“ミレニアル世代“によるNEOトーキョー・フィールドワーク・マガジン「SILLY」が、社会に埋もれた20代の声を代弁するコーナー「アノニマスリポート」。今回は、理想と現実のギャップに立ち向かう女性に迫る。

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東京に憧れ、上京する人が絶えない。最新情報の発信地は常に東京だ。東京にいれば、不自由はない。欲しいものも行きたい場所も圏内だ。なんとも便利な都会暮らし

そんなふうに東京を謳歌する人を横目に、「ホントに東京っていいとこなの?」と、疑問の目を向ける女性。四国で生まれ育ち、名古屋の大学に進学後、だれもが知る都内大手企業の観光サービスを手がける部署で働く現在25歳。

農林業を生業とする祖父を見て育った彼女の夢は、地元で就農し、農業によって地域振興をすることだ。そのための一歩と信じて決めた就職先だったが、入社3年目にして、「自分の人生を歩んでいるとは思えない」と嘆く。地方出身の同僚や友人が東京を満喫する姿も、どこか遠くの出来事のよう。

多少の差こそあれ、地方出身者ならだれもが憧れる「東京での仕事」「東京での暮らし」。そのなかにいながら、息苦しさを感じる人もいるはずだ。それでも、東京に留まる理由とは。

出典SILLY編集部

「上司」という壁にぶつかり考える、会社の存在意義

「今の会社は、夢への通過点。いずれは地元に帰ります。大学を卒業してすぐ帰るより、何かスキルを身に付けた方がいいと思って。そのため、社会に影響力を持つ企業を就職先に選びました。

今の仕事は、体験型観光スポットのプランニング。陶芸やパラグライダーなど、実際に体験できる観光名所を開拓してサービス化するものなのですが……」

インタビューを行ったのは、彼女の勤務先から目と鼻の先にあるカフェの一画。まもなくして暮れはじめた空からは、パラパラと雨が降りはじめた。彼女は、雨音に耳を澄ますかのように一瞬沈黙したあと、次の言葉を継いだ。

「企画にして上司に提案するといつも『利益は出るの?将来性は?』と言われるんです。採算の合わない企画じゃダメだってことも分かります。でも、利益を出すための機能として営業や広告があるわけで。その努力もナシに頭ごなしに言われるので、元も子もない。そもそもこのサービスは、地域活性化や地域貢献も目的のひとつなんです。なのに、チャレンジをする勇気すら持たない上司からは、信念も感じられません」

出典SILLY編集部

そもそも彼女の考えはこうだ。

全国を一律的に見る時代
は、すでに終わった。これからは、特色のある地域づくりが必要になる。ある地域は漁業、ある地域は織物業というように、各自治体が独自の強みを持ち、発信していくことが大切だ、と。

「その考え方が通用するのか、ウチで試してみたら」。面接官にそう言われて、今の会社を選び、3年間頑張ってきた。

「でも、周りの評価ばかり気にする上司とやりあうことにだんだん疲れちゃって。自分の夢に近づいている感じも全然しないし……」

リア充な友人たち。それって楽しい?意味あるの?

彼女の憂いは、プライベートにも及ぶ。

「地方から上京している友人たちは、いつも話題のスポットやグルメの話で盛り上がって、みんな東京に浮かれてますね。しかも、何を楽しんだのかよりも、SNSに投稿してみんなの関心を集めることの方が目的になってるみたい。私にはちょっと理解しがたいです。写真より、いまその時間を満喫することの方が大事だと思いませんか?限定品=写真、行列=写真、グルメ=写真”そんな生活をしていたら、大事なことや本質を忘れそうです」

彼女の指摘に、思わずドキッとしてしまう。自覚がないだけで、似たようなことをしている人は、多いのではないだろうか。

「でもそういうのって、東京に住んでいる人の特権でもあるわけで。東京にいるからこそできることというか」

フォローともダメ押しとも受け取れる彼女の言葉。しかし、彼女自身も無表情で、どこか元気がないように見える。

出典SILLY編集部

東京生活は、就農までの「修行」。何かを生み出している実感を得たい

仕事でも私生活でも、悶々とした東京生活を送る彼女。ここまでの不満を溜めながらもなお、東京で暮らす理由は何なのだろう。

「今の仕事も暮らしも、修行みたいなもの。地元に帰ってからのことを考えた勉強期間として、東京で暮らす人の価値観や嗜好を学んでいる最中なんです」

たしかに、彼女の夢は地元で就農することだと語っていた。しかし、その夢と東京の価値観やらがどう結びつくのだろうか。

「畑を耕し、種や苗を植え、実をつけたら収穫する。農業には自分で何かを生み出しているという実感がある。本当に尊い仕事だと思います。しかし、いまの農業は、見通しが暗い。稼げないので、せっかく若い人が始めても、2〜3年で疲弊しちゃう。

でも、マーケティングの視点を取り入れたら活路があるんじゃないかと思うんです。生産者も、ただ作るのではなく、だれに対して、何をつくるのかを明確にすれば、良い方向に変わるんじゃないのかなって。そのためには、消費者が多く住む東京の考え方や嗜好を知る必要があると思っています」

ふと見上げた彼女の表情には、明るさが宿りはじめていた。

確かにそうだ。形を成さないサービスとくらべて、農業はどこまでもリアルだ。虚無な今を生きる彼女にとっては、理想的でやりがいのある仕事なのだろう。

しかし、彼女のような考えを持つ人は、やはり少数派であり、多くの人は、いつまでも東京で暮らしたいと願っているように思う。

なぜ、人は東京に憧れ、居続けようとするのだろう。

出典SILLY編集部

周りと同化する居心地の良さに、依存していないだろうか

地方に選択肢が少ないと思っているからだと思います。このままここに住んでいでも、やりたいことなんて見つかりそうもない。でも、東京に行けば何かが見つかるかも。その“かも”に期待して、上京する人は多い気がします。

それに、東京って周りと同化しやすいから、流れに乗ってしまえば流れるままに暮らしていける。東京に居続けようという意思がある人より、流れから逸れてしまうのが怖くてその暮らしに甘んじている人の方が、多いのかもしれません」

だからこそ、東京で探す「何か」を見つけるには、期限を決めた方がいい。演劇でもいい、バンド活動でもいい。目的を探すことが目的になってはいけない。そうなってしまうと、東京での暮らしは無為の連続だ。

そう話す彼女の目的は、言わずもがな地元を農業で振興するためのスキルを得ることである。

出典SILLY編集部

地方在住者のロールモデルになるのが夢

一方で、地方移住者の動向も一昔前と比べて活発だ。Uターン、Jターンをする人も、毎年一定数存在している。目的を持って地方暮らしを選択する人を増やすには、どうしたら良いのだろう。

「まず地方を知ること。だれかの体験を自分の体験としてトレースするのではなく、一日でいいから自分ごとにしてほしい。その地域の人がどうやって生きているのか、何を生産しているのかを体感し、地方の暮らしを自分の体に落とし込んでもらいたい。『地方には何があるんだろう』と、あえて知ろうとする姿勢が大事なんじゃないかな。

結局のところ、本人の視野が狭いと、都会も地方も関係ないんじゃないかと思うんです。都会にはいろんなことが詰まっていて、地方には何もないと、単純に思い込んでしまっている人が多いのではないかと。でも私は、その“いろんなこと”って、あなたにとって本当に必要なものなのかと問いたい。多くの人が唱える都会論や地方論が、自分にとっては当てはまらないかもしれない。その気づきがスタートになるんだと思います」

そう真摯に話す彼女。地元に戻ったらどんな活動をスタートするつもりだろう。

「畑を持つことが最優先ではありますが、地域を知ってもらうためのタッチポイントをつくっていきたいと思っています。マルシェの設営、ECサイトの開設、イベントの企画など、やれることはたくさん。就農体験の拠点づくりまで漕ぎつけられれば、今の職場で培ったこともムダにはならない気がする。

そのあとは、私自身が地方で幸せに暮らすロールモデルになって、地方でも幸せに生きていけることを身をもって証明したい。私のように東京で学んだことを地元で活かそうとする人が増えるといいな」

出典SILLY編集部

彼女のインタビューを終え、ふと思う。自分の夢は何だろう。その夢は、東京にいないと叶えられないのだろうか、と。そこには、自分のアイデンティティーすら揺らいでしまうような本質が見え隠れしている気がして、考えるのが少し怖くなる。

もしかしたら東京にいることは、さほど重要なことではないのかもしれない。いまからでも間に合うだろうか。夢や目的を達成するために本当に必要なことを探してみようか。

社会の価値観が目まぐるしく変わる現代。「東京」という価値もまた、彼女のような強い信念を持つ人に押され、緩やかながら変わりはじめている。

text : 香川妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa
photographer : 延原優樹 / Yuki Nobuhara

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