記事提供:messy

出典資生堂公式サイト

今週は「女子力」というものについて考えさせられるできごとがいくつかありました。

まず、電通の女性新入社員の過労死事件です。亡くなった高橋まつりさんのツイッターを見ると、最長で月130時間にも渡る以上な長時間労働に加え、男性上司からのセクハラ、パワハラを受けていたことがわかります(現在は非公開)。

「男性上司から女子力がないと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である」

「部長『君の残業時間の20時間は会社にとって無駄』『会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない』『髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな』『今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる』わたし『充血もだめなの?』」

さらには、「私の仕事や名前には価値がないのに、若い女の子だから手伝ってもらえた仕事。聞いてもらえた悩み。許してもらえたミス。程度の差はあれど、見返りを要求されるのは避けて通れないんだと知る」など、

性的な見返りを要求されたのではないかと思われるツイートも残しています。そして、このツイートの9日後にまつりさんは自らの命を絶ちました。

元電通社員の著名ブロガーはあちゅうさんは、この件について「かわいそうに…。いい人のほうが多いけど、性的見返りを断ったら『広告業界で生きていけると思うな』と言ってきた人はいる」というツイートをしており、

電通では男性上司が部下の女性に性的見返りを求めるというのは、珍しくもないのかもしれません。だとすれば、女性にとって最低最悪の労働環境です。

これは過労死どころか、まつりさんを自殺に追い込んだこの「部長」やその他の上司・先輩たちが彼女をよってたかってなぶり殺しにしたようなものです。一般的にも、女性は男性同様の長時間労働に加え、女子力などといったセクハラ被害が横行しています。

この事件は氷山の一角に過ぎないでしょう。

キラキラすることを求められた職場

もうひとつ「女子力」について考えたのが先日、セクハラだとの指摘を受けてオンエア中止となった資生堂「インテグレート」のCMです(「アラサーは楽しい!資生堂インテグレート「25歳以上の女は…」のネガティブ」)。

一連のCMでは、25歳の誕生日を迎えた女性が友人から「今日からあんたは女の子じゃない」「かわいいをアップデートできる女になるか、このままステイか」と言われたり、男性上司に「がんばってるねぇ」と言われ「ありがとうございます」と答えたら

「それが顔に出ているうちは、プロじゃない」と言われたりと、セクハラ、パワハラ、エイジハラスメントのオンパレードとなっています。

このCMで演出されているのは、20代後半の女性がセクハラ、パワハラ、エイジハラスメントが日常的に横行する生活・労働環境に置かれているという状況です。

資生堂の意図としては「こういう状況で戦わなければならない若い女性に、化粧品がお手伝いできることを伝えたい」というものだったのでしょうが、結果として、現代日本女性が置かれている劣悪な生活・労働環境を再現し、あたかもそれを肯定しているかのような作りになってしまいました。

私はこのCMを見て、私自身が「若い女子社員」として働いていた20代当時のことを思い出しました。私は大学院を卒業して勤め始めたので、25歳で新入社員になりました。

最初に入ったのはIT系の小さい会社で、システムエンジニアとして採用されたのですが、最初の研修で「女性はやはりハイヒール」「女性はお化粧をしているのがマナー」などと言われ、とてつもない違和感を感じていました。

その後、上司と合わず、無駄な残業ばかりさせられている状況も許し難かったので、2カ月も経たずに喧嘩別れのように会社を辞めてしまいました。

次に入ったのはコンサルティングの会社でした。ここは労働環境も良く、上司や先輩も私の成長を応援してくれる働きがいのある会社でした。

しかし、それゆえに女性上司や先輩たちが親切心で「女性は女性らしさを身につけないと長く働く上で不利だ」「女性は細やかさや丁寧さを求められるから、それをできるようになった方が良い」「おじさんとの付き合いが大事」

という指摘やアドバイスをたくさんくれました。

化粧が面倒臭くてすっぴんで会社に行ったら「今日はすっぴんなんだね」と指摘され、やはりすっぴんはよろしくないのだなと悟ったりもしました。彼女達はみないわゆる「キラキラ女子」でした。

頭も良く、仕事もできて、おじさん転がしで、気が利いて、周りの人に好かれて、身なりも美しいキラキラ女子。それだけ全てを兼ね備えていれば、どんな会社でもどんな労働環境でも耐え抜けるし、周りも助けてくれることでしょう。

私自身も「若くてかわいい女の子」として、笑顔を振りまきながらなんでも一生懸命にやることで、ミスをしても周りにカバーしてもらえました。

その一方でどんなに頑張っても、同時期入社の男性社員より「甘ちゃん」扱いを受けたり、頑張って取ってきた仕事も「君ではまだ回せないよ」と先輩に振り分けられてしまうという状況に、だんだんと嫌気がさしてきました。

私は、どんな嫌なことがあってもニコニコしていられるキラキラ女子にはなれないし、そんなものになりたくもないと思ったのです。そして、日本の会社員生活とおさらばしてアメリカへと旅立ちました。

自分のための、自分らしい化粧

『キューティー・ブロンド』というハリウッド映画があります。主人公の女の子はおしゃれ大好きなキラキラ女子で、自分を振った彼氏を見返すためにハーバード法科大学院を出て弁護士として大活躍する、というお話です。

アメリカに来てみたら、彼女のような人は一人もいませんでした。知人にハーバード法科大学院を出て弁護士として活躍している女性がいますが、キラキラ女子どころかフェミニスト闘士で、趣味はバックパック旅行の猛者です。

断言します。アメリカにはキラキラ女子なんていう生き物はいません。私自身もアメリカに来てからキラキラ女子なんていう生き方があることすら完全に忘れてしまいました。今後私がキラキラ女子を目指すことはまずないでしょう。

資生堂の件のCMに欠如していたのは「キラキラ女子たれ」という社会の重圧を押しのけるという選択肢です。

資生堂の広告は、電通が作ったのか博報堂が作ったのかわかりませんが、過労死した電通の女性社員は、日常的にこうした「キラキラ女子重圧」にさらされ、パワハラやセクハラを受けながら、長時間労働をこなしていたのでしょう。

資生堂CMの描いた「25歳の働く女子」の末路には、キラキラ女子になりきれず、周囲から求められるがままに自分を追い詰め、ボロボロになっていく勤労女性たちがいることを忘れてはなりません。

25歳の働く女性がセクハラやパワハラに迎合するためのツールとして化粧品を使うのではなく、そうした重圧と戦い、それをおしのける、社会的重圧から自分自身を解放するために化粧品を使う、そうしたメッセージを与えてくれるCMを作って欲しいと思います。

「化粧をする」というのは、自分が社会にどう見られるかというのを意識した、社会的行動です。男社会で好かれる「若くてかわいい女の子」でいるための化粧ではなく、若い女子好きの男社会で

「年取って何が悪い」「ブスで何が悪い」「手抜きだっていいだろ」「強い私をなめんなよ」という十人十色、多様なメッセージを発する化粧があったっていいはずです。

古谷有希子

ジョージメイソン大学社会学研究科 博士課程。東京大学社会科学研究所 客員研究員。大学院修了後、ビジネスコーチとして日本でマネジメントコンサルティングに従事したのち、渡米。

公共政策大学院、シンクタンクでのインターンなどを経て、現在は日本・アメリカで高校生・若者の就職問題の研究に従事する傍ら、NPOへのアドバイザリーも行う。社会政策、教育政策、教育のグローバリゼーションを専門とする。

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス