出典 http://ddnavi.com

「テレビはつまらなくなった」

そんな言葉が常識のように囁かれるようになってから久しい。確かに、ほとんどの番組が人気タレント頼みで、定番企画を使い回すだけの味気ない内容に見える。

しかし、老若男女が無料で視聴可能という、考えてみれば特異な条件を持ったテレビには、大きな可能性が常に秘められているのではないか。そう、たとえば世界規模で影響を及ぼすような、とてつもない可能性が。

すべての「笑い」はドキュメンタリーである』(木村元彦/太田出版)はノンフィクション作家、木村元彦が挑む初めての「テレビ論」であり、「お笑い論」である。その中心として描かれているのは倉本美津留。

『ダウンタウンのごっつええ感じ』『伊東家の食卓』といったテレビ史に残るバラエティー番組を手がけてきた放送作家である。本書で描かれる倉本や個性的なテレビマン、タレントの情熱から読者はテレビの力を思い直すと同時に、無尽蔵のやる気を注入してもらえることだろう。

木村元彦はスポーツや国際問題を手がけてきた作家である。「そんな彼がどうして日本のテレビを?」と疑問を抱く人も多いだろう。きっかけはネットで見つけた倉本と放送作家・高須光聖氏の対談だった。倉本は恥ずかしげもなく、クリエイトを通じて「世界平和を目指す」と言ってのけたのである。

東日本大震災と原発事故、繰り返されるヘイトスピーチ、そんな時代が到来する前から「世界平和」を意識し、しかも、高視聴率番組を世に送り出し続けている男について、木村は俄然、興味を持つ。倉本の人生を取材し始めて木村が知ったのは、ユニークな倉本の生い立ちと、倉本が遭遇してきた熱いテレビ界の裏側だった。

幼い頃から人と違うことを美徳として生きてきた倉本、彼がクリエイター職に就いたのは自然な流れだったといえる。初企画が採用されたエピソードはあまりにも強烈だ。

新人AD時代、笑福亭鶴瓶の人気番組『突然ガバチョ!』の企画会議を見学させられていた倉本は「アイデアのある奴はおらんか?」との声に挙手する。会議室にいたのは鶴瓶をはじめとする名だたるタレントとスタッフたち。

しかし、物怖じせずに発言した倉本の案は見事採用される。その後も倉本の姿勢は全く変わらない。基準は「面白いかどうか」のみ、正しいと思うことに関しては目上の人間であっても妥協することがない。決して器用なタイプではないが、倉本の才能と情熱は徐々にテレビ業界で認められていく。

圧巻なのは、大阪時代に倉本が残した企画の数々だ。今ではソフトはおろか、動画サイトでも視聴不可能な映像素材が引用され、そのアナーキーぶりが紹介されていく。

性的マイノリティーを暴くゲームで、「変態」呼ばわりされた司会の上岡龍太郎が怒って帰ってしまった「変態さんは誰だ」。

番組が成立するギリギリの状態まで技術スタッフを一人一人帰していく「テレビスタッフ山崩し」、いずれも活字で内容を追っているだけで笑いがこみ上げる。そして、かつてのテレビ界の挑戦的な姿勢に戦慄させられるのだ。

倉本は無名の若手芸人に対しても曇りのない評価を向け続けてきた。よゐこ、ジミー大西、笑い飯など無名時代から倉本が評価してきた芸人の多くが現在、第一線で活躍している。その筆頭はなんといってもダウンタウンだろう。特に松本人志について、若手時代にラジオ番組で仕事をすることになった倉本は運命を感じている。

自分が一番面白いと思ってることを表現する肉体と脳を持った人間と出会えた

出典『すべての「笑い」はドキュメンタリーである』(木村元彦/太田出版)

その後、松本と倉本はタッグを組み、『ごっつええ感じ』『ダウンタウンDX』などのテレビ番組やDVD『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM』でお笑いの歴史を変えたのは周知の事実であろう。

現在でも倉本は新星の発掘に尽力している。昨年、5年ぶりに復活したM-1グランプリを担当した際には、一回戦コンビ3000組に目を通したという。

倉本の仕事は絶対に否定から入らない。ダメに見える企画でも、良くする方法を考えていく。「おもろい奴はちゃんと見たらなあかんねん」、その言葉が全てを象徴している。世界の新しい見方を提示すること、倉本のような物の見方が世界に浸透すれば仕事も人生も豊かになる。「世界平和」も決して大げさな話ではないのだ。

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