“ミレニアル世代“によるNEOトーキョー・フィールドワーク・マガジン「SILLY」が、社会に埋もれた20代の声を代弁するコーナー「アノニマスリポート」。今回の主人公、松川理々子さんは、彼女が5歳のころに起きたアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、国際問題に興味を抱くようになった。

高校の卒論は、女性の人権問題をテーマに選び、大学入学と同時に、途上国の人身売買問題に取り組むNGO団体でインターンシップを始めた。しかし、強い動機で臨んだにもかかわらず、半年で音を上げることになる。

「自分の知識や問題意識が浅かったんです。原因は自分のなかにありました」と話す、松川さん。しかし、インターンを辞めて1年以上が経つというのに、当時のことが今も心で燻ぶっている。

人に話すことで気持ちが整理できるかも、と今回のインタビューに応じてくれた。

出典SILLY編集部

夫に鼻を削がれた女性の写真が、将来の目標を与えてくれた。だけど…

国際問題のなかでも、人権問題に強い関心を寄せてきた松川さん。特に影響を受けたものがあるという。

「決定的だったのが、『TIME』誌の表紙にもなった、アフガニスタンのビビ・アイシャさん。夫の暴力から逃げ出すものの捕まり、鼻を削がれた女性です。こんな行為がまかり通る世界が確実に存在すること、それでも強く生きる彼女と自分の年齢が近かったことに衝撃を受けました。それからは、今まで以上に自分ができることを探すようになっていきました」

その第一歩が、人身売買問題に取り組むNGO団体でのインターンシップだ。

「私の役目は、活動費である寄付金を集めることでした。本来であれば、自分が集めた寄付金が現地に還元されることをモチベーションとすべきでしたが、私の場合はプレッシャーになってしまいました

というのも、周囲は私よりも意識の高い人ばかり。どんどん気後れしちゃって。やがて、知識も経験もないんだから、せめて寄付金だけはしっかり集めなければ、と自分を追い込むようになり、気持ちだけが空回りするようになって…。

結局、社会で通用しない自分を思い知り、自滅してしまいました。国際協力云々以前の問題だったんです」

出典SILLY編集部

知識が浅かったり、仕事の成果が出なかったりというのは、経験による部分もあるだろう。そういったことに悩む以前に、国際的にも大きな問題に立ち向かうことへの矜持や高揚感はなかったのか。

「自分の考えをブラッシュアップするのが精一杯。そんな余裕はありませんでした。それどころか、彼女たちを理解していると思っている、その気持ちが傲慢なんじゃないのかという自分への疑念が生まれ、気持ちが揺れましたね。何を思って問題とし、何を思って行動に移すのか、その概念が定まらず、国際協力が突然大きなものに感じるようになったんです」

自分の意見を押し付けることはできない。だって、価値観が違うから

答えに確信が持てなくても、松川さんが幼いときから関心を持ち続けてきたテーマだ。インターン生として現場の空気に触れ、自分なりの新たな考えに行きつきはしなかったのか。

「うーん。でもだからといって、自分の正義を押し付けることは、やっぱり複雑です。私は、売春させられている人たちは、将来の選択肢を明らかに奪われていると思うけれど、当事者のなかには、家族にお金を送れなくなるという現実や責任感から、売春をやめたいと思わない人もいるんです。親のなかにも娘を売れば大金が入ると喜ぶ人がいる。日本人と同じ価値観で接しても理解が進まないんです。

自分が正しいと思うことが、途上国では通用しない。いろんなことに圧倒され、考えが八方ふさがりになりました。インターンを辞めてからも、しばらくは鬱々としていました」

出典SILLY編集部

あのときの答えはまだ出ない。ただ、彼女たちの人生に心が震える

それから1年以上が経つ。あのときを振り返って、いま何を感じているのだろう。

「当時は、間違いなく一生懸命でした。でも、いま思うと動機が軽かったように思います。プレッシャーに負けたこともトラウマになりました。

いまでも自分の判断基準が曖昧なので、なんて話せばよいのか迷いながら話しています。当時の振り返りが必要なことは理解しているのですが…。

ただ、確信を持って言えるのは、いまでも彼女たちが生きている世界のことを考えると心が震えます」

そう話すのが精いっぱいかのように、松川さんは口をつぐむ。

出典SILLY編集部

彼女が、戸惑い迷いながら見つけた新しい目標とは

まだまだ自分の答えを模索している松川さん。枚の写真に心が動かされた高校時代。あのときの気持ちに立ち返ることはもうないのだろうか。

「国際協力の在りかたに明確なビジョンを持てないのに再び携わってもよいのか、釈然としていないのが正直な気持ちです。それに国際協力という仕事は世界のどこかに問題を抱えている人がいるからこそ成り立つ仕事であり、そのおかげで自分が収入を得て、生活することにも抵抗があります。

でも、この考えに相反するかのように、辛い目に遭っている人のために力になれる自分になりたいとも思うんです」

真面目すぎるほど一直線な松川さんが紡ぐ真摯な言葉たち。抜け出すことのできない迷路をさまようかのようで、聞いていて切ない。理想と現実。大小問わず、毎日湧いては流れていくそれを、ずっと心に留めておくのは苦行に近い。自分の範疇外であればあるほど、なおさらに。

「ただひとつ言えるのは、国際協力にはお金が必要だということ。第一線にいる人の多くは、知識も能力もあるのにお金がないから助けることができないと言います。

そこで、私の活かし方なのですが、技術や知識を持つ人と困っている人をマッチングすることはできないのかな、と。社会貢献活動に積極的な企業は多くありますので、そういった組織に入って支援を続けることも、ひとつの関わりかたなのかも、と考えています」

ここでインタビューは終えたのだが、後日、松川さんから届いたメッセージには、その続きが書かれていた。

「あのころの私は自分の責務に苦しみ、自滅してしまいました。彼女たちに貢献できたという実感はあまり持てなかったけれども、先日のインタビューのおかげで、気持ちが整理できました。

いま思っているのは、微力であっても、間接的であったとしても、やはり人権問題に貢献できる自分になりたいということ。そのための力をつけるべく、これからは自分としっかり向き合い、勉強にも励もうと思います」

出典SILLY編集部

あなたもまた、自分で登ると決めた壁の大きさにおののき、そこから立ち去った経験はないだろうか。いまでも思い出すと胸がチクリと痛んだり。でも、時間が経てば、解決の糸口が見つかったり、自分なりに受け止め、昇華できたりもするものだ。

あの日、志半ばに諦めたものがある人は、今日を機会に向き合ってみてはどうだろう。新たな目標に向け、まい進し始めた、この松川さんのように。

text : 香川妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa
photographer : 榊 水麗 / Mirei Sakaki

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