出典日本盲導犬協会提供

視覚障害のある方を助ける仕事をしている盲導犬。街中で見かけることはあっても、盲導犬たちがデビューするまでの過程を知る機会は多くないのではないでしょうか。

実は、今年は盲導犬が誕生して100年という節目の年なのです。

そこで今回は、皆さんに盲導犬のことをもっと知って欲しいという思いから、日本盲導犬協会の神奈川訓練センターにお邪魔してきました。

実際に盲導犬たちはどんな訓練をし、どんな生活を送っているのでしょうか。

神奈川訓練センターの入り口

出典Spotlight編集部

ここが日本盲導犬協会の神奈川訓練センターです。

さあ、中に入ってみましょう。

PR犬のナディアちゃんがお出迎え

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ーーこんにちは!まずは自己紹介からお願いします。

ナディア:私はPR犬のナディアです。もともとは盲導犬の候補犬だったんだけど、キャリアチェンジして今は盲導犬のPRをする仕事をしているの。

今日はみんなに、盲導犬の歴史やお仕事を知ってもらいたいんだ。

盲導犬の始まりは負傷兵がきっかけだった

出典日本盲導犬協会提供

ナディア:盲導犬の育成が始まるきっかけになったのは、第一次世界大戦で負傷した軍人さんを介助するためだったの。ドイツでは当時、戦争で負傷した人が多く、中には失明してしまった人もいたんだって。

そこで軍用犬を育成していたハインリッヒ・スターリン博士が、犬が視覚障害の手助けをしてくれるのでは?と思いつき、政府や犬の訓練士と一緒に盲導犬の訓練方法を作っていったの。

そして、1916年にドイツのオルデンブルグに盲導犬の訓練学校が設立されて、同年10月に世界初の盲導犬がデビューしたんだ。これが盲導犬の始まりだよ。

世界初の盲導犬とユーザーさん

出典日本盲導犬協会提供

ナディア:この写真に写っているのが、世界初の盲導犬とユーザーであるポール・フェインさん。私たちの大先輩なんだ。

日本に初めて盲導犬が来たのは1939年で、日本盲導犬協会ができたのは1967年。盲導犬の歴史は100年あるけど、日本での歴史はまだそんなに長いわけじゃないんだよね。

「身体障害者補助犬法」っていう法律で、施設へ出入りや交通機関に乗れるようになったのも、実は2002年になってからなの。

そう考えると、もっと盲導犬のことを知ってもらわなきゃって思うんだ。

さて、次は盲導犬のお仕事について説明するね。

ーー盲導犬はどんなお仕事をしてるの?

ナディア:人が移動する時は、モビリティ(徒歩などの移動行為)オリエンテーション(現在地と目的地の把握)の組み合わせで成り立っているんだけど、私たちのお仕事はモビリティのお手伝いだけ。道順なんかはわからないんだ。

お仕事の内容を大きく分けると3つで、ユーザーさんに角と段差を教える、あとは障害物を避けてユーザーさんを誘導することだよ。

じゃあ、順番に見せていくね。

1. 角を教える

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ナディア:角に来たら、体をユーザーさんに対して斜めに入れるの。これでハーネスの角度が大きく変わるから、角に来たよって教えてるんだ。

ユーザーさんは移動するときに、いくつ目の角で右に行くか、左に行くかで道順を覚えているから角を教えることは、とても大事なの。もちろんユーザーさんから指示されるまでは、ずっと待ってるよ。

2. 段差を教える

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ナディア:段差を教える時は、止まってユーザーさんに教えるの。私が止まるとユーザーさんは足元で段差を確認してから進むんだよ。

上りの時は階段の1段目に足をかけて私が段差で止まると、ユーザーさんの持っているハーネスの角度も変わるんだ。角度が変わることと、私が止まることの両方で段差を知ってもらうの。

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ナディア:下りの時は段差ギリギリで止まるようにしているよ。正確にいうと、上りでも下りでも階段の5センチ以内に止まるんだ。

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ナディア:結構ギリギリでしょ?でもね、これを守らないとユーザーさんが危ないんだ。もし、私が段差よりも手前で止まったらどうなるかも見せるね。

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ナディア:手前で止まったら、段差まで距離があるからユーザーさんは怖いはず。だから、点字ブロックではなくギリギリで止まるということがとても大切なの。

3. 障害物を避ける

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ナディア:障害物を避けるのも大事なお仕事。障害物というと低い場所にあるものだけと思われがちだけど、実はユーザーさんの頭上にある看板にも気を付けているんだ。私たちも人や物にぶつかりたくないし、何よりユーザーさんが安全に歩くためだからね。

最近は歩きスマホをしている人もいるから、動きを予測しながら歩くこともあるの。

一緒に活動している山本さんにもお話を伺いました

出典Spotlight編集部

ーー盲導犬としてデビューするまでの過程について教えてください。

山本:子犬の頃は、パピーウォーカー(1歳になるまで候補犬を預かるボランティアの方)の元で過ごし、とにかく人間のことを大好きになってもらいます。もちろん、待て、おすわり、伏せといった基本動作もこの間に学びます。

私たちの協会では、月に1回パピーレクチャーというしつけのレッスンも行い、パピーウォーカー家族にも子犬との接し方を学んでもらったり、相談にのったりしています。

1歳ごろになったら、訓練センターに戻って盲導犬になるための訓練を始めるんです。でも、訓練を受けていく中で性格や、体調などの面でキャリアチェンジをする犬もいます。(具体的には、ナディアちゃんのようにPR犬になる犬、一般の家庭で過ごす犬、介助犬の道に進む犬など様々です)

ナディアの場合は、盲導犬になるための訓練はしっかり受けたのですが、身体的な面で盲導犬になるのは難しいと判断されました。性格面では、穏やかで人間が大好きなのでとても適性のある犬です。

そこで、その性格を生かしてPR犬として活躍しています。

出典Spotlight編集部

ナディア:私はみんなのことが大好き。これからもPRのお仕事を通して、盲導犬のことをたくさん知ってもらうように頑張るね!

じゃあ、普段の盲導犬の生活を教えてくれる人にバトンタッチするね。

普段の盲導犬の生活について伺いました

出典Spotlight編集部

盲導犬の生活や訓練がどんなものなのか、神奈川訓練センターで訓練士をしている田中さんにお話を伺いました。

ーー盲導犬の訓練はどのように進められるんですか?

田中:一概にこの期間にこれをやる、というよりも犬に合わせて進めていきます。最初は、おもちゃやボールを使って名前を認識することや「good」と褒められることを教えるんです。

こういったコミュニケーションを取っていくことで、人間といることは楽しい、触られることは褒めてもらっていることだと理解してもらいます。

訓練というと厳しいものをイメージを持つ人もいるかもしれませんが、遊びを通して楽しく学んでいくスタイルでやっていますね。角や段差を教えること、障害物を避けることを、その犬の性格に合わせて様々な工夫をしながら、犬が理解をしているかを確認して進めています。

地道な訓練だからこそ、犬との信頼関係を築くことは本当に大切ですね。

もちろん性格的に臆病な子は、少しづつゆっくり進めますし、好奇心旺盛な子にはいろんなことを教えていきます。こうした犬の性格や特性を見つけるまでが大変です。

トイレは指示されてからしている

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インタビューに、盲導犬訓練中のマーチくんも来てくれました。

ーーこんにちは。普段はどんなスケジュールで過ごしているの?

マーチ
:初めまして。盲導犬訓練中のマーチです。僕たちの1日は、すごく規則正しいんだ。

朝6時に起きてトイレ、それからご飯を食べて身だしなみのケア、訓練をしたら少し休憩してまた訓練、夕飯を食べてからトイレ。夜9時には寝る生活をしているよ。

もしかしたら驚くかもしれないけど、僕たちは人から指示があったときにトイレに行くようにしているんだ。大体1日に5〜6回かな。なんでこういう訓練をしているかというと、将来ユーザーさんと暮らしはじめた時、僕たちが勝手にトイレに行ったら困っちゃうからね。

だから、トイレの訓練は僕たちにとっても、ユーザーさんにとっても大切なことなんだ。適切な場所でできるように、ユーザーさんと一緒にトイレのタイミングも勉強しているよ。

ーートイレのことはマーチくんに聞くまで知りませんでした。ユーザーさんとの1日の大半は何をしているのでしょう?

田中:通勤や通学など、移動している時間はトータル2時間程度だと思います。どちらかというと待っている時間の方が長いので、落ち着いて待機できることが大事ですね。どんなに歩行の技術が優れていても、待機時間にいたずらしてしまったりすると大変ですから。自宅では普通の家庭犬と同じように室内で過ごしています。

キャリアチェンジする子、引退後の盲導犬の生活

出典Spotlight編集部

ーーさっき案内してくれたナディアちゃんのように、キャリアチェンジをする犬もいますが、その判断はどんなタイミングで行われるんでしょうか?

田中:それも犬によってなので難しいのですが、数ヶ月の場合もあれば半年くらい訓練をしてからということもあります。健康面が理由であればすぐに判断しますが、繊細な性格の犬の場合は訓練の中で経験を積むことで、懸念点がクリアされることもあるからです。

繊細な犬というのは、逆にいろんなことをよく見てくれているので大切な資質であるともいえます。エネルギッシュな犬も良い点もありますが、落ち着かないと見えてしまうこともあるので、適性の判断については訓練士同士でよく話し合っています。

ーー何歳で引退するんですか?

田中:10歳が引退の目安になります。2歳でデビューして10歳で引退ですから、盲導犬としては約8年間お仕事をするんです。もちろん生き物ですから、体調によっては引退時期が早まることもあります。

また盲導犬としてデビューした後も、定期的にユーザーの元を訪問して歩行の様子や、犬の体調を確認して、ユーザーと盲導犬のペアをいつも見守っているんです。

ーー引退後は一般家庭に戻るんですか?

田中:いくつかパターンがあって、デビュー前にいっしょに過ごしていたパピーウォーカーのところに戻る場合と、ユーザーに近い方(ご親戚など)のお宅で過ごす場合などがあります。その他にも引退犬を飼育するボランティアにお願いすることもあるんです。

しかし、重篤な病気がある場合は特別なケアができるよう、日本盲導犬協会の富士ハーネスという施設で手厚いケアを受けながら余生を過ごす犬もいます。

実際の訓練の様子も見せていただきました

出典Spotlight編集部

角を教える、段差を教える、障害物を避けるという3つのお仕事を、地道に訓練するのですが、大事なのはコミュニケーションなのです。そのため、訓練の合間にはこんな無邪気な表情も見られました。

もちろん応用的な訓練もしています

出典Spotlight編集部

ーーユーザーさんが通るには少し狭いですね。マーチはどう判断するのでしょうか?

田中:マーチ、進んでみよう。

マーチ:(いや、これ明らかに狭いよね。田中さん通れないよね)

出典Spotlight編集部

マーチ:真っ直ぐ行けって言われたけど、狭いから避けるね。

田中:マーチ、よくできました!Good!

おわりに

出典Spotlight編集部

盲導犬の普段の生活や訓練の様子、引退後の生活など今回お話を伺って知ったことがたくさんありました。

パピーウォーカーさんをはじめ、繁殖犬のお世話、犬舎でのお世話、募金などのイベントのお手伝い、盲導犬のお仕事着を作るお手伝いなど、彼らがデビューするまでにはたくさんのボランティアの方が関わっています。

盲導犬のことを多くの方に知っていただくとともに、こうしたボランティアさんへの感謝も忘れてはいけないと感じました。

一生懸命に頑張る盲導犬を見かけたら、ぜひ応援してあげてくださいね。

<取材/黒川沙織 横田由起 文/横田由起>

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