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なんだろう、このもやもやとした感じは。発展途上国を旅していると、感情に激しく揺り動かされた挙句にそんなことを思うときがある。

その原因は、道で目にする物乞いたちだ。私が初めて物乞いを自分の目で見たとき、かわいそうという同情と、想像を絶する目の前の現実に恐怖を感じた。

ポケットから少しばかりのお金や文具、お菓子などを手渡し、少しでも助けになっただろうかとホッと胸をなでおろす。しかし、その直後に、「私にも」と、何倍にも増えた乞う手を、恐怖のあまり思わず振り払ってしまった自分に嫌悪感を抱いたりする。

旅行者の中には、恵みを乞うその手に思わずお金を渡してしまう人、あまりの不幸な境遇に目を伏せてしまう人もいるだろう。

幼い乳飲み子を抱えて痩せこけた姿で座り込む母親や、四肢のない姿で道行く人にすがる若い男の光景に、自分はなんて恵まれた環境で生きているのだろうと感じる人もいるかもしれない。

しかし、その境遇が作られたものだったとしたら?

旅先で、このような場面に遭遇したとき、お金をあげるべきか、あげざるべきか、と悩んでいた私に、さらなる深い問いかけをしてきたのが、石井光太の著書『レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち』(石井光太/新潮社)だ。

この作品では、インドの町に蔓延る物乞いビジネスの、過酷で衝撃的な実情が、ストーリー仕立てで描かれている。少しでも同情が集まるようにと、マフィアによって盗まれてきた乳飲み子が、物乞いの女性たちに有償でレンタルされ、商売となっている現実。

乳飲み子から成長した子供たちが、手足を切断され、失明させられ、その姿を「売り」として物乞いがなされているという事実。

レンタルチャイルドとして利用されてきた子供たちは、やがて、ドラッグ、売春、強姦、裏切りの世界から脱することができなくなるという重い運命がそこにはある。

それは、日本で生活していると、全く現実味を帯びない、目を背けたくなるような衝撃的な光景だ。子供を誘拐するなんてひどい。子供をレンタルするなんて非道だ。お金を集めるためだけに手足を切断するなんて人間のすることか。

そこには、一見すると、「悪」だけが渦巻いている。しかし、それで終わらないのがこの作品だ。善と悪の二元論だけでは割り切れない社会のさまざまな側面を、こうでもか、と見せつけてくる。

虐待の事実を隠し、親を庇おうとする子供たちのニュースを、日本でも昨今耳にすることは多いが、マフィアに意図的に障害を持たされた子供たちもまた、マフィアを批判されると、彼らを必死に庇う。

その心とは? レンタルチャイルドと呼ばれる子供をダシに使って生活をしている女性たちは、一見すると悪にみえるかもしれない。

しかし、貧困の中で精一杯に生き、レンタルしている子供たちに、我が子のような情を持ち、苦しんでいる人もたくさんいる。その想いとは?

どす黒く見えるその裏では、表だけでは見えない人生をそれぞれが抱えていたりする。そして、お金への欲に塗りつぶされたように見える人々の心には、生と死の狭間で苦しみながら抱き続ける、仲間や家族への強い愛があったりする。

著者は、『世界の美しさをひとつでも多く見つけたい』(石井光太/ポプラ社)で、全ての作品は、「人間の美しさを見たい」という衝動がベースになっていると述べている。

この作品を読んでいると、過激で過酷で人間離れしているように見えるダークな社会を目にしているのに、なぜか、人間らしい、とてつもなく深い愛情を見せ付けられているような気持ちになる。それでも、あなたは、その母親にお金を渡しますか?

この作品に答えは書かれていない。しかし、この作品を読むと、その先に自分なりの答えが見えてくるような気がするのだ。善なのか悪なのか、何を信じてよいのか。自分に迷いの出るようなニュースも多い今。見なければ知らずにいられる事実はある。

知らなければ感じずに済む恐怖もある。知らぬが仏と言うように、知らずにいれば、気持ちを無駄に乱されることはない。

しかし、その実に真っ向から向き合い、深く立ち入ることで、そこに美しい側面があることに気付かされるときもある。もちろん、それには、もの凄いパワーを要することになるかもしれないが。

どうしようもなく目を塞ぎたくなったり、思わず事実から目を背けたくなったりする瞬間、そんな折にも一筋の光があることを指し示してくれるのがこの作品なのだ。

目の前の真実と向き合うことに迷いを感じたとき、この先、暗闇しか見えないと感じられたとき、この本を手に取ってみることをおすすめします。

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