記事提供:日刊サイゾー

自殺大国と呼ばれる日本。まったく不名誉なことだが、毎年3万人近い人が自らの命を絶ち、世界トップクラスの自殺率という事実がある。けれど、国内にも、自殺が多い地域と少ない地域がある。それは、一体なぜなのか?

『その島のひとたちは、ひとの話をきかない――精神科医、「自殺希少地域」を行く』(青土社)は、精神科医の森川すいめいさんが、自殺で亡くなる人が少ない地域“自殺希少地域”の5カ所を訪れ、それぞれ1週間ずつ滞在した記録だ。

調査というほどカッチリしたものではまったくなく、森川さんは、現地で暮らすできるだけ多くの人に声をかけ、雑談をした。

少し関係が深まったと思ったときに、「自殺で亡くなる人が少ない地域と聞いたのだけど、どうして?」と聞く、あるいは、「生きやすい地域だと聞いたのだけど、どうして?」と尋ねた。

自殺が少ない地域と聞いて、どんな場所を想像するだろうか?

個人的には、人の良さや将来への希望がある場所ではないかと思った。森川さんは、ゆっくり休めて癒やされる、そういう空間があるものと期待した。けれど、最初に訪れた「自殺希少地域」のひとつ、徳島県海陽町の旅館へ到着して、ガッカリする。

友人の友人に「この地域のことは、この旅館のおやじさんに聞いたらいい」と案内された旅館だったが、特に旅館らしい丁寧なおもてなしがあるワケではなく、浴衣は潮風でパリパリ。用意されたお菓子の賞味期限を確認すると、ちょっと切れていた。

それで、従業員のおばちゃんにそのことを伝えると、「へっ?」と驚き、「ほお。ほうかほうか。さすが若いひとは、そういう気にすんのやね。ほうかほうか」と、まったく悪気のない様子で、「わかったわかった、おばちゃん、新しいのもってきといたる」と言って、すぐにいなくなってしまった。

その後、もらったお菓子は、おそらくおばちゃんが家から持ってきたものだった…。

また、同じ町に滞在中、親知らずを抜いたばかりで、痛みでどうしようもなくなってしまった。最初はスマホで歯科医院を探していたが、ゴールデンウィークだったので、どこも閉まっていて、電話をしても、当然断られる。

困り果てて、旅館の主人に相談した。

すると、「この町の歯医者は今日は休みやけど、さっきいるの見たから起こしてきちゃろう」とか、「ここから82キロ先にある歯医者が今日はやってるのがわかったから、送るわ」と、いろいろなツテを使って情報をかき集め、その場で、解決してくれようとした。

その結果、近所の人たちから、「あんた、歯が痛いひとやろ、大丈夫か?」と声をかけられることになるのだが、それは、田舎特有のウワサがすぐに広まってしまう、というようなどこか暗いものではなく、本人まで筒抜けのウワサ話だった。

なお、最終的に、近所に住んでいた元看護師さんの家に案内され、事なきを得た。

森川さんは、こうした“ちょっとした”出来事であったり、そこに住む人々の人と人の関わり合いを垣間見る、あるいは、体験することによって、なぜ「自殺希少地域」なのか、納得をしていく。

その最も大切なことは“対話”だ。とにもかくにも、対話をすること。困ったことがあれば、人に相談し、ひとりで抱え込まない。

この本には、ある意味では、当たり前のことが描かれている。

けれど、都会で暮らす人にとっては、「あぁ、もっと人に助けを借りてもいいんだ」とか「もっと適当でいいんだ」とか、少なくとも日本にもそういう地域があるということが感じられ、ほっとするだろう。

このほかの「自殺希少地域」でも、たくさんの“ちょっとした”気になる出来事がちりばめられている。それぞれのエピソードに驚き、笑って、なるほど、そういう人付き合いや心の持ち方って大切だな、なんて思う。

心の病を持っていなくても、日本には、都会で生活する独特の息苦しさや、仕事で多忙な毎日に疲れ切っている人も多い。そんな人たちにとっても、生きやすさとは何かを考えるきっかけになり、小さなヒントを与えてくれる一冊だ。

・もりかわ・すいめい

1973年まれ。精神科医。鍼灸師。現在、医療法人社団翠会みどりの杜クリニック院長。阪神淡路大震災時に支援活動を行う。

また、NPO法人「TENOHASI(てのはし)」理事、認定NPO法人「世界の医療団」理事、同法人「東京プロジェクト」代表医師などを務め、ホームレス支援や東日本大震災被災地支援の活動も行っている。

アジア・アフリカを中心に、世界45カ国をバックパッカーとして旅した。著書に『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫)がある。

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