“ミレニアル世代“によるNEOトーキョー・フィールドワーク・マガジン「SILLY」が、社会に埋もれた20代の声を代弁するコーナー「アノニマスリポート」。今回は、「何もない田舎を、とにかくブチ壊したい」そう熱く語る若者のお話。

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「僕も同じような生き方をしていたかも。彼らは本当にもったいないんです」

そんな言葉を発するSくんは、現在21歳。大学で学ぶ傍ら、ブライダル事業を営む会社の代表を務めている。東京に近い地方都市出身のSくんは、中学までを地元で過ごした。高校は野球推薦で他県に進学。大学入学を機に上京し、今に至る。

彼は言う。野球があったからこそ、自分の道を進むことが出来た。地元に残っていたら今の僕はどうなっていたのだろう、と。

出典SILLY編集部

「男友達は、だいたい職人デキ婚して親になったやつもいる。みんな頑張ってはいるんだけど、精神的には昔とそう変わらない。そこは今の僕も大差はないけれど、これからどれだけ成長できるのか。田舎じゃ、限界がある気がする

なにもこれは、Sくんの地元に限った話ではないはずだ。ロールモデルは、地元や職場の先輩。先輩が乗る車に憧れ、背伸びをして高級車を購入し、夜な夜な乗り回す。カッコいい車に乗ることが、自分たちのステータスであり、仲間意識でもある。そんな友人のひとりやふたり、地方出身の人なら思い浮かぶのではないだろうか。

「そうならなくて良かったって思ってる?」

あえて嫌な聞き方をしたところ、返ってきたのが冒頭の言葉だった。

出典SILLY編集部

人生のレールは、 自分が選ぶ前に敷かれてる

中学時代のSくんは、どちらかというとドロップアウト組だったという。

「勉強する前の時点でつまずいたというか。なんで、勉強しなきゃいけないんだろう、と。その理由を先生は教えてくれない。自然と学校から足が遠のいて、あまり真面目には通いませんでした」

日中は自宅で過ごし、夕方になると友人の集まる場所に出かけ、深夜まで徘徊する。そんな毎日を繰り返していたという。

「つるんでいた連中のほとんどが、ひとり親。夜出歩くことを咎められる友人はいませんでしたね。集まって何をしていたのかって?親の車やバイクを運転してくるやつがいたんで、交代で乗ってドライブしたり。さすがに僕はそこまでの悪ノリはしませんでした。ただ、このことを知りながら黙認する学校の先生には憤りを感じていましたね」

学校へはほぼ通わず、夜遊びを繰り返す自分たちを大人に咎めてもらいたい。そんな矛盾を持て余しているうちに、進路を決める時期がやってきた。品行方正とはいえないSくんだが、なぜ推薦で高校に進学できたのか。

「僕、なぜか人望だけは厚くて(笑)生徒会役員だったんです。それで内申が良かったのと、小さいころからクラブチームで野球をしていて、練習だけは真面目にやっていた。だから、先生も『高校に行ったら更生するんじゃないか』と、思ったみたいで」

奇しくも、Sくんの高校生活は、中学の先生の思惑どおりに進んでいった。寮に入り、野球に打ち込む日々。自然と環境が整い、学生の本分である勉強にも身が入ったという。

「でも、環境が変わらなかった友人らの今は……。ひとりひとり夢や目標もあるし、上昇志向もあるんだけど、周りは“今”のあいつらをみて判断する。彼らの思いに応えてくれる環境も田舎にあるとは思えない。このまま社会に取り残されていくんじゃないかって、なぜか僕が焦るんです。それまでの人生で、一度でもきっかけがあれば、別の道もあったと思うんだけど。そんなやつらの子どもや、そのまた子どもが、同じような人生を歩む可能性は否めない。これって、まずくないですか」

出典SILLY編集部

一番の解決策は、愛情あふれる家庭で子どもを育てること

この負の連鎖は、どうやったら断ち切れるのだろう。今のSくんには、ふたつの解決策が思い浮かぶという。

「この無情なスパイラルは、家族や教育という視点からアプローチすれば、変えられると思っています。

僕は、勉強しろと言うばかりで理由を答えられず、臭いものに蓋をするような教師に辟易としてきました。でも、いまはこう思うんです。教師になるような優等生に、非行する生徒の気持ちなんてわからない。そこに期待することがハナから間違っている、と。

今は、カウンセラーが常駐する学校も多いと聞きます。似たような感覚で、それこそ昔は不良だった人が、生徒の相談相手として校内にいれば良いんじゃないのかな。学校は塾とは違い、勉強だけを教える場所ではないはず。いろいろな背景を持つ子どもに寄り添える大人が、学校教育のなかに必要だと思っています」

そう一息に話したSくんは、小さく深呼吸をしたあとに、もうひとつの策を聞かせてくれた。

「でも、一番は親なんですよね。子どもの人格を形成し、生きる術や力を身につけさせられるのは、親だけ。だからといって、何かする必要はないんです。ただ、背中を見せてくれればいい

僕は、高校のときに父親が亡くなり、それまで専業主婦だった母が働きに出て、そのあとの生活を支えてくれました。その苦労は計り知れないものだったと思う。母の苦労に報いるためにも僕は甲子園を目指して野球に打ち込んできた。

この野球ですら親がきっかけを与えてくれているんです。そういうことに気づけたら、立派な大人になって親孝行したいとだれもが思うはず。それこそ深夜に出歩いている暇なんてないですよ。親への感謝の気持ちを育める家庭環境は特に必要だと、僕は体験を通して感じています」

出典SILLY編集部

子は親の背中を見て育つ いまの僕ができること

明確な課題と意思を持つSくん。彼が手がけるブライダル事業にも、後世に向けた布石を置いているという。

「結婚式のなかに、地方で農業や漁業を体験できるプログラムを用意しているんです。結婚式を挙げるカップルは、挙げないカップルとくらべて離婚率が低いというデータがあります。つまりは、ひとり親の家庭が生まれにくいってこと。親が揃う家庭の子どもは、拠りどころがあるので、諦めずにいろいろなチャレンジができると思うんです。そして、地域活性化は若い世代の自信や活力につながるはず。この事業を自分の地元にも誘致することが、僕のひとつの目標です」

出典SILLY編集部

「僕らの世代は、東京に出るか出ないかで、人生が決まるように思っている。その根底にある『田舎に選択肢がない』という現状を変えていきたい。何もない田舎を、とにかくブチ壊したいんです!」

「自分は自分なりに、今を頑張っている」と話すSくん。彼の頑張りを鼓舞する理由のひとつが自分たちであることを、Sくんの友人は知っているのだろうか。もしかしたら、知っていながら、うざったく思ったりしているのかもしれない。

でも、だれかが立ち上がることをしなければ、現状は何も変わらない。Sくんのように、田舎のために一肌脱ごうと立ち上がる人が、この先も増えていくことを願いたい。

text : 香川妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa
photographer : 延原優樹 / Yuki Nobuhara

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