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日本エンタテインメントシーンのトップランナー、中井貴一と吉田羊の出会いは、8年前に遡る。たまたまテレビを観ていた中井が、当時まだ無名だった吉田と、名優・西田敏行との秀逸なかけ合いに目を留めた。

「あの女優は誰?」と探し出し、中井が主演を務めたドラマ『風のガーデン』(フジテレビ系)に役を追加して吉田を起用。中井にその演技力を見出されてからの吉田の快進撃は言うまでもない。

吉田を見出した中井と、中井を恩人として敬愛する吉田が、夫婦役で初の本格共演を果した『グッドモーニングショー』について語り合った。運命的に出会ったふたりの初めての対談取材では、役者としてのお互いへの深い想いもあふれだした。

ラストシーンを撮って゛羊ちゃんにやってもらってよかった”(中井貴一)

この日の2ショット対談取材では、写真撮影のためカメラ前に並べば「ステキなジャケット!」と、さりげなく中井に微笑みかける吉田。久々の再会らしいが、ふたりにしか聞こえないくらいの小声で談笑しながら撮影に臨む姿は、まさに長年連れ添った夫婦のような雰囲気だった。

――夫婦役が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?

吉田羊 
中井さんとは常々、がっつりお仕事をしたいと思っていましたので、奥さん役ということでひとつ夢が叶ったなと。ただ、台本を読ませていただいたら、早朝、仕事に行く前と、夕方家に帰ってきてからしか、旦那様にはお会いできないという……(苦笑)。

中井貴一 
ふたり一緒の撮影が1日で終わってしまったので、ちょっともったいなかったなって気もしているんです。

吉田羊 
物足りなさがありますよね。

中井貴一 
でも、(中井扮する澄田が)朝、家を出てから1日中本当にいろいろなことがあって家に戻ったとき、部屋の奥に羊ちゃんがいて、というラストシーンを撮っていて“羊ちゃんにやってもらってよかった”としみじみ思いました。

吉田羊 
うれしいです。ありがとうございます。

――息子に「胸張れる仕事してるの?」と聞かれても何も言えない、情けない(でも、どこか憎めない)夫を、元キャスターのクールな妻・明美(吉田)はどう見ていたのでしょう? 撮影前、おふたりで相談されたことはありましたか?

吉田羊 夫婦像については、まったく相談しなかったんです。事件現場には行かなくなりましたけど、やっぱり現場が好きな旦那様だってことを、彼女はわかっていたと思います。

(劇中、立てこもり事件の現場に行くことになり、リポートどころか犯人と直接交渉するハメになる澄田の様子を、テレビ越しに見守りながら)カッコ悪くはありますけれども、この人がやっと活き活きしているというふうに思い直して、惚れ直す(笑)。

そんな瞬間がたくさんあった気がします。

“中井さんなら大丈夫”という思いが私にはある(吉田羊)

主人公・澄田真吾は、朝のワイドショーのメインキャスターを務めている。深夜3時の起床から、妻と息子の言い争いに巻き込まれてしまうなど、出社前から不穏な空気に包まれる(!?)澄田の踏んだり蹴ったりの1日が描かれる社会派コメディ。

実はかつて報道番組のエースだった澄田には、あるリポートが原因で番組を降板した古傷があった。

――夫が世間から避難を浴びたリポートの真相について、妻は知っていたと捉えていましたか?

吉田羊 
知らなかったと思います。

中井貴一 
うん、うん(うなづく)。

――では、数々の災難に見舞われながらも、なんとか乗り越えて帰宅した夫の「ごめんなさい」という言葉を、どう受けとめたのですか?

中井貴一 
いろいろな意味がありますよね。長澤くん(一方的に澄田に好意を寄せる小悪魔系サブキャスターの小川圭子役)のことも含め……。

吉田羊 
命の危険にさらされたことも含め。

中井貴一 
ただ、帰宅してから、ふたりが見つめ合うシーンがあるんです。そのとき、羊ちゃんがすごく心配していたという顔になっていたんですよ。

吉田羊 
心配ゆえに怒っているという。

中井貴一 
そう! 気持ちが明確に通じてくる。そういう表現って、テクニックではないんですよね。そこで僕は、すごく胸が熱くなりました。役者同士にしかわからない顔というかね、それは役者をやっていて、いちばん得をした気分になる瞬間なんです。

もちろんカメラはあるけれども、役として、カメラとは違う感じを受け取るわけです。共演する時間が長ければということより、その瞬間“本当に(妻役が)羊ちゃんでよかった!”って強く感じました。

――そんな偉業を、まったく相談なしで表現してしまうとは!

吉田羊 
やっぱり信頼感ですかね。“中井さんなら大丈夫”という思いが私にはある。実はラストシーンは、アドリブだったんです。台本では、ふたりが椅子を下ろし始めたところで終わっていて。

リハーサルからもずいぶん変わっていますし、(本番では)お互いに思いついたことをやっていった感じでした。

――エンドロールに及ぶ、長い余韻の残るシーンでしたが、君塚良一監督がカットをかけなかったのですか?

ふたり 
(同時に)そうです。

中井貴一 
映像の場合は、相手がセリフを間違えたら「はいカット、もう1回」となるけど、舞台は続けなくてはいけない。そういう意味では、君塚さんの現場は舞台みたいでしたね。芝居は生きていますから、100パーセント稽古と同じものは表現できないんです。

同じタイミングでセリフは言えないし、相手の動きが変わることだってある。常に変わっていく芝居に対して、リアクションしなくてはいけないわけです。そんなフレキシブルに動きを変えていく舞台の感覚で、君塚さんとやっていくと、楽しくてしょうがない(笑)。

芝居が生きものだということを強く認識させてくれる。だからおもしろかったですね。自分の感性がどこにあるのか? ってワクワクする感じがありました。

吉田羊 
テレビ(で夫の奮闘ぶり)を見ながら、少しずつ明美の表情が変わっていく過程を撮っているとき、小川さんと澄田のツーショット写真がテレビ画面に映ったシーンのリアクションを何パターンか撮ったんです。

「いまのとはちょっと違うのをください」ってけっこう何回も言われて、「もうないよ」ってところまでやらせていただいたんですけど(笑)。全部撮り終わったあとで「吉田さん、すみませんでしたね。もっと引き出しを見たくなってしまって」とわざわざ監督が言いに来てくださって。

“自分の芝居が悪かったんじゃないか?”って、私が気に病まないようにということまで察してくださって。優しい人だなって思いました。

中井貴一 
すごく男らしいところもあってね。判断の仕方もパッパッと決めていく。でも演出の仕方はとても繊細で。とくにテレビ局のシーンでは、メインキャストだけでなく、周りの人たちに対する気遣いみたいなものまで、細かく演出をなさるんです。

実際にテレビ局で報道の仕事をしている知り合いが、完成作を観て「うちのスタジオで撮ってたんですか?」って聞いてきたほどの臨場感が出せる監督ですから。全体を広角で見られるっていうんですかね。それは君塚さんならではという感じがしました。

僕の俳優の価値観かな。芝居をしないときは価値のない人間(中井貴一)

本作のメガホンを取った君塚良一監督は、“冬彦さん現象”を巻き起こした『ずっとあなたが好きだった』(1992年)や『踊る大捜査線』シリーズ(1997~2012年)をはじめ、テレビ業界を知り尽くした脚本家。

中井が主演した『携帯忠臣蔵』(2000年 ※『世にも奇妙な物語 映画の特別編』の一編)や橋田賞を受賞した『はだしのゲン』(2007年)の脚本も手がけた。

近年は脚本のみならず自ら監督も務め、『誰も守ってくれない』(2009年)『遺体 明日への十日間』(2013年)などの映画を世に送り出してきた。

――夫婦のラストシーンもそうですが、劇中、澄田の前に2度も立ち塞がるバリケードは、何の象徴だと思いましたか?

中井貴一 
ものを重ねて人が来られないようにするバリケードって、なんてアナログなものなんだと思いましたね(笑)。それ越しに人と人とが話すというのは、そんな障害があっても、お互いに目と目を合わせて、言葉を交わして、同じ空間にいることの大切さ。

結局、テレビってアナログで、人と人とを結びつけて対話させるものなんだということを、監督は言いたかったのではないかと思いました。人間同士って必ず障害があって、心にも壁があるけれども、それを越えて話していくことの大切さみたいなものを演じながら感じていました。

最後の夫婦の壁なんていうのは、まさしくこういうものだろうと思います。仲のいいご夫婦もいるけど、やっぱり何か壁はあるじゃないですか? でもその奥でわかり合えたりしているという、人間らしいもののたとえがバリケードなのかなと。

吉田羊 
バリケードって、だれもが持っているもので、他人ごとじゃないなって思いました。そしてテレビの世界も、演出という名前で許された嘘のようなもので「みなさん、ここから先は入ってこないでね」というバリケードがあって。

でもそこには、伝える側に心がなければいけないし、(視聴者を)楽しませようという思いがなくてはいけない。そういう約束ごとがあったうえで、対話しようとする、わかり合おうとすることが、ほどよい距離感のエンタテインメントを作っていくのかなっていう気もしたんです。

そういうものの象徴にも見えました。人間同士で言えば、中井さんがおっしゃったように、お互いに選ぶ言葉次第、出方次第で、バリケードって高くも低くもなっていくことを象徴したラストだと思います。それは、この映画全体に流れるテーマなのかなって。

――声高にメッセージを主張せずとも、楽しく鑑賞したあと、バリケードやテレビの在り方についてなど、自ずといろいろなことを考えさせられる本作にもつながりますね。

中井貴一 「広い野っ原で、自分たちで穴を掘って、いろいろなものを探してください」という映画だと思います。何も考えないで、エンタテインメントとして楽しむ人もいるだろうし、観る人の心によって、掘るものが違う。

「エンタテインメントという敷地のなかで、それぞれが見つけたいものを見つけて、感じてみてください」って。決めつけないで、見る人が好きに掘れる本を書くというのが、君塚さんの脚本のうまさだし、君塚脚本のおもしろさではないかと思います。

――観客を楽しませたいとエンタテインメントにこだわる君塚監督の思いには、おふたりも共感されますか?

中井貴一 それしかないよね?

吉田羊 (強くうなづいて)はい。

中井貴一 お客さんが楽しんでくれる、何かを感じてくれるというところに向かない限り、自分がいい気持ちになったって、何にもならないんですよ、俳優の仕事って。好き嫌いと一緒ですから。僕らが納豆だとすると……。

吉田羊 ん!?

中井貴一 どんなにおいしく納豆を作ったからって、嫌いな人は嫌いなんです。そういうことも考えながら、でも楽しんでもらう、でもおもしろかったねって言わせる何かを、僕らは考えていかなくてはいけないんじゃないかな。

「役者なんて、自分の内面にだけ向いていたら価値がない」というのが、僕の俳優の価値観かな。芝居しないときなんて、なんの価値もない人間だと思っていますから。

吉田羊 演じてなければ、タダの人!

中井貴一 本当に価値がないっ!!

吉田羊 本当にそう!!!

中井貴一 世の中の何の役にも立ちゃしないと思うけど、カチンコが鳴ってから終わるまでの間だけが、自分の生きている瞬間なのかもしれない。そこにも価値がないって思われてしまったらつらいけど(苦笑)。

もっと中井さんとやりたい。口に出せば実現するかな(笑)(吉田羊)

小一時間の対談中、随所に見られた丁々発止のやりとりが小気味良い。8年前の出会いは必然だったのでは? と思うほど、ぴたりと息の合ったふたり。

――満を持しての、本作での貴重な共演を経て、改めて芝居やお互いの魅力について、どんなことを感じましたか?

吉田羊 
バリケード越しに話すラストシーンで、私の出方とか、セリフのトーンとかを受ける中井さんのお芝居に、久しぶりにお芝居って楽しいなと心から思わせていただきました。

お芝居っていうのは、リアクションであって、会話であって、呼応なんだなっていうことを実感しました。ひとりではお芝居ってできないんだなと。

やっぱり昔から知ってくださっている中井さんだからこそ、少しのシーンでも夫婦間の信頼というか、このふたりだから出せたのかなという気はしています。

中井貴一 
ふたりでバリケードを下ろしていくことによって、夫婦として(の関係が)戻っていくっていうのは、羊ちゃんとだからできたんだって僕も思いました。

吉田羊 私の気持ちが高まれば、中井さんの気持ちも高まるし、お芝居が呼応し合っているということを実感できるシーンでした。私の気持ちが高まり過ぎて、中井さんが呼応し過ぎて、監督からダメ出しが入るっていうこともありましたけど(苦笑)。

「そんなセンチメンタルなシーンじゃないから!」って。たしかにつながったもの(完成作)を観ると、カラッとスカッと笑って終わる、みたいな最後に向かっていくので、現場でふたりで夫婦の絆を深め合ってしまったなって(笑)。

それくらい、何も言わなくても、通じ合える中井さんだからこそ、成立したお芝居だったなと思います。でも、もっとがっつりやりたいと思いました。できれば穏やかに関係を構築していくような夫婦役を……。って口に出しておけば、いつかは実現するんじゃないかなって(笑)。

中井貴一 
必ず実現しようね。

(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

グッドモーニングショー

澄田真吾は、朝のワイドショー『グッドモーニングショー』のメインキャスター。かつて報道番組のエースキャスターだったが、ある災害現場からのリポートが世間から非難を浴びて番組を降板。

以来、現場からのリポートが怖くてできなくなり、同期入社のプロデューサー石山聡に拾われて今に至っている。ある日、いつものように深夜3時に起床した澄田は、息子と妻の言い争いに巻き込まれる。

面倒くさいことから逃げるようにテレビ局に向かう車内で今度は、サブキャスターの小川圭子から連絡があり、ふたりの交際を今日の生放送で発表しようと迫られる。そんなとき、都内のカフェに爆弾と銃を持った男が人質を取って立てこもっているという速報が飛び込む。

芸能ゴシップや政治家の汚職事件、行列スイーツ特集を押しのけ、立てこもり事件をトップのネタとして番組はスタートするが、その直後、警察からとんでもない知らせが入る――。

脚本・監督:君塚良一
出演:中井貴一
長澤まさみ 志田未来
池内博之 林 遣都 梶原 善 木南晴夏 大東駿介
濱田 岳 吉田 羊 松重 豊 時任三郎

2016年10月8日(土)全国東宝系にてロードショー
(C)2016 フジテレビジョン 東宝
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