2016年11月2日の読売新聞で、髭男爵の山田ルイ53世が語った自身の6年にも及ぶ引きこもり経験が、多くの人の心を揺さぶっています。

有名私立中学に通い、近所から神童と呼ばれていた山田ルイ53世さん。偏差値73、成績は学年で3番以内。サッカーを始めた時にはすぐにリフティングが200回できたほどの運動神経の良さ、まさに何でも出来る完璧な少年でした。

しかし2年の夏休み前、登校中に突然の腹痛に襲われうんこを漏らしてしまいます。そしてそれが恥ずかしく、2学期が始まっても学校に行く事が出来なくなったのです。

うんこがきっかけで6年間の引きこもりに

神童と呼ばれた中学2年の男子生徒が、うんこを漏らしてしまうという出来事は、自尊心を傷つけるのには充分でした。しかし、これは引きこもる為の単なるきっかけに過ぎなかったのでしょう。この頃の山田さんは、すっかり消耗していたのです。

学校が遠く、部活して遅く帰って勉強して、ちょっと寝て学校へ行くという毎日に限界がきていたところでもありました。中学受験のころ始めた勉強のルーティーンがエスカレートしていました。

出典読売新聞 11月2日

自分で決めたルーティーンでしたが、それに囚われてしまっていました。勉強をするのに、部屋のゴミの全てを取り去り、家具や文房具などあらゆるものを拭くような病的な状況になっていました。シャープペンの芯が折れて絨毯に紛れてしまうと見つかるまで気になって勉強も手につかない、段取りに絡め取られ夏休みの宿題さえ出来なくなっていたのです。

最初は1週間程度休もうと思っただけでした。しかし休んでいるうちに「引け目の利子」みたいなものがどんどんとたまり、そのまま休み続け、引きこもり状態は6年もの間続く事となるのです。

自分を諦めてあげられなかった

引きこもっている間に次第に太り、洋服が入らなった為、部屋では半裸で過ごしました。屋根の上で日光浴をしたり、天体望遠鏡で道行く人を眺めるなどの行動が、近所の目に止まり責められる、家族との関係も悪化し、孤独感が強くなる一方でした。

「学校を休む」と告げた時、父親にはドロップキックをされたそうです。「それまで完璧な息子だったから、子供に対処する引き出しに方法が何もなかったんでしょう」

親に強く言われコンビニでアルバイトもしますが、友達に見られるのが嫌で辞めてしまいました。自分が最高潮だった時の未来はもう無理だと思うと落ち込み、「人生が余った」と思って過ごしていました。

自分を許してあげられなかった、諦めてあげられなかったのが、苦しむ原因になりました。

出典読売新聞 11月2日

引きこもっていた6年間は無駄だった

中学2年で引きこもった山田ルイ53世さんが外に出るきっかけは、TVで見た同年代の成人式でした。「ここを逃したらもうあかん」と思い、再び勉強を始めます。再びルーティーンに苦しむも、気持ちを切り替える事ができる様になりました。

夜間の大学に入るも「勉強では負けた」という気持ちは消えませんでした。そして「生きる土俵をずらそう」と考え、大学を中退してお笑いの道へ進んだのです。

こういうと批判される事がありますけど、6年間はムダやった。あくまで僕の場合は、ですけど。でも、そのムダが許せないのが一番問題なのかなとも思う。

出典読売新聞 11月2日

山田ルイ53世さんは、これまでも引きこもりに関するインタビューに度々答えてきています。しかし「引きこもっていたからこそ今がある」の様な美談にする事には大きな違和感があるともその都度、語り続けてきました。

「取材で『今から見るとダメじゃなかったのでは?』と聞かれることがあるんですが、無駄です。人生の豊かさという意味で完全にロス。みんなと一緒に楽しく勉強して遊んだ方が絶対にいい。人生設計的にも苦境に追い込まれますからね。美化するのは違うと思うんですよ」

出典 http://www.tokyo-sports.co.jp

引きこもってる状態がなにかにつながることなんて、多分ほとんどないです。経験上ですけど。(取材する人は)「あの6年があるから今の自分があるんです」みたいなことにしたいんですけど、僕はほんまにはっきりと、引きこもってた6年間は完全に無駄やと思うてます。

出典Go-Betweens主催イベント『“普通”じゃなくたって、いいじゃないか!』2016年8月30日

ただ生きているだけって事が責められない世界が正常

『「無駄でもいいじゃないか」とリセットしたらええのに』と語る山田ルイ53世さん。いつも生き生きと過ごす事が良い事だという考えは、逆に「そう出来ていない自分」を追い詰める事になってしまう場合もあります。

みんながキラキラしてないとだめだっていうのはウソですみんなが輝かしいゴールを切れるわけでもないのに、「みんなそうなろう」って風潮があり過ぎる。なんにも取りえがない人間が、ただ生きていても、なんにも責められれへん社会、いうのが正常です

出典読売新聞 11月2日

無傷でピカピカのまま年を重ねるなんて無理。納得がいかない状況をのみ込んだり、見て見ぬフリをしてやり過ごすことを覚えましょう。自分に対してあきらめ『そんなのできへんで』と自分に言えるようになると生きやすくなります。
引きこもってわかりました。人は一人で生存はできても、生きてはいけないんです

出典 http://www.tokyo-sports.co.jp

山田ルイ53世さんは、引きこもりの時期の事を著書「ヒキコモリ漂流記」に綴っています。親子関係や、子供時代の苦悩、大学中退後の多額の借金、債務整理など、幾度となく人生を投げ出し続け、そしてそこからの復活。

決して美談ではありませんが、美談ではないからこそ多くの人の心を揺さぶり、そして染み込む名著である事は間違いありません。

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