記事提供:messy

出典 https://flic.kr

内閣府結婚応援フォーラムで社会学者の山田昌弘氏が発表した内容 http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/kekkon_ouen/pdf/s1.pdf がネット上でちょっとした話題になっています。

一言で言うと、少子化対策として「結婚をうながすためには、恋愛に憧れる環境を行政が作るべき」という提案をしているのですが、これがツイッターなどで批判されています。

目を通してみると、根本的なズレを感じました。山田氏は若年世代の貧困や就労問題を研究しておられますが、こと結婚に関してはご自身が若者であった頃のままの感覚なのかもしれません。

ここで少し私自身のことを話すと、アメリカ在住で夫はエクアドル人。お互いに大学院生なのでお金は全然ありません。

数年間の付き合いを経て最終的には勢いで結婚してしまいましたが、決め手は「この人と一緒だったら人生楽しそうだし、飽きないだろうな。

自分の学問やキャリアも生かせるな」と思えたこと、つまり自分を一切犠牲にせずに、一緒にいることで楽しさが二倍になる相手だと思ったことでした。

この人と結婚する前、私は何度か日本で結婚しようとしたことがありましたが、結局タイミングやキャリア、人生に対する考え方が合わず、結婚には至りませんでした。

私自身にまだまだやりたいことがあったこと、相手に合わせて自分の人生の選択肢を狭めることができなかったことが大きな原因です。

相手に合わせようとしたこともありましたが、将来の話をしているうちにどうしても「あなたはどうしてもやりたい仕事をしているわけでもたいして稼いでいるわけでもないのに、なんで私ばかりに『俺か仕事(海外)か』みたいな選択を迫るのよ」という怒りがふつふつと湧いてきて、イライラを相手に当り散らしてしていました。

相手に不満があるので「もっといい人がいるだろう」と思って、フラフラといろいろな人を物色したりもしていました。

そうして「女ばかり選択をせまられるのが日本だな」とある日、理解したのです。日本で「普通の結婚」をするのは無理だなと悟った瞬間です。

「結婚」に対してポジティブなイメージを抱けない日本社会

今の非婚、晩婚の現状を見ていると、「普通の結婚」にハードルを感じているのは私だけではないようです。

山田氏は近年の未婚化の理由として、若者(特に男性)の経済力低下、男性が経済的に扶養するものという意識(専業主婦志向が強い)、親と同居していつまでも待てるパラサイト・シングルという三つをあげています。

確かに男性の経済力が低下している中で専業主婦と子を養うのは難しくなっています。しかし、同時に女性の労働参加率も高くなっており、働いている既婚女性も増えています。

問題は、働いているにもかかわらず既婚女性が「専業主婦」のように家事や育児の負担を多く担うことが自明視されている点です。

就労と家事という二重の負担を背負わなければならず、「替え」がきかず、家事代行サービスや保育園制度も使い勝手が悪かったり高額だったり、下手をすれば「悪い母・妻」のレッテルさえ貼られかねない中では、外での仕事の優先順位を落とし、できれば専業主婦になろうとするのも当然の流れです。

女性自身もそれなりに働くとしても、生活の安定のためには基本的な家庭の収入をまかなうことができる男性を結婚相手に求めざるをえません。すると女性の多くが自分より稼ぎの少ない男性とは結婚できないと思うのも仕方の無いことです。

では、彼女たちが求める「自分よりも良い稼ぎ」というのはどの程度のものでしょうか?

明治安田生活福祉研究所の2016年調査によれば、結婚相手に希望する最低年収は20代未婚女性の19.8%が400~500万、11.9%が500~600万、7.3%が600~700万円以上、12.4%が5700~1000万、と答えており、半数以上が400万円以上と答えていることになります。

これは裏を返せば、約半数の女性は年収が400万以下の男性と結婚しても良いと考えているということです。実際、20代未婚女性の3.4%が300万未満、27.1%が300~400万を結婚相手の最低年収にあげています。

一方、同調査の20代男性回答者の年収分布を見てみると20代男性で400万円以上の収入があるのは15.2%、30代男性でも37.0%にとどまります。

詳細を見てみると、20代男性で一番多い回答は200~300万円未満、次に多いのは100~200万円となっており、未婚女性の希望を満たす収入を得ている若年男性の少なさが目立ちます。

厚生労働省の賃金構造統計調査によれば、平成27年度の25~29歳の男性の平均賃金は243.2万円、同女性は221.5万円となっています。平均的な賃金の二十代後半の男女二人が出会って結婚したら、世帯収入は465万円程度となります。

二人が結婚して東京近郊で住み、子どもは30代前半で産む、としましょう。30~34歳の男性の平均賃金は282.6万円、同女性は238.4万円となっています。

子どもが成長するにつれ食費も学費もかさみ、思春期になれば子どもの部屋が必要になるでしょうから、それなりのサイズの家への引っ越しを検討することになるかもしれません。途中で二人目が生まれる可能性もあるでしょう。

しかし同調査を見ている限り、賃金のピークは50~54歳で男性430.1万円、女性266.8万円となっており、将来的にもあまり給料は伸びません。50代の夫婦で高校生の子どもが二人いる四人家族では、夫の給与430万で暮らしていくのはかなり苦しいはずです。

妻が共働きして267万円を稼いだとしても、家庭内の家事・育児負担を妻が全面的に担ってこの家庭がようやく維持されているのではないでしょうか。

もっとも、東京都の男女計平均賃金(40代)は全国平均304万円より高く、383万円となっています。それでも40代で夫の収入が400万程度なら、共働きでなければ、生活費に加えて家のローンや子どもの学資金などを払っていくのはそうとう苦しいと思われます。

1億総活躍にせよ、内閣府結婚応援フォーラムにせよ、これらは少子化問題の解決策として検討されているものですが、「出会えば結婚するだろう」「結婚に憧れがあれば結婚するだろう」というほど単純な問題ではありません。

まず、少子化の原因は結婚する/しないではなく、子育てが辛そうにしか見えない、子どもが欲しいと思えない、子育ての経済的負担、物理的負担が重すぎる、といった社会環境の問題です。こういった負担が目に見えて想像できるからこそ、余裕の無い若い人たちは、子どもを持つことが自明視されている結婚に踏み切れないのです。

以前少しお話ししたように、安倍政権が想定する「理想の家族」というのは、夫が大黒柱で妻も共働きでしっかり働きながら介護・子育て・家事を全面的に担う。それができなければ祖父母や親族を頼り、家族内で問題を解決する、というものです。

女性の立場で言わせてもらうなら、バカバカしくてやってられません。ますます就労しなくていい専業主婦がベストな選択に見えてきます。男性にしても、もはや大黒柱どころか自分の生活だって危ういのに専業主婦希望の女性に費やす時間もお金も無いはずです。

また、仕事を通じてしっかりと稼いでいる女性であれば、一般的な日本の勤労男性が相手の女性に迫る「俺かキャリアかを選べ」にはついていけません。日本の勤労男性の「俺」というのは「全国・全世界転勤もありの俺を支えてる人生」だからです。

しかも、「じゃああなたを支える人生を選びます」と専業主婦になる道を選んで全国転勤についていっても、結局、夫はたいして稼げないので、自分もパートなど非正規雇用で働くことになるのです。

しかも、専業主婦扱いなので家事や育児の負担をすべて担わなければなりません。そんな結婚、したいと思えるでしょうか?無理です。カップルや結婚に対する憧れが無いからというより、良いイメージを持てる要素が皆無なのです。

結婚を真剣に検討すればするほど、その難しさや困難さが見えてきてしまうのが今の日本の結婚・家庭のあり方なのです。付き合っている人がいて、真剣に将来を考えていても結局結婚まで踏み切れない、それが今の日本です。

それならば最初から人を好きにならないようにして、新たな出会いも避け、夢など見ない方が楽で堅実で、お金も時間も無駄にしないですみます。

切実な問題として、これだけ低賃金で収入上昇の見込みも薄いとなれば、普通に男女が出会って、結婚して、子どもを産むというプロセスを前提にしていてはいつまでも少子化は改善されません。

このプロセスの中で、これまでの「専業主婦のいる家庭」を「兼業主婦のいる家庭」に転換するのは、下手すればさらに婚姻率を下げる結果になるでしょう。

政府が率先して主導すべきは、これまでの価値観を補強して「結婚して子どもを産んで」と押し付けがましく迫るのではなく、「結婚しなくても子どもは産める」「結婚しなくても家庭は築ける」「お金がなくても家庭はなんとかなる」「家庭にはいろんなパターンがある」といった多様な選択肢を検討し、政策に反映させていくことではないでしょうか。

アメリカの大学院には学生結婚はもちろん、妻が遠方の大学にいるので自分が子育てをしているワーキングファザーの教授、 子育てしながらフルタイムで働いて博士論文を書き上げてしまうシングルマザーなど、日本だったら考えられないような二足のわらじ、三足のわらじをやりとげる猛者がゴロゴロいます。

彼らはメイド、ベビーシッター、低所得者向け保育サービスなど様々なサービスはもちろん、どうしても無理なときには子どもを連れて授業に来たり(学生側も教授側も)と、周囲や社会の助けを借りて不可能を可能に変えています。

周りも彼らに対して「家庭はこうあるべき」「子育てはこうすべき」といった固定観念で圧力をかけるようなこともしませんし、「自分勝手で子どもや同僚に迷惑をかけるな」という雰囲気もありません。

周りに助けを求めれば周りも助けてくれる、そういう社会なのです。だからこそ、私も彼らを見ていて「私もいけるかな」と思って学生結婚に踏み切ったのです。

日本より不便なこともたくさんありますが、日本だったら家庭のために諦めざるを得ない状況でも「無理でもいいや、やってみよう」と一歩を踏み出せるのは、多様な「家庭人」を柔軟に応援する社会だからです。

保育園を増やすとか、官製お見合いパーティーをするとかいったものより、「家庭はこうあるべき」という既成概念をぶち壊してしまうことこそ、今最も日本に必要なものではないかと思います。

古谷有希子

ジョージメイソン大学社会学研究科 博士課程。東京大学社会科学研究所 客員研究員。大学院修了後、ビジネスコーチとして日本でマネジメントコンサルティングに従事したのち、渡米。

公共政策大学院、シンクタンクでのインターンなどを経て、現在は日本・アメリカで高校生・若者の就職問題の研究に従事する傍ら、NPOへのアドバイザリーも行う。社会政策、教育政策、教育のグローバリゼーションを専門とする。

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