蔵を作家陣に迎え、勢いのある展開を魅力に人気を集めていった。

主演のメンバーであるともさかりえ、鈴木紗理奈、篠原ともえ、遠藤久美子、知念里奈は当時において多くの番組に出演する“売れっ子”であったため撮影スケジュールの調整が難しく、その影響から脚本を何度も書き直したという。最終話はいわゆるバッドエンドであり、都合よく全員幸せにならない結末には多くの視聴者を驚かせた。

『ESCAPE』はMOON CHILD最大のヒット作。ドラマ話数で言うと中盤にあたる5月28日にリリースされ、発売3週目に前週の9位からランクアップし1位を獲得した。それはタイアップの力だけではない、曲自体の良さが認められた証とも言える売れ方だった。

歌詞は恋愛に寄った書き方がされているが、タイトルが示すようにドラマの内容ともリンクするスリリングでソリッドな曲となっている。

そしてミュージックビデオの格好よさもこの曲の魅力をより高めている。演奏シーンを主体にして、随所に囚われた人々の閉塞感を思わせるカットが散りばめられている。敢えて不規則にカメラを揺らしたり、演奏する楽器へ極端にズームする撮り方は2016年現在にも通ずる「クールなロックバンドのMV」としての要素を、97年にして多く持っていたように思える。

今回ここで紹介されなかったドラマも含めて、振り返ると90年代の土9枠は少しずつ低年齢層向けにシフトしていることが解るのだが、そういった流れの中でも、表現を婉曲せずに心の闇や社会の理不尽な部分を直視させる役割を一定に持たせていたように捉えられる。

「今だったら絶対放送できないだろうな…」と思われる表現は確かに多かったが、あの時代にあの空気に触れた人は「あのドラマのエピソードがトラウマでさぁ!」と夜更けの居酒屋で笑みを浮かべながら懐かしみ合っていたりする。

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