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3年ぶりの映画主演作『お父さんと伊藤さん』が公開される上野樹里。ドラマ、映画への出演など近年ますます精力的に活動するなか、結婚後の女優業への向き合い方、意識の変化、30代を迎えたいまの仕事観について聞いた。

30代を目前にしてリアリティのある人物像を演じたいと思った

――映画主演は3年ぶりですね。本作のどんなところに惹かれたのでしょうか?

上野樹里 お話をいただいたとき、ちょうど30代を目前にして(撮影時は29歳)、リアリティのある身近な人物像を演じたいと思っていたんです。男性の監督が撮る作品って、女性のヒロインに対して自分の好みや憧れを投影することが多いかもなと感じていて。

いままではそういうヒロインをたくさん演じてきたんですけど、私はこの通りサバサバしてますし(笑)、もっと素直に“自分”をさらけ出すような役もやってみたいなって。

この映画はすごく淡々とした家族の物語なので、映画として盛り上がるのかな? っていう不安もあったんですけど、ヒロインの彩という女の子にすごく好感が持てたんです。誰かに媚びたりしないし、ちゃんと現実を見ていて、どこか冷めた感じもある。

そんなある意味“魅力がない”ヒロインを、女性のタナダユキ監督がどう撮ってくださるんだろう、どうチャーミングに見せていくんだろうっていう興味がすごくありました。

――タナダ監督の演出のもと、実際に彩を演じてみてどうでしたか?

上野樹里 監督は現場で指示を出すというより、私とお父さん役の藤竜也さん、伊藤さん役のリリ-・フランキーさんの掛け合いを楽しんで見ているという感じでした。

本番では自分でもどう動くかわからなくて、何かあったら監督がブレーキやアクセルを踏んでくれるだろうと思っていたんですけど、ほとんど何も言われずに終わりました(笑)。

ただただ、3人の何げない日常の中で、周りで起きることを素直に感じていって、自然に成長していく彩の姿が映像になっていると思います。あまりに自然だったので、ちゃんとおもしろい作品になっているか不安だったんですけど、出来上がった作品を見たらすごくいい映画でした。

撮影現場での上野樹里とタナダユキ監督。

台本を読みながら話し合う様子。

――確かに、藤さんとリリーさんとの3人のやり取りがとても自然で温かかったです。

上野樹里 
私が印象に残っているのは、彩がお父さんをボーリングに連れていくシーンです。彩としては親孝行のつもりなんですけど、お父さんはガーターばかりで、あんまり楽しんでくれないんです。

でも、その日の最後に「楽しかった」と言ってくれるところがとても好きで。お父さんは、彩から見てイヤな部分もありますけど、藤さんが演じるとちょっと子どもっぽくてかわいらしいんですよね。

だから、決して明るい題材の作品ではないのに、どこかクスッとさせられるコミカルな感じが出たんじゃないかなと思います。その一方で、伊藤さんは彩よりよっぽどうまくお父さんとコミュニケーションを取って、楽しませてあげられる人なんです。

伊藤さんは彩の恋人ですけど、20歳も年齢が離れていることもあって、若干お母さん的というか、クッション的な存在でもあるのかなって。ふたりともすごく魅力的でしたし、そんな藤さんとリリーさんの人間力によって、彩という役も自然に作られていった気がします。

――3人でご飯を食べるときの会話など、日常生活のリアルな空気感がすごくよく出ていました。ご自身でもリアルさを意識したシーンはありますか?

上野樹里 
彩がご飯の支度をするシーンは、私の普段のやり方に近い感じでやらせてもらいました。彩のように料理しながらお酒は飲まないですけど(笑)、丁寧にゆっくり作るというよりは、手際よく作ろうとするタイプ。

炊飯器にスイッチを入れて、ご飯が炊き上がる時間までに他のものを作る、みたいな。そういうところで、自然に生活感のようなものが出せたんじゃないかなと思います。料理以外の部分だと、服装もリアルさを考えて提案しました。

彩はきっと生きていくために必要なものだけを持っている人で、ごちゃごちゃした服装はしないだろうなと思って。なので、首回りのあいたTシャツやデニム、ヒールの高くない靴など、動きやすい格好を意識しました。

ここから先の女優業って人間力がにじみ出てきてしまうと思う

――彩は34歳の女性ですが、ご自身のライフスタイルは今年30歳になって変わりましたか?

上野樹里 
20代の頃は化粧品とか服とか、けっこう無駄なものを持っていたんです。自分が何を好きなのかがわからないから、とりあえずトライしていたんですよね。

でも、いまはそれを断捨離して、スマートに生きたいと思うようになりました。冒険するというよりは、好きなものを深く掘り下げるようになったというか。

――今年ご結婚されましたが、そのことで変わったことはありますか?

上野樹里 
結婚してから、もう“自分ってこういう人間なんです”っていうのを種明かししてもいいんじゃないかと思うようになってきて。以前は、役者は普段どういう人なのかわからないほうがいいと思っていたんです。

だけど、そういう境界線みたいなものってなくてもいいし、あると疲れるしって。素の部分を隠す必要もないと思いだしてから、インスタグラムやTwitterを始めました。役者ではありますけど、まず人としてどんな生活をしているかって、すごく大事なことだと思うんです。

だからもっと普段の生活も充実させたいし、楽しんで人生を生きたいという気持ちがいまはすごく強いです。仕事をするうえでも、自分からやりたいこと、好きなことを発信していきたいなって。

仕事は趣味ではないですけど、好きなものを仕事にしていったほうが豊かになると思うんです。どんなに小さな仕事でも、お金にならなくても、自分が活き活きとやれて一番輝ける。そんなふうに思える仕事ができたら幸せです。

――結婚によって女優業への意識も変化したということですね。

上野樹里 
結婚する前は、時間を100%自分のために使っていたけれど、今はご飯を作ろうとか掃除しようとか、自分より優先するものができて。でも、それで仕事のクオリティが下がるようなことは決してしたくないので、そこは守りつつ、いい作品を作っていきたいです。

たぶんここから先の女優業って、人間力みたいなものがにじみ出てきてしまうと思うんです。今回の映画の藤さんやリリーさんもそうだし、今年出演したドラマ『家族のカタチ』(TBS系)の西田敏行さんや風吹ジュンさんもそうですけど、「この人が演じるとすごく泣ける」みたいなのって、皆さんの人間力だと思うんです。

そういう意味で、自分より誰かを優先して生きていくっていうのは、決して不利なことではなくて、ボーナスチャンスだなって。それはきっと作品のなかで表現するときにも、何かしらの形でにじみ出てくるものだと思うので。

――今作でも「自分をさらけ出すような役をやりたかった」とおっしゃっていましたが、きっとそれがにじみ出ているんでしょうね。

上野樹里 
自分でも気づかないうちに出てくるんだと思います。この作品でいうと、私はもともと猫背なので、お父さんに怒られて育ってきた娘という感じがよく出ていると監督に言われました。さらに藤さんも猫背なので、すごく親子っぽいって(笑)。

そんなふうに、自分にとってのダメなポイントが説得力になっていたりするんですよね。もし私がいいとこ育ちのお嬢さんだったら、全然説得力がなかったかもしれない。そう考えると、生きていることのすべてが役者にとっては大事。

よく演出家の方が“自然こそが一番アート”って言いますけど、それと同じように、日常こそが一番ドラマティックなんだろうなって。だからこれからは、なんでもない日常を楽しんでいきたいです。

(文:加藤 恵/撮り下ろし写真:鈴木一なり)

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お父さんと伊藤さん

彩(上野樹里)と、20歳年上のバツイチ男・伊藤さん(リリー・フランキー)が同棲しているアパートに、ある日、ボストンバックと謎の小さな箱を持って突然やってきた彩のお父さん(藤竜也)。

「この家に住む!生活費は自分で払う!」と言い放ち、その日から共同生活が始まる。とんかつにかけるソースをめぐり激論を交わす夕食。うすい壁一枚で仕切られた隣の部屋にいるお父さんの存在にあたふたする夜。

やがて、お父さんと伊藤さんの間に不思議な友情が芽生えていくが……。

監督:タナダユキ
出演:上野樹里 リリー・フランキー 藤竜也 長谷川朝晴 安藤聖
10月8日(土)公開

(C)中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

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