記事提供:サイゾーウーマン

新潮社校閲部・湯浅美知子さん。

10月5日に放送が開始された新ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)。石原さとみ演ずる河野悦子が、出版社の校閲部でさまざまなハプニングに遭いながらも、持ち前の明るさと負けん気で猪突猛進していく姿が描かれている。

石原の個性的なファッションを含め、ドラマ的エンタメ要素を十分に盛り込んだ作品として注目を集める一方で、「現実の校閲の現場とあまりに乖離している!」と一部で批判もあった。

そこで、作家の石井光太のツイートを発端にネットでも話題になり、「プロの仕事ぶりがすごい」と出版業界で一目置かれている新潮社校閲部に取材。実際の校閲とはどのような仕事なのか、現役の“校閲ガール”湯浅美知子さんに、話を聞いた。

■基本的に著者には会わない

――校閲とはどんなお仕事でしょうか?

湯浅美知子さん(以下、湯浅)根本的なことを言いますと、校閲は著者が書いた原稿の内容が読者に正しく伝わるように確認して、間違いがあればそれを正すことが一番大切な作業です。

もし誤字があったり、漢字の表記が間違っていたりすると正しく伝わらないですよね。

新潮社は著者が書いた原稿を大切にすることが第一という方針なので、原稿をより良くするために、どんどん手を入れようということではなく、有名な画家が仕上げた絵に描き足したりしないのと一緒で、著者の意図や言葉の意味がその通りに読者に伝わるように私たちが確認しています。

書籍や雑誌以外にもカレンダーやプレスリリース、表彰式のご案内の手紙なども校閲することがあります。

――本などの出版物の「質」を守るということで、とても責任の重い仕事だと思いますが、ミスをすることはないのですか?

湯浅 この仕事をしていたら誤植を今まで一度も出したことがない人はいません。なので、問題はひどい誤植をどうやって防ぐかということになるのですが、一番やってはいけないミスは「人名」です。

お名前を間違えたとなると、本が刷り直しになることもあります。それ以外にも書籍の顔であるカバー周りや、発行日などの流通に関わる部分を間違えてしまうと、これは大きな失敗ということになります。

野球に例えると、守備の選手は捕って当たり前なので、めったにエラーが許されないですよね。校閲もそういう世界で、一回大きなエラーをしたら「珍プレー大賞」みたいな感じで語られ続けるんですよ(笑)。

野球の守備率は95%以下だとザル扱いされるらしいですが、我々もそれくらいはできて当然という部分があると思いますね。

――ドラマでは、主人公の河野悦子がさまざまなトラブルを乗り越えていく様子が描かれますが、実際の校閲の現場でもトラブルが起きることは多いですか?

湯浅 実際は毎日がトラブルで、はっきり言ってそのトラブルを収めるのが仕事みたいになっています。ドラマみたいな大きなトラブルが起こるのは3カ月に1回くらいですが、小さいことは毎日です(笑)。

編集者は著者のことを知っているし、対面でのやり取りもあるけれど、私たちは基本的に著者にはお会いしませんし、ゲラに書き込んで、文字だけでやり取りをすることが多い。

できるだけ客観的な書き方をするんですけど、誤解されて伝わってしまうこともあります。

デリケートな著者の場合は、このまま伝わるとまずいなと思って編集者がアレンジして伝えるべきなんですけど、校閲の書いたものをそのまま著者に持っていってしまって、揉めてしまうこともあります。

校閲者と編集者が手を組んでやらなくてはいけない場面も多いんですね。

不思議なのですが、著名な方の本でも一冊の本ができあがる間に関わっている人が揉めると絶対に売れないんですよ(笑)。

反対に、そんなに著名な書き手じゃなくても、こちらの提案に対して、互いに納得して進めていくことができたものは、後々何かの賞を受賞したりといった出来事もあって、書籍にまつわる仕事の面白さを感じますね。

――校閲の仕事をしてきて、なにか印象的なエピソードはありますか?

湯浅 押切もえさんの小説を担当した時に、押切さんはとても熱心に原稿の直しを入れていて、校閲もなかなか大変な作業になってしまったんですね。

ところが、ある日突然、私のデスクまで担当の編集者と一緒にいらっしゃって、「すみません」とお声をかけていただきました。著者の方と私たちとは普段はとても遠くて、めったにお会いすることがない分、お会いした時のことは印象に残っていますね。

■洋服と一緒で、新しいペンに換えると気分が上がる

文字の大きさを確認するスケール、ルーペなど、校閲者のお仕事道具。湯浅さん愛用のペンは広島東洋カープのロゴ入りボールペン。

――とても集中力を使うお仕事だと思いますが、集中力を保つために工夫していることなどはありますか?

湯浅 気分転換につきます。やっぱり3日寝てない人とか、他の悩みで頭がいっぱいな人が校閲を担当していると、みんな不安ですよね。自分が健全でニュートラルな状態でいるようにするためには、気分転換がとても大事です。

我々の手がけている本も、どこかでそうやって気分転換のきっかけとなっていればいいなと思います。

気分転換の方法は人それぞれで、自分の居場所がデスクなので、インテリア的なことに気を使う人もいますし、スターの写真を貼って気分を上げる人もいます。

私も犬の写真を眠くなる時にちょうど目が合うところに貼ってあります。「こいつのためにお給料稼がなきゃ」って思うと、気合が注入されますね。

ほかにも、ペンは大事な商売道具なので、使うペンをこまめに換えたり、ずっと握っててぬるくなってきたらペンを換えるとかはしますね。お洋服と一緒で、新しいペンに換えると気分が上がります。

――プロフェッショナルな仕事をする上で、女性だからこその強みなどを感じたことはありますか?

湯浅 女性ならではということはあまりなくて、個人個人でいいところがあるという感じが強いですね。男女というよりも、それぞれの得意分野が違っていて、お互いに補い合っているというイメージです。

経験したことが活かされる場面も多くて、例えば書籍の一節に何かのスポーツやゲームやギャンブルのことが書かれていて、自分はやったことがなかったとしても、校閲部内に心得のある人がいればその人に聞いて作業をします。

そういう意味では、校閲は個人プレーであり、チームプレーでもありますね。

基本的にどの仕事を担当するかはスケジュールで決められているのですが、「この書籍のジャンルに関してはあの人が詳しいから教えてもらいなさい」ということも多い。あまり男女を意識せず働ける職場だと思います。

――校閲部にはどんな人が多いのでしょうか?

湯浅 趣味をいろいろ持っている人、しかも常軌を逸したハマり方をしている人が多いですね(笑)。

ミリタリーオタクの人はデスクの周りに銃の本がたくさん置いてあるし、ほかにも数学の問題集を解くのが趣味の人は、休みの日にも問題集を解いているらしいです。

漢字博士もいて、この人はその知識が評価されて、新潮社から出た漢字辞典の編纂に携わりました。語学の勉強が趣味の人は、今では100以上の言語を勉強しているそうです。個性的で、ハマったらとことん突き進む人が多い印象があります。

――入社して20年目とのことですが、この20年の間に校閲のやり方にも変化がありましたか?

湯浅 元々、校閲は誤字・脱字を正すというのが第一に優先される作業だったので、内容を調べて正しいかどうかをチェックする作業はオマケの部分でした。

それが、パソコンのおかげで、字の正確さについては手間が以前より掛からなくなったので、その分調べ物に時間が割けるようになりました。

調べ物に関しても、以前は小説の一節で場所の記述が気になってしまった時は実際に自分で見に行ったり、地名の読み方がわからなければ観光協会に電話をしたりして確認していましたが、今ではネットで調べられるようになったのでスピードは早くなりました。

ただ、ネットの情報が信頼できるものなのかの判断は難しい。しかも、調べ物を多くしていると、単純な誤植を見落としてしまうこともしばしばあるので、そのバランスがなかなか難しいなと感じます。

私たち校閲は、日本語学や言葉の専門知識を学んでいるわけではありません。そういう意味では、「素人としてのプロ」という目線を大切にやっていかなくてはいけないなと感じています。

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