みんなが普段疑問に思っていることを調査・解決するコーナー「素朴なギモン」

ニュースを見たり、友だちと会話したりしているとき、知らない単語や気になる話題があると、ついついグーグルやヤフーの検索窓に「○○ wiki」と入力してしまう方はきっと多いはず。いまやインターネット百科事典の代表的存在・Wikipediaは、私たちの生活になくてはならないものになりました。

その膨大かつバリエーション豊かで、細やかな記事を見ていると、「一体誰が更新してるの?」「どうやって成り立ってるの?」と、素朴な疑問が浮かぶもの。そこで今回は、そんな謎を解くため、実際にWikipediaの更新に携わる日下九八(くさか・きゅうはち)さんにお話を伺いました!

Wikipediaは誰がどのように編集しているのか?

Wikipediaは、アメリカの非営利団体である「ウィキメディア財団」によって運営され、誰でも編集できるフリー百科事典です。では、どのようにして膨大なインターネット百科事典ができていくのでしょうか。

――はじめに、日下さんのWikipedia上での役割について教えてください。

日下さん(以下・日下):まず、誰であっても、特に役割が決められていることはないんです。

――それはどういうことなのでしょうか?

日下:Wikipediaは、みんな趣味で編集に参加していると思ってください。おかしいと思ったら、誰でも修正したり、書いている人に注意したりすることができます。方針やガイドラインといった決め事の議論にも参加できるし、管理者にも誰でもなれる。それぞれがやりたいことをやる、やったほうがいいと思うことをやる。一応、ぼくは日本語版で管理者権限を持っていますから、権限が必要な作業をしたり、あとは、削除の議論などに加わったり、編集方針の整理をすることが多いですね。

また「井戸端」というところで出た参加者の疑問や提案に対し、Wikipediaの編集方針や過去の議論を案内したり解説をしたり。何度かイベントをやった時に知り合った方から依頼されて、こういう取材に対応することもあります。でも、Wikipedia編集者のコミュニティを代表しているわけでもないし、何かを決定する上での裁量権があるわけでもない。個人情報や著作権侵害があった場合、コミュニティのみんなで削除するかどうかを決めます。削除するとなったら、管理者が削除の操作をします。その操作をできる人が、管理者です。

記事の編集や削除、翻訳などは、ほぼすべてボランティアによるもの

――Wikipediaはボランティアの方々で成り立っていると聞きましたが…。

日下:記事の編集や削除といった運営、翻訳など、ほぼ全部ボランティアで行っています。報酬もありません。サーバ代やエディタの開発などは、ウィキメディア財団が行い、こちらは職員もいます。たとえば、もし自分の趣味が自転車だとして、自転車のことが好きなら、自転車を買ったりパーツをそろえるのは、自分のお金を使いますよね。それと同じことで、ぼくはWikipediaがおもしろいと思っているから、こうして携わっています。

大量の情報がスピーディーに更新されるように見える“からくり”

――大量の情報は、どうやってスピーディーに更新されているのでしょうか?

日下:芸能やスポーツの話題など、多くの人に関心を持たれている記事は、書く人も多く、見る人も多いので、スピーディーな印象を受けるかもしれません。実際、新しい情報を加えるだけなら、書くのもさほど難しくありません。ネットのニュースや新聞、雑誌などでも取り上げられていますから、情報源を示すこともできますしね。その一方で、何年も更新されていない記事だってたくさんあるんです。

――確かに、ネット上にあって、自分が見た瞬間に書きこむことができ、誰でも編集できるということがWikipediaの強みですよね。では記事が更新されたというのはどのタイミングで分かるのでしょうか。

日下:更新があった記事や新しい記事がまとまってリストになっているページがあります。これも誰でも見ることができます。参加している人の中にはそれをチェックして、権利侵害のあるものは削除依頼に回します。またリンクやカテゴリなど、中身を知らなくてもできる範囲で記事を整えたりしてくれている人も何人もいらっしゃいますよ。

しかし、日下さん曰く、Wikipediaはあくまでも百科事典。新しい情報について書くことも大事ですが、ニュースを読んで、そこから踏み込んだ情報を得るために使われるものですから、それまでの歴史について充実させることも重要だと語っています。

Wikipediaでの対立がツイッターや2ちゃんねるに波及!?

――人気芸能人の記事でありがちな、誹謗中傷やデタラメな情報などが書かれた「荒らし行為」。こうした悪意ある荒らしにはどう対応するのでしょうか。

日下:荒らしと言ってもパターンがあります。「Wikipedia:荒らし」という文書で分類されています。根拠のない言葉が羅列してあったり、白紙になっていたり、明らかにおかしい記事は、有志の参加者がすぐに直してくれる場合が多いです。

――では、別のパターンの荒らしとは?

日下:悪意の有無が、それほど明らかでない場合も多いんです。「俺の好きな○○ちゃんに否定的なことを書くのは事実でも許せない!」という人がいるとします。そういった人が、否定的だけど妥当な記述を書く人に対しても「誹謗中傷」と言ってしまったりする。立場、知識量、参考にしている情報が違うから、別の意見を「デタラメ」と思ってしまう。そういうときは、どうしても場が荒れますし、そこで暴言や差別的な言葉が出てきたりもします。

――ファンにとっては、複雑な問題ですね。

日下:そうした対立で、記事の編集が繰り返されると、お互いにヒートアップして、ツイッターや2ちゃんねるのような別の場所に争いが波及することもあります。

耳を貸さない参加者には「ブロック」や「削除」の対応も

――参加者同士でトラブルが起きたときはどうするんですか?

日下:そうしたときは、Wikipediaの編集方針やガイドラインを説明して、理解してもらうというのが、基本的かつ理想的な対応です。対話がとても重要視されています。たとえば、「Wikipedia:検証可能性」「Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか」といった方針へのリンクを示して、「百科事典なので、あなたの意見を演説するのはやめて、そのような意見の元となるような信頼できる情報を提示しましょう、それによって、誰が書いても信頼性が担保できるんです」と伝える。

それでも耳を貸さない人がいると、そのページの編集ができなくなる「保護」や、そのアカウントが編集できなる「ブロック」などで対応します。また、書かれていることが個人情報や名誉棄損などの恐れがあるものなら「削除」します。これらも編集者の合意によって、決まります。

 こういったやりとりも参加者の中で行われるWikipedia。荒らしについても、参加者の中で気付いた人や、何とかしようと思った人の意思によって解決されているのです。

Wikipediaとは「読むもの」ではなく「編集するもの」

――日下さんにとってWikipediaとはどういうものだと考えていますか?

日下:ぼくたちは、Wikipediaとは読むものではなく、編集するものだと思っています。たぶん、熱心なWikipediaの編集者は、Wikipediaを読むためには使ってないんじゃないかな。

――確かに私たちにとっては、「読む」イメージが圧倒的に強いですね。

日下:Wikipediaには素晴らしい記事もあるけれど、編集に参加していると、たくさんの記事が書かれている現場を見ていますし、どうしても揉めごとや未熟な記事のほうが目につきます。だから、Wikipediaは信用できないって言われても、それはその通りだと思っている。ただ、素晴らしい記事もあるし、間違いや偏りもあるものだという前提で使う分には、かなり役に立ちます。

――ちなみに、書き手としてはどのようなメリットがあるのでしょうか?

日下:資料の探し方や信頼の置き方、中立性を担保とし、対立する意見にも配慮しながら、説得力を高める文章を書くということを身に付けることができると思います。単にもっともらしいことをいっているだけの記事なのか、ほんとに素晴らしい記事なのかは、丁寧に読んで、時にはウィキペディアとは別の資料を使って検証したりしないと判断できないということも分かってくる。

論文やレポートで、自分の説を主張するのでなく、先行研究をまとめて分かりやすく書くことを徹底的に行う感じですね。物書きが好きな方には、やりがいや面白さを感じてもらえるんじゃないかと思います。

日下:グーグルで検索をかけて、Wikipediaを読むって、みんながやるようになりました。これまで、こんなに百科事典を調べるってことが広く行われるようなことはなかったですよね。大事なのは、分からないことがあったら調べるっていう習慣を、世界のみんなが身に付けるってことだと思うんです。

調べれば調べるほど、興味も増していきます。Wikipediaで満足しないで、逆にWikipediaは間違っていると批判して終わらせないで、図書館へ足を運んで調べたり、間違いを直したりするようになってほしいです。そして、多くの人が参加し、書き方を身に付けていけば、間違いや偏りも少しずつなくなっていきます。

誰でも利用できて、誰でも編集に参加できる百科事典って、あったほうがいいと思いますし、Wikipediaのやり方は、かなり現実的に達成できる可能性があると思っています。まだまだ発展途上ですが、そういう未来を感じさせるものが、ぼくにとってのWikipediaです。

――今日はありがとうございました。


多くの人の知の共有によって、支えられているWikipedia。読者のみなさんも秋の夜長に、自分の好きなことをとことん調べて、Wikipediaに参加してみてはいかがでしょうか。

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