記事提供:テレビPABLO

『金曜☆ロンドンハーツ』/2016年11月4日放送・テレビ朝日系

「ウケる」と「スベる」は紙一重のところにあり、世間で思われているほど両者の間の溝は深くない。たとえ全く同じことをやっていても、どういう状況で誰に向けてやるのかによって結果は大きく変わってくる。

また、「スベりすぎて(その状況が)面白い」「(周りが)ウケすぎていて(自分には)笑えない」みたいなこともあったりして、その境界線は常にあいまいである。

例えば、人気沸騰中のピコ太郎の姿をテレビで見て、あなたも思ったことはないだろうか、「あれ?意外と面白くないな」と。

インターネットを通じて爆発的に拡散し、全世界で大流行しているというあのネタも、いざテレビのパッケージの中で見てみると、期待したほどではないなあ、というガッカリ感の方が強かったりする。

「ありが玉置浩二」「驚き桃の木20世紀」といったピコ太郎のトークもどこか上滑り気味。

というのも、もともとはちょっとスベっている感じを面白がるために作られたキャラクターだったはずなのに、それが人気になって独り歩きしてしまったせいで、違和感が出ているのだと思う。

本来ならば、売れそうにないおかしな歌を歌っている、というバカバカしさ自体を面白がってもらうはずだったのに、「あの世界のピコ太郎が、なんと生で歌ってくれます!」などと過剰に祭り上げられているのだから、そこにズレが生じてしまうのは仕方がない。

ピコ太郎に限らず、芸人というのは、一定のレベルを超えて爆発的に売れ始めると、「面白い・面白くない」という価値判断を超えたところで、どんどん人気が独り歩きしていくようなところがある。

逆に言えば、そもそも「売れる」とはそういう状態になることを指すのかもしれない。

そんな「ウケる」と「スベる」の狭間で戦う芸人たちの生き様を克明に描き出していたのが、11月4日に放送された『金曜☆ロンドンハーツ』の「子供に大ウケ‐1グランプリ」。

芸人たちが、「ブレイク芸人代表」と「チョイふる芸人代表」の2チームに分かれて、小学1~2年生の子供100人の前で持ちネタを披露して、どちらが勝つかを競い合っていた。

今年売れている「ブレイク芸人代表」に選ばれたのは、出川哲朗、トレンディエンジェル、メイプル超合金、永野。

一方、少し前に人気のピークを迎えたことがある「チョイふる芸人代表」として、小島よしお、とにかく明るい安村、レイザーラモンHG、スギちゃんが出演していた。

この企画のポイントは、子供たちの生の反応が見られるということ。

出場する芸人たちも私たち視聴者の側も、「子供にウケるのはこういうネタだろう」「この芸人はウケないだろう」などと事前にあれこれ予想するのだが、それが思ったほどには当たらない。子供にウケるということは大人にウケるのとは違う難しさがある。

例えば、CM出演も多くまさに時の人となっているトレンディエンジェルは、登場した瞬間から大きな歓声を浴びて、100人中92人に支持されて92点という結果に終わった。しかし、客席に向けてキスを連発するところが気持ち悪いと思われたりもしていた。

また、ちょいフル芸人の中でも意外な健闘を見せたのがレイザーラモンHG。81点という高得点をマークした。というのも、「フォー!」のポーズの後で尻を突き出したポーズでその場で一回転するところがウケていたのだ。

つなぎのはずの場面で最も大きな笑いが起こったのは、本人にも想定外のことだろう。やはり「尻」は子供にとってひとつの鉄板なのだ。

そんな中で、興味深い結果になったのがブレイク芸人の永野。永野自身は「子供にだけはウケる」と自信満々だった。しかし、永野と言えば、大人たちの間でも賛否両論くっきり評価が分かれるような、独特の芸を売りにしている人物。

それが子供の目にはどう映ったのか?この日の永野が見せたのは「『前すいません』ばかりやっていたらイワシになってしまった人」と「クマさん応援大会」の2つ。「クマさん応援大会」では、永野が「クマさん」に扮して、かけ声に合わせて笑顔で踊る。

途中で倒れ込んだ後、観客からの声援を受けると再び立ち上がり、踊り始める。こうやって活字で説明しただけでは何をやったのかよく分からないかもしれないが、実際に見ていてもよく分からないので無理もない。

永野が事前に説明した話を受けて、子供たちは必死で声援を送っていた。その場はかなり盛り上がっていたように見えた。

しかし、結果としては42点(100人中42人が支持)。8組中最低の得点となってしまった。子供たちに感想を求めても厳しい評価が相次ぎ、永野は顔面蒼白になっていた。別室でこの状況を見ていたMCの田村淳はこんなことを言った。

「よくよく考えてみると、笑ったかって言うと笑ってはいないから」

その言葉に対して、誰よりも身も蓋もないことを言うのに定評のある小木博明もこう付け加えた。

「面白くはないんだよね」

永野がネタをやると客席は盛り上がる。でも、面白くはない。「楽しい」と「面白い」は微妙に違う。

大人ならば理解できるこの違いを、実は小学校低学年の子供たちもはっきり理解して、区別していた。永野はその境目をくっきり浮かび上がらせるタイプの芸人だったのだ。

ただ、こういう結果になったのは、永野が見る者を巻き込む力の強い芸人だからでもある。永野はもともとライブ界では「孤高の天才」と呼ばれ、単独ライブには多くの業界人や同業者も詰めかけていたほどだ。

矢沢永吉、長渕剛などが典型だが、熱狂的なファンを抱えて巻き込む力が強い人ほど、巻き込まれなかった人の目線から冷静に見たときの違和感は大きくなってしまう。

永野は、58人の子供に対してスベったわけではなく、42人の子供を熱狂させただけなのだ。

コラムニスト

ラリー遠田

1979年生まれ。東京大学文学部卒業。作家・ライター、お笑い評論家として執筆、講演、イベントプロデュースなど多方面で活動。

主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

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