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会社勤めをしていれば誰にでも一度は訪れる、「今日は会社行きたくないな…満員電車に乗って通勤するのしんどいな…」という気持ち。

パソコンさえあれば家でもカフェでも仕事はできるのに…と内心思いながらも、眠い目をこすり、重い腰を浮かせて会社へと出発するのが大人というものです。

しかし、そんな気持ちをもつ人たちに「会社に来なくていいよ」と言い、さらにそれを認め奨励する制度を確立した会社があります。

日本最大のオーディオブック配信サービス「FeBe」や書籍情報サイト「新刊JP」を運営する、東京・文京区の株式会社オトバンク

『日経ビジネス』の“日本を元気にする100社”に選ばれたこともある同社は、2004年12月の設立から約10年間で急成長を遂げてきました。

そんな同社が、2016年10月から、一言でいえば「会社に来なくていいよ制度」とも表現できそうなシステムを導入しました

一体、この制度ができた背景にはどんな思いがあるのでしょうか? 株式会社オトバンク代表取締役社長・久保田裕也氏(33歳)に話を聞いてみました。

コアタイム廃止とリモートワーク制度

10月から同社が導入したのは、「コアタイム廃止」「リモートワーク制度」という2つの制度。

同社ではおよそ6年前よりフレックスタイム制を施行していましたが、午前10時から午後3時はコアタイム(必ず勤務すべき時間帯)となっており、その時間帯は基本的に会社にいなくてはならず、社員はみな朝10時に間に合うよう通勤をしていました。

しかし、このコアタイムが廃止され、さらにリモートワーク(社外勤務)も導入されたことで、同社の社員は朝の通勤をしなくて良くなったどころか、極端にいえば「会社に来なくても良い」というシステムになったのです

そして驚くべきことに、これは一部部署の社員だけでなく、全社員に認められているといいます。

まずは、導入のきっかけから聞いてみました。

久保田:「先に導入を考えたのは、リモートワークなんです。きっかけは、エンジニアからの要望でした。

社内にいると他部署の人間がエンジニアに直接コミュニケーションをとろうとすることがあるけれど、エンジニアとしては、自分の中で作業が“ノってる”ときに話しかけられて中断せざるを得ないのは効率的でないという考えです。

そして、その“ノッてる”時間、言い換えれば、極限まで集中できてるような状態は1日に3時間もないと…。だから、『その時間はどこかにこもって仕事したい』という要望でした。

同じような要望は、コンテンツ制作を担当する人間たちからも出ていたんです」

――では、まずはエンジニアからリモートワークが奨励されていったのですか?

久保田:「そうですね。それを実現するにあたっては、『Slack(スラック)』の存在が大きかったと思います。弊社では、その利便性と柔軟性を考え、2014年から社内での連絡はすべてチームコミュニケーションツールの『Slack』で統一したんです。

全体のスレッドはもちろん、大小のチームごとのスレッドや個人間のDMも用意できるので、エンジニアに話しかけたいときに直接コミュニケーションをとる必要性がほとんどなくなりました」

「社員を満員電車に乗らせたくない」

――では、そこから「コアタイム廃止」にはどのように繋がるのでしょうか?

久保田:「これは僕の個人的な思いが大きいんですけど、僕はとにかく満員電車が大の苦手なんです。

ギューギューな中に無理に乗り込んだり、大人同士が不毛なケンカをしてるのを見て気持ちが落ち込んだり…。で、ある日僕が朝の打ち合わせのために満員電車に乗ったとき、ちょっと様子がおかしい怖い人がいたんです。

社員をこういう環境でつらい思いをさせてまで通勤させるのは良くないと思ったとき、そもそも『なんで来なきゃいけないんだっけ?』と考えたら、単純に出社時間という“鉄のルール”があるからなんですよね」

――満員電車、確かにつらいけど、出社時間を守るために乗らないといけませんよね…。

久保田:「はい。ただ、僕が言っているのは、満員電車に乗ること自体や乗っている人への否定では全くないんです。ほとんどの会社が出社時間というルールを設けていて、そこにみんなしっかりと従っているから、満員電車というものが生まれている。

では、ルールをつくる側の人間である自分がそこを変えれば、“社員を満員電車に乗せたくない”という思いは簡単に実現できる。だから、コアタイムも同時に廃止しました」

――「満員電車に乗らせない」という目的を実現するならば、会社近辺に住む社員に住宅手当を厚く出すといった方法もあったと思いますが、そのような方法は考えましたか?

久保田:「はい、当然考えました。実際にそのような制度を敷いている会社のことも研究しましたが、結論としては、『社風に合わない』と思ったんです。

うちの社員は、仕事にはとことん真面目だけど、仕事とプライベートはきっぱり分けたいと考える人間が多くて、近くに住んでいることから休みの日に偶然会ってしまう可能性が高まるのを嫌がるだろうなと。僕自身もそうなので(笑)

あと、ヒアリングをしてみたら、そのような制度を『やってほしい』と熱望するのは、特別仕事に熱心な社員たちなんです。

彼らを見ていて、『あ、これをやってしまったら、こいつらは休みでも毎日会社に来て休まなくなるな。そして、そういう風潮が出来上がってしまうな』と思い、やめました」

「会社に来なくていい」状態のほうが仕事をサボれない

――簡単に言えば「会社に来なくていい」ということになる今回の制度ですが、社員のみなさんが仕事をサボることに繋がるという危惧は考えましたか?

久保田:「そこはまず、基本的に社員を信用しています。社員には、自由に働くなかで自分で考え、自立して欲しいという思いがあります。

そして、“サボり”について言えば、この制度のテスト期間を経て感じたのは、直接会わずにオンラインでコミュニケーションをとっているときのほうが、むしろ仕事をちゃんとやっているかどうかは如実に分かってしまうということなんです。それが“真実”です。

しっかりと仕事をしている人は、オンライン上でもきっちりと議論を重ねようと意見を出すけど、していない人は誰かの意見にそのまま乗ったり議論を流したりする傾向がある。直接のコミュニケーションでは“なあなあ”になっていた部分が浮き上がるんです

だから、この制度があることで『ラクしたい新人が入社してくるんじゃない?』ということをたまに言われますが、僕としては、『むしろこっちのほうがキツいと思うよ』と言いたいですね」

――「会社に来なくていい」という状態のほうが結果的に仕事で手を抜けなくなるというのは、興味深い現象ですね。

久保田:「そうですね。それに、普段会わないことによって、チームメンバー同士がいざ会うときの重要性は高まりますし、その共通認識も自然とできます。

そして、会社に来ること自体が確固たる目的を備えた行動になる。簡単にいえば、常に一緒にいて働くことによる安心感のようなものはなくなったかもしれないけれど、仕事におけるグダグダもなくなりました」

――なるほど。それでも、会っていればこその情報共有というものもあると思うのですが、その辺りはいかがでしょうか?

久保田:「それについては、弊社ではWeb上の組織内情報共有ツールで実務に関することは細かい内容でもすべて全社員見られるようにしています。

社内では“Wiki”と呼んでいますが、Wikiさえ見れば知りたいことや知っておくべきことは分かるようになっている。その点でも、サボっている場合は情報の共有度合いで分かってしまいますね。『あれ、ウィキ見てないの?』ってなるので。

また、月に1回の全体会、月に2回の社内での飲み会も実施することで、まったくリアルで会うことがないという状況にはならないようにしています」

10月1日の発表から、一部のビジネスマン界隈を驚かせているこの「会社に来なくていいよ」制度。当然のことかもしれませんが、久保田氏が「目的は社員のパフォーマンス最大化」と明言する通り、社員にラクをさせるものではありませんでした。

さらに久保田氏は、「会社に不満はないけれど、『家族のために地元に帰らなければならない』といった理由で退職を希望する社員が出てきたとき、優秀な人や勝手の分かっている人が外部要因で会社を去ってしまうのは大きな損失ですし、なにより自分が悲しい。そのような事態を防ぐ狙いもあります」と話していました。

優秀な人だけにフォーカスを当てるのではなく、「勝手の分かっている人」を会社の貴重な財産と考える。同社のそのような風土が、今回の革新的といえる制度を実現させたのかもしれません。

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