記事提供:テレビPABLO

『クイズ☆スター名鑑』/2016年11月13日放送・TBS系

少し昔の話になる。2012年、キネマ旬報社から出ていた『コメ旬』というお笑いムックの編集長を務めていた私は『クイズ☆タレント名鑑』(TBS系)という番組に夢中になっていた。

「悪意のある番組」というのは、今でこそ乱用されすぎて陳腐化しつつあるフレーズだが、まさにこの番組にふさわしいものだった。芸能人や芸能ネタを題材としたクイズ番組という体裁をとりながら、悪意に満ちた演出が随所に盛り込まれている。

芸能人が自己破産しているかしていないかを当てるクイズ、名前が思い出せるかどうかギリギリのラインにいる有名人を探して捕まえるクイズなど、アウトとセーフの境界線で綱渡りをするような挑戦的な企画が多かった。

この番組に感じる特別な面白さを少しでも多くの人に伝えるべく、勝手に使命感に燃えて『コメ旬』で巻頭特集を企画した。

同番組の演出・プロデューサーを務める藤井健太郎氏にも快く了承を頂き、巻頭50ページにわたって番組の魅力をさまざまな切り口から紹介していった。

あかつ、GO!ピロミ、トランプマン、カラオケスーパー素人など、当時番組に出演していたサブキャラ軍団にインタビューをしたり、「ガチ相撲」のロケ企画に出ていた地下格闘技団体の三河幕府の本拠地に乗り込み、彼らと相撲で対決したりしたことは良き思い出だ。

一通りの取材を終え、編集作業が佳境に入った頃、藤井氏から突然、電話で連絡を頂いた。嫌な予感がした。

「実は『クイズ☆タレント名鑑』が3月で終了することになりまして…」

数字が良くないという話は聞いていたので、その可能性がなくはないとは思っていたが、編集者としてというよりも一視聴者として残念だなと思った。

MCの田村淳氏には、番組終了の知らせを受けて、インタビュー記事に追加して、視聴者へのメッセージを一筆したためてもらうことになった。そこにはこう書かれていた。

「どうかテレビを諦めないで下さい/いつか必ず…」

その後、演出の藤井氏は『水曜日のダウンタウン』『クイズ☆正解は一年後』『芸人キャノンボール』などの話題作を次々に手がけて、TBSのバラエティを代表する演出家の一人となった。

そういった一般ウケもしそうな王道のバラエティを制作するかたわら、『テベ・コンヒーロ』『チーム有吉』など、主に深夜枠で『タレント名鑑』的なクセが強めの番組も手がけていたのが印象的だった。

そして、田村淳氏が「いつか」と言っていたその「いつか」が、本当に来た。2016年10月16日、『クイズ☆スター名鑑』が4年半の時を経て復活したのだ。

4年半の年月は長い。MCを務めていた「マスパン」こと枡田絵理奈はTBSを退社してフリーアナウンサーに。この期間に結婚して一児の母となっている。

また、2012年当時はひな壇の中心でMCを補佐するバイプレーヤー業が中心だった有吉弘行は、現在では押しも押されもしない日本有数の芸人MCに上り詰めた。

現在ではMCとして場をわきまえた進行に徹することも多い有吉だが、この番組では解答者として日頃の鬱憤を晴らすかのように暴れまくる。捨てぜりふを吐き、野次を飛ばし、ボソッと悪口をこぼす。

『報道ステーション』終了後の古舘伊知郎が最近バラエティで見せているあの感じに近い、というと多くの人にもイメージしやすいのではないだろうか。

太田光は最近の古舘のことを「刑務所から出てきた人みたい」と語っていたというが、この番組における有吉にもそれに近いものを感じる。

11月13日放送回では「この新ネタ本当にしてる?してない?クイズ」という企画が行われていた。有名な代表作を持つ芸人たちが新ネタを披露していき、それが本物か偽物かを当てる、というもの。

ここに満を持して登場したのがコウメ太夫。『テベ・コンヒーロ』での「コウメ太夫で笑ったら即芸人引退SP」という伝説的な企画にも登場したカリスマ一発屋芸人である。コウメはこの日、ドラえもんのパロディキャラ「コウメもん」を演じるネタを披露。

不気味で、意味不明で、例えようもなく独創的。ネタを見ている間、みぞおちの奥のあたりにズシリと重いものを感じるような、あのいつものコウメワールドが展開されていた。このネタはもちろん本物だった。

ネタの後、有吉率いる芸人解答者軍団から嵐のようなガヤ攻撃を浴びたコウメは、目の焦点が定まらず挙動不審に陥る。「怖い、怖い」と芸人たちから声があがるほど、間違いなく怖い。

それでも、この番組はそんな怖いコウメの一部始終をずっと映し続けていた。コウメはそこから従来の形のネタを即興で演じることになった。期待が高まり、ハードルが上がりきっている中で、披露したのがこちら。

「氷だと思ってかじってみたら水でした」

百戦錬磨の芸人たちが全員、腹を抱え、手を叩き、笑い転げる渾身の一撃。コウメのネタが本物だったというより、コウメ太夫という芸人自体が紛れもない「ホンモノ」だった。

「悪意のある番組」という表現だけではこの番組の面白さを伝えきれない気がする。ひとつひとつの企画もキャスティングも、芸人たちのコメントもガヤもすべてが面白い。ただ、最も重要なのは、この「空気」だと思う。

我々お笑いファンは、テレビ愛好家は、この空気を味わいたくて味わいたくて、4年半もずっと待ち焦がれてきたのだ。おかげさまで、当分の間はテレビをあきらめないで済みそうだ。

コラムニスト

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。

『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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