“ミレニアル世代“によるNEOトーキョー・フィールドワーク・マガジン「SILLY」が、社会に埋もれた20代の声を代弁するコーナー「アノニマスリポート」。今回の主人公は、山田真広さん。28歳。現在、京都で旅館のプロデュース業を営んでいる。

……と書くと、なんてこともないのだが、ここに来るまでに片手じゃ足りないほどの事業をスクラップ&ビルドしてきた。それに、起業家というと自分で事業を立ち上げた人、というイメージがあるが、山田さんはちょっと違う。自分には起業センスがないと早々に見切りをつけ、著名な投資家や経営者のもと、“起業家業”をすることを選んだ。
なぜそこまで、起業家にこだわるのだろう。その動機は意外なほど単純なものだった。

「中学生の頃からお金持ちになりたかったんです。でもって、人と違うことがしたい。僕が進学した大学は、ランクもそこそこ。このまま就職しても先が見えていたので、その頃には起業志向もより明確になっていました。バイト先やインターン先も起業に役立つ経験が得られる会社を選んでいました」

そう話す、山田さんの初めての起業から現在までのいきさつを尋ねた。

出典SILLY編集部

いよいよ起業。そんな矢先、運命の人と出会った

「起業する前は、有名店のラーメンを通信販売する「宅麺.com」というサービスを運営する会社で働いていました。僕は営業担当だったので、たくさんの店主にお会いする機会に恵まれました。一杯のラーメンに店主の歴史があり、食べた人は笑顔になる。なんて人情味のある商売だろう、と。僕もラーメンで独立しようと修業先も探し、いよいよ辞表を出すというタイミングで、現在も僕のビジネスパートナーである芦野貴大に出会ったんです」

芦野さんも同じ時期、ビジネスを立ち上げる準備をしていた。山田さんは、彼と話すたび、ワクワクする自分に気づく。

「芦野は、弁当のデリバリーサービスで起業すると話していました。当時、海外でファストデリバリーが流行っていて、その日本版をやる、と。この話って、先進性があるじゃないですか。既存のビジネスモデルを真似るよりも、世の中にないことをしてアッと言わせる方が楽しそう。芦野の話はとても魅力的でした」

自分には営業の経験がある、と芦野さんに売り込み、ふたりでスタートを切ったが、競業の乱立により、環境は熾烈を極めた

「安易に起業したものだから、経営は自転車操業そのもの。気づけばふたりの全財産合わせて1,200円という状況に陥りました」

出典SILLY編集部

所持金わずか1,200円。彼がとった行動とは

首が回らない、とはこのことだ。山田さんは懇意にしていた投資家を訪ね、「このままだと会社は潰れます。何でもするので、お金をください」と、土下座をして頼み込む。そこで出された投資条件が、デリバリーサービスを畳み、新しいビジネスを始めることだった。

出された条件をのみ、資金を手にした山田さんは、投資家の指示で、とある著名経営者のもと、いろいろなビジネスに挑戦したという。オークションビジネス、ウェブメディアの運営、動画による通信販売。しかし、一向に芽が出ない。泣き言を言おうものなら、「ビジネスセンスがない」「お前たちに何ができるんだ」と、否定される。精神的に相当堪えるのでは……。

「え?だって、『何でもする』って宣言したんだから、僕らは言われたことを死ぬ気で考えながら愚直にこなすだけ。そこに自分の意志などないですよ。それどころか、成功者の考え方が知れ、経営センスを磨ける、ノウハウも学べる。こんな幸せなことはありません。とにかく信じて、うまくいくまでやろうという気持ちです」

でも、今の山田さんって起業家というよりも雇われ社長に近いんじゃ……。

「そうですね。中学生のころに描いていた社長像とは全然違います」

出典SILLY編集部

目標は起業?それとも、起業家?

経営者のもと、ビジネスを模索し始めて早1年。さらなる追加資本を受け、新たに始めたのが、京都での旅館プロデュース業である。支援者らは、一様に応援してくれているという。

「じゃあ、これを軌道に乗せたら、いよいよ手が離れますね」。なぜか聞き手の私の方が意気揚々にそう話すと、山田さんは困惑気味に切り返してきた。

「どうして、それで手が離れるんです?そのあとも業務拡大のためにやることはいっぱいありますよ。資金を返せば、それでおしまいなわけないじゃないですか」

あれ、そうなんだ。資金を返すために今のビジネスをしていて、返済し終わったら次は山田さんの本当にやりたいビジネスを始めるんだとばかりに思っていたが、どうやら違うらしい。

「自分でビジネスを立ち上げることは“センスがない”と言われた時点で一度諦めました。僕は、自分を生かせる環境のなかで能力を発揮するほうが性に合うし、自分の目線を引き上げてくれる支援者の言うことを信じて、一心にやるほうが成功率も高い気がするんです」

出典SILLY編集部

人に言われたことをこなすのが起業家ということ?そこに山田さんの意志はともなっているのだろうか。

「僕はそもそも周りに流されやすい性格なんです。こういうと自分を持っていないやつだと思うでしょうけど、よく言わせてもらえば、人と自分の考えがリンクする部分を探し、そこに自分の能力を落とし込める。目的に対する手段を冷静に見極められるんです」

やれ野心だ、自己実現だと、自分の願望を御旗に起業する人はごまんといるけれど、成功者は一体どのくらいいるのだろう。メディアを賑わす名経営者たちの輝かしい起業ストーリーだって、あとから書き直されたフィクションで、本当は失敗と挫折だらけなのかもしれない。その点、山田さんの起業スタイルは、とても現実的だ。成功までの最短ルートのひとつなのかも、と思う。ここまで来るのにたくさんの失敗と挫折をしてきているけれど。

「僕は、30近くになってもミュージシャンを目指している人と同じに見えるらしく、『お前、大丈夫?』って心配されることもしょっちゅう。でも、いちいち反応してたって仕方がない。要は結果を出せばいいんです。結局、経営も経営者も結果がすべて。成功すれば勝ちなんです」

そう話す、山田さんの口ぶりはどこまでも前向きだ。酸いも甘いもどころか、辛酸をなめてばかりの起業家人生。もっと悲壮感が漂っていてもおかしくないはずだが。

「落ち込んでも嘆いても状況は変わらない。行動あるのみです。行動しないと変わらないけれど、行動すると変わることがたくさんある。僕はそのことを経験則として知っていますから」

出典SILLY編集部

最後に聞いた。起業が難しいことを何度も身をもって知っているのに、なぜ諦めずに目指せるのか。

「そりゃ、お金持ちになりたいですから。でも、今はそれ以上に、芦野と一緒にビジネスを成功させたいし、お世話になっている人に恩返しをしたい気持ちが強いかな。それに、起業ってワクワクするんです。99%苦労しかないけれど、残りの1%が苦労に勝るほど楽しい。成功すれば、リターンも大きいですしね」

そう話す山田さん。ビジネスが大成したときもこんな表情をしているのだろうか。つい想像してしまうほど、清々しい顔をしていた。

text : 香川妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa
photographer : 榊 水麗 / Mirei Sakaki

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