「消費税の輸出還付金」に関して大企業を叩く論調が多く見られますが、これに異を唱えるのはメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で、Windows95の設計にも関わった世界的プログラマーの中島聡さん。

中島さんは各メディアに踊るそんな意見を簡単な数式で論破した上で、「還付金よりももっと問題視するものがある」と指摘しています。

私の目に止まった記事

中小業者が苦労して納めた消費税収19兆円から3割以上の約6兆円が大企業の懐へ、消費税の輸出還付金は大企業への補助金

消費税が5%から8%に上がった際に、売り上げの多くを輸出に頼る大企業が受け取る「消費税の輸出還付金」が増えることに対して、「得をするのは大企業ばかりという的外れの意見をよく見ましたが、未だに続いているようです。

この記事では、「中小企業が苦労して集めて収めた消費税が還付金として大企業に渡されている」点を問題視していますが、よく考えてみれば、これは間違いであることが分かります。

問題を明確にするために、仮にトヨタ自動車は60%輸出で成り立っている企業で、かつ、電装がそのすべての部品を提供している会社だとします。

2016年に、トヨタ自動車は、電装から部品を5,000億円で購入し、自動車に組み立てた上で、1兆円で販売しているとします。

60%が輸出なので、海外での売り上げが6,000億円国内での売り上げが4,000億円です。また、地方自治体の存在も無視して、消費税はすべて国が扱うと仮定します。

電装のトヨタ自動車に対する5,000億円の売り上げは、日本国内での取引なので、消費税8%がかかります。

そのため、トヨタ自動車は5,400億円を電装に支払い、電装はそのうち400億円を国に納めます(話を簡単にするために、電装は部品の作成に必要な材料は、すべて消費税のかからない海外から輸入していると仮定します)。

小学生でもわかる簡単な計算で「疑惑」を論破

一方、トヨタ自動車は、組み立てた自動車を、国内外で売りますが、国内で売る4,000億円には320億円の消費税がかかります。

トヨタ自動車は、その消費税を自動車の購入者から徴収しますが、電装から必要な部品2,000億円分を購入した時に(電装を通して国に支払った)消費税160億円を控除することができるので、国に納めるのはそのうち160億円だけです。

さらに、残りの売り上げ6,000億円は輸出であるため、その部品3,000億円を電装から購入した際に(電装を通して国に)支払った240億円を還付金として国から受け取ることができるのです。

消費税の徴収の仕組みは、二重課税を避けるための仕組みがあるために一見複雑になっていますが、実は良く計算されています。

最終消費者(自動車をトヨタ自動車から購入した人たち)は、合計で320億円の消費税を支払っています。

電装はトヨタ自動車から受け取った400億円をそのまま国庫に納めているので、消費税に関しては、差し引きゼロです。

トヨタ自動車は、消費者から320億円の消費税を受け取ってはいますが、そのうち160億はすぐに国庫に納めています。

さらに電装から部品を購入する際には400億円の消費税を支払っていますが、還付金として240億円を受け取っているので、320‐160‐400+240で、やはり消費税に関しては、差し引きゼロになります。

は、電装から400億円、トヨタから160億円の消費税を納税されていますが、還付金としてトヨタに240億円支払うので、差し引きでは320億円の消費税を受け取ることになります。

つまり、差し引きで考えると、最終的には、国内で販売された4,000億円の自動車にかかった320億円の消費税だけが国庫に残り、トヨタ自動車も電装も、消費税に関して言えば、差し引きゼロで損も得もしていない仕組みになっているのです。

還付金よりも問題視されるべき「大企業の悪行」とは

上の記事を書いた人は、還付金の部分だけを見て「電装が苦労して収めた消費税を、トヨタ自動車が還付金として受け取っている」と文句を言っているのですが、これは大きな勘違いです。

還付金は、トヨタ自動車が電装から部品を購入する際に払った消費税のうち輸出分に相当する分を払い戻してもらっているだけなのです。

一方、これとは違う話ですが、実際に消費税増税が中小企業を苦しめるケースもあり、そちらは大いに注目に値します。消費税が5%から8%に上昇した際に、大企業が部品を提供する下請け企業に対し「消費税の上昇分の値引きを迫るケースです。

立場の弱い小さな町工場あたりだと、顧客から「消費税の上昇分の値引き」を迫られた際に断れなくなるケースが実際によくあるそうです。

そもそも粗利益率の高くない下請け会社にとっては、売り上げの3%に相当する値下げは、非常に重い負担なのです。

ただし、その場合にも、決して、下請けが消費税を過剰に支払ったり購入側が消費税を着服したりするわけではないので、そこは正しく認識する必要があります。

国は、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」という、不当な値引きの強要を禁止する法律を作りましたが、必ずしも守られていない上に実体の把握が難しいのが現状です。

つまり、問題視すべきなのは還付金ではなく、(実際に幅広く行われている)大企業が下請け企業に迫る「消費税の上昇分の値引きの強要」なのです。

この記事は、全国商工団体連合会の発行する新聞に掲載されたようですが、そんな媒体に、こんな的外れの記事が書かれてしまうこと自体が私にはどうも納得できません。

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス