記事提供:幻冬舎plus

「食品ロス」という言葉をご存じでしょうか。まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限が迫っているため流通できないなど、様々な理由で廃棄せざるを得ない食品のことです。

日本の食品ロス量は、632万トン(2013年度、農林水産省調べ)。世界の食料援助量は約320万トン(2014年)なので、日本は、世界全体で支援される食料の約2倍もの量を捨てていることになります。

しかも、日本の食品ロス632万トンのうち、約半分は、消費者由来、すなわち家庭から出ています。

なぜ日本はこのような「食品ロス大国」になってしまったのか。悪いのは小売店、メーカー、消費者の誰なのか?

新著『賞味期限のウソ――食品ロスはなぜ生まれるのか』で、食品をめぐる「もったいない構造」に斬り込んだ食品ロス問題専門家の井出留美さんが、この問題を考える糸口として、身近な食品「卵」の賞味期限の謎に迫ります。

ドバイには賞味期間が半年の卵も!

日本の卵の賞味期限は、「夏場に生で食べる」のが前提で、パック後14日間(2週間)と設定されています。でも、気温が低い(10度ぐらい)冬場であれば、産卵から57日間、つまり2カ月近くも生で食べられます。

しかも、「生で食べる」のが前提だから、賞味期限を過ぎていても、加熱調理すれば、十分食べられるのだそうです。ご存じでしたでしょうか。私は恥ずかしながら、つい最近まで知りませんでした。

私がこのことを知ったのは、2016年1月22日、ある食品企業主催の食品ロス削減シンポジウムで、講演者として登壇したときのことです。もう一人の登壇者である、消費者庁消費者政策課政策企画専門官(当時)の高橋史彦さんが、こう説明しました。

「日本では、卵の賞味期限は生で食べることができる期限として設定されています。一方、海外では加熱して食べるのが前提です。だから日本よりも賞味期限が長いんです」

海外では、本当に日本よりも卵の賞味期限が長いのでしょうか。実際に確認してきました。

2016年5月4日、フィリピンの首都圏、メトロマニラにあるフィリピン最大級のショッピングモール「モール・オブ・アジア」に入っているスーパーマーケット「シューマート」で、4種類のブランドのパック入り卵を確認しました。

ブランドP 賞味期限2016年5月17日(残り13日)
ブランドQ 賞味期限2016年5月31日(残り27日)
ブランドR 賞味期限2016年6月7日(残り1カ月と3日)
ブランドX 賞味期限2016年6月21日(残り1カ月と17日)

短いものもありますが、1カ月半の賞味期限のものもあります。日本ではまず考えられない長さです。ドバイでは半年間賞味期限がある卵もあったと聞きました。行きつけの飲食店のご主人が渡航されたとき、半年先の賞味期限が卵そのものに印字されており、ゆで卵として提供されたそうです。

賞味期限を過ぎても加熱調理すれば食べられる

日本卵業協会によれば、市販の卵に印字されている賞味期限は、「産卵後、1週間以内にパック」し、「パックしてから2週間後」の日付です。産卵日から数えると、賞味期間は21日(3週間)以内ということです。

最近では、パックされてからの賞味期限だけでなく、産卵日を表示している卵もあります。ちなみに、保存温度は25度以下であることが前提です。

また、レストランや飲食店など、法人向けの「業務用」では、温度管理が徹底されているため、「夏場16日以内」「冬場58日以内」など、季節ごとに設定されています。

市販の卵パックの表示を見ると、「賞味期限経過後、及び、殻にヒビの入った卵を飲食に供する際は、なるべく早めに、十分に加熱調理してお召し上がり下さい」などと書いてあります。

いくつか、種類の違うパックを確認してみましたが、表示内容はだいたい同じでした。賞味期限を過ぎても加熱調理すれば食べられる」ということは、別に隠された情報でもなんでもなく、はっきりと明らかにされている事実でした。

でも、店では、賞味期限ぎりぎりの卵は売られていません。あとでお話しするように、賞味期限の手前に「販売期限」という区切りがあり、その期限になったところで、棚から下げてしまうからです。

期限の迫った刺身や肉、パン、豆腐、納豆、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、洋菓子類、野菜や果物などは、よく割引シールが貼られて売られています。私も、いつも利用しています。

でも、卵のパックに割引シールが貼られているのを見たことはありません。売れ残った卵はどこへ行くのでしょうか。日本卵業協会に問い合わせたところ、「スーパーや食料品店などでは、賞味期限の1週間前には売り切るように管理をしています」

が、「売れ残り、賞味期限切れとなった場合は、それぞれの店舗で処分をしています」とのこと。「生食用鶏卵は、賞味期限が切れても加熱をすれば食べられますので、それぞれの店舗の判断で処分していただいていると思います」という回答でした。

実際に店で捨てているのか、ゆでたり焼いたりして食べているのか、加熱調理して店内の弁当や総菜類に使っているのか、この回答からはわかりません。

冷蔵庫での保存はパックのままで。ドアポケットはNG

注意しなければいけないのは、卵は、サルモネラ属の細菌の一種に汚染されている場合があることです。サルモネラ菌による食中毒を防ぐためには、卵を十分に加熱調理して食べる必要があります。サルモネラ菌は75度以上で1分間加熱することで死滅します。

海外で売られている卵が加熱調理を前提としているのは、食中毒を予防するという背景があるのです。ですから、いくら「冬場は生で57日間食べられる」とはいっても、パックに表示されている賞味期限を過ぎたら、火を通して食べましょう。

また、卵は出荷後、温度が管理された状態で輸送、保管され、冷蔵で販売されるのが、菌の繁殖を防ぐ上で理想です。が、冬場、暖房の入った室温の高い店内で、冷蔵でなく常温販売しているような店もあります。

卵を常温コーナーに置いているような店は避け、きちんと冷蔵コーナーで販売している店を選びましょう。卵の温度管理がしっかりしているかどうかをチェックする必要があるのは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアだけではありません。

卵を用いる飲食店も同様です。免疫力の弱い子どもや高齢者がサルモネラ菌の中毒にかかり、亡くなられたケースが過去にありました。卵を冷蔵庫で保存する場合は、パックに入れたまま、生の状態で保存します。

パックから出さないのは、殻にサルモネラ菌がついている場合があり、出すと、他の食品に付着する可能性があるからです。また、冷蔵庫のドアの内側についている卵ケースは、ドアを開け閉めするたびに温度変化が大きく、卵自体も揺れるので、お勧めしません。

パックのまま冷蔵室の奥に入れましょう。いったんゆでたり焼いたりした卵は、菌の増殖を防ぐリゾチームという酵素の働きが熱で失われているため、生卵ほど日持ちしません。加熱調理した卵は、すぐに食べましょう。

賞味期限のウソ/目次

第1章 賞味期限のウソ
(1)卵は冬場57日間、生で食べられる
(2)ほとんどの賞味期限は2割以上短く設定されている
(3)なぜ企業は賞味期限をもっと長くできないのか
(4)1日古いだけで納品が拒否される「日付後退品」問題
(5)「消費期限」は過ぎたら食べない、「賞味期限」は食べられる
(6)賞味期限より前に棚から撤去されてしまう「3分の1ルール」
(7)賞味期限の切れた頃が一番おいしいものもある!?
(8)消費者のゼロリスク志向が賞味期限を短くさせている
(9)賞味期限に依存しきるのはお金を捨てるのと同じ

第2章 「これ食べられる?」を自分で判断する8つのポイント
(10)免疫力の弱い人、健康状態が優れないときは要注意
(11)すべての食品を怖がる必要はない
(12)店頭で直射日光を浴びていたものは買わない
(13)外食でも家庭でも「生もの」は要注意
(14)「タンパク質」は栄養豊富な分、腐敗もしやすい
(15)スルメもカビる! 水分量15%ラインを知っておく
(16)揚げ物じゃなくても。「見えない油」にご用心
(17)薄味ヘルシー食品は日持ちしない

第3章 捨てるコストはあなたが払っている
(18)なぜ食料不足の被災地で捨てられる食品があるのか
(19)コンビニがスーパーより高いのは「捨てる前提」だから
(20)棚を商品でいっぱいにしておくコストもあなたが払っている
(21)毎日大量にパンを捨てているデパ地下パン屋
(22)恵方巻きもクリスマスケーキも、1日過ぎればゴミ
(23)食品ロス大国日本、ロスの半分は家庭から
(24)売れ残りのコンビニ弁当で貧しい子どもを援助してはいけないのか
(25)京都市はなぜ15年でゴミを半分近く減らせたのか
(26)ハンバーガー1個を捨てるのは浴槽15杯分の水を捨てること

第4章 あなたは、あなたが「買うもの」でできている
(27)「買う」とは、企業と商品に「投票する」行為
(28)「よい自分」「よい社会」を創る買い方チェックリスト
(29)あなたがどんな人間か、買い物カゴの中身でわかる
(30)「買い過ぎていませんか?」と客を諭す英国のスーパー
(31)「2020東京」で食品ロス削減はできるのか
(32)なぜ日本ではドギーバッグが普及しないのか
(33)「割安だから大サイズを買う」はかえってムダ
(34)食べ方のマナーは習うのに「買い方」のマナーは習わない
(35)空腹で買い物に行くと買う金額が64%増える!

第5章 食べ物をシェアする生き方
(36)大手スーパーの売れ残り食品廃棄を禁止したフランス
(37)「おそなえもの」をシェアする「おてらおやつクラブ」
(38)家庭で余っている食べ物を持ち寄る「フードドライブ」
(39)「食品ロス」を「支援」に変える「フードバンク」の活動
(40)郵便配達の人が食品を回収する「Stamp Out Hunger (貧困撲滅)」
(41)低所得者がスーパーで飲食物を受け取れる「フードスタンプ」
(42)余剰農産物の廃棄はなくせるか
(43)店や企業の食品廃棄を「もったいない」と非難する消費者エゴ
(44)スーパーはみんなでシェアする冷蔵庫
(45)自分が消費することで弱者や未来の人の食べる権利を奪わない

今日から家庭でできる、食品ロスを減らすための10カ条
あとがき
主要参考文献

『賞味期限のウソ―ー食品ロスはなぜ生まれるのか』(井出留美)

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井出留美(いで・るみ)

食品ロス問題専門家。消費生活アドバイザー。博士(栄養学 女子栄養大学大学院)、修士(農学 東京大学大学院)。女子栄養大学・石巻専修大学非常勤講師。

日本ケロッグで広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災の折には食料支援に従事する。その際、大量の食料廃棄に憤りを覚え、自らの誕生日であり、人生の転機ともなった3・11を冠した(株)office3.11を設立。

日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンの広報を委託され、同団体をPRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞や食品産業もったいない大賞食料産業局長賞受賞へと導く。

市会議員、県庁職員、商店街振興組合理事長らと食品ロス削減検討チーム川口主宰。平成28年度農林水産省食品ロス削減国民運動展開事業フードバンク推進検討会(沖縄)講師。同年11月、国際学会で本著内容発表。www.office311.jp

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