「逃げろ!走れ‼︎」

4歳から14歳の子ども達を集めた地域のユース・アメフトリーグの練習が終わって人々が帰りかけるフィールドで突然叫び声が上がり、間髪を入れず複数の銃声が鳴り響きました。驚いて目を向けると、駐車場に向かっていた男性が何発もの弾を受けながら盾になっている瞬間でした。

男性の名はデイヴ・ウィリアムズさん(43歳)。7歳のチームを担当して12年、コーチ・デイヴと呼ばれ親しまれていました。

その時、ユース・リーグの選手250人ほどとコーチ100人、ユース・チアリーディングに参加している子供たち150人ほどが駐車場に向かって歩いていました。目撃者の話によれば、コーチ・デイヴは数人の男達が銃を手にフィールドへ近づいてくるのを見とがめ、咄嗟に声をあげた途端に撃たれたのだそうです。

子ども達の目の前でした。

男達はそのまま逃走、警察が捜査を続けていますが未だ見つかっていません。
コーチ・デイヴは最寄りの病院に搬送されましたが、到着した時にはすでに心肺停止、その後、死亡が確認されました。

フィールドにいた何百人もの人達に怪我はありませんでした。

さえぎる物が全くない市民パーク

事件のあったミルズ・ポンド・パークはアメフトはじめ野球やソフトボール、サッカーも出来る多目的フィールドを何面も備えた、アメリカ各地によくある市民パークです。

アメリカの学校では各種スポーツの部活があるのは中学生から。
小さいうちからスポーツを始める子供達は、各市で運営するリーグに入ることになり、練習や試合は市民パークやフィールドのある公立校で行われます。

公の施設ですから誰が入ってもよく、子供達に声援をおくってくれる人は大歓迎で、試合がある週末には家族親戚一同総出で応援しているのを見かけます。

大きなフィールドでもフェンスのあるところはボールが飛んできそうな一部分だけですし、他には観客席があるだけです。その観客席を背にして何百人ものが歩いてくるのに向けて銃が乱射されたらどうなってきたか、想像するのも恐ろしいことです。

夕方から夜にかけて行われる練習

公共交通機関が発達していないアメリカでは、16歳で免許を取得し自分で車を運転するようになるまでは、どこへ行くにも親頼みです。それで仕事帰りの保護者の送迎が間に合うよう、平日の練習や試合は午後6時頃から8時頃までというのが一般的です。

練習終了時、フィールドにはまだ煌々と照明がついていたはずですが、駐車場はその外ですから街灯がついていても薄暗く、本当に近づかなければ相手が銃を手にしていることなど見えなかったでしょう。

コーチはボランティア

市のユース・リーグのコーチは全くのボランティアです。子供達は住所によって所属するリーグが決まるので毎年住所証明を提出しますが、それはコーチも同じことです。

自分の子供がそのスポーツを始めたので昔やっていた自分がという人が多いですが、中には子供がユースの年齢を超えても長年続けているコーチや、学生時代のボランティアがそのままコーチをしているということも珍しくありません。

シーズンが始まる前にトライアウトと言って参加する子ども達全員を集め、実際にボールを使ったり走らせたりして身体能力を見極めて、特別に強いチームや弱いチームが出来ないよう子供達を配分します。

仕事帰りに集まっての「ドラフト会議」が何日も続くこともありますが、全てが手弁当です。

シーズンが始まってからは勝ったお祝い、負けた反省会など試合や練習の後で子ども達をねぎらうコーチも多く、特に年齢が幼い子ども達は2時間も走り回ったあとの夜8時にはヘトヘトですから、帰る前の小さなおやつは大歓迎されます。

保護者の持ち回りでおやつ当番を決める場合もありますが、大抵はコーチの持ち出しです。

亡くなったコーチ・デイヴも練習後に自分のチームの子ども達30人にスポーツドリンクとクッキーを配り、打ち上げを済ませたばかりでした。

翌日、事件のあった駐車場で、血痕を丁寧に洗い清める警官

出典 http://www.foxsports.com

事件のあったフロリダ州のフォート・ローダーデールはマイアミなどと比べて治安がよく、ビーチも大衆向けで家族連れに人気のある観光地です。

つまり安全面では定評のある地域での子ども達のスポーツ会場でこの事件は起こりました。こんな事件は枚挙に暇がないのですが、それでもアメリカでは銃器の所持携帯は合法です。

銃愛好家の市民団体である全米ライフル協会(NRA)が銃規制は憲法違反であると強く反対しているからです。

規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない(アメリカ合衆国憲法修正第2条)

出典 https://ja.wikipedia.org

その主張によれば、適切な教育が行き渡れば銃を悪用した犯罪も起こらず、事件に直面した場合も正しい使い方で犯罪に対抗できるということなのですが、「目には目を」である感が拭えません。

そしてこの事件が起きた時、スポーツに興じる大勢の子ども達と一緒に走り目を配るコーチ達の誰が、もしもの時のために武装できると言うのでしょう。そしてそんな場に銃を構え近づいた犯人達の卑劣さには憤りしか覚えません。

その場に居合わせた人が新聞社のフェイスブックにつけたコメントがあります。

出典 https://www.facebook.com

- これってあなたが行った練習じゃないの?
- 悲しいけどそうなの!辛すぎる出来事だったわ‼︎
- 彼は7歳のチームのコーチで、子ども達はすぐそばにいたの。
- ひどすぎる。

メディア等でも取り上げられているように、このところアメリカでは黒人の射殺事件が多発しています。写真で見る通りコーチ・デイヴは黒人なので、無差別の乱射未遂などではなく何らかの理由で狙われていたのは本人で、フィールドにいた人達は危うくとばっちりを受けるところだったのかもしれない、などという意見もSNSでは見受けられます。

でも12年間勤めたコーチとしての信頼は確かなものですし、現に彼が声をあげたので駐車場へ向かう人達の足を止めることが出来ました。彼が何百人もの命を守ったことは事実です。

今は彼の死を悼むことしか出来ず、それを目の当たりにした大勢の子ども達を心配することしか出来ませんが、銃器所持携帯が撤廃されることが無理としても、いつの日かより厳しい規制が設けられることを願ってやみません。

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