記事提供:サイゾーウーマン

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子がひもといていきます。

タッキーこと滝沢秀明の情熱的なエアギターに、異臭がするほどのクサいセリフ、そしてよくわからないシチュエーションでのチュー……舞台となるティファニーのイメージダウンとしか思えない安っぽいビジネスシーンで話題沸騰のドラマ『せいせいするほど愛してる』(TBS系)。

当初の衝撃もかなり薄まり、なんとなーく視聴率はジリ下がりのまま推移しているという。

今回ご紹介する、ドラマと同名タイトルの原作『せいせいするほど、愛してる』(小学館)は、ロワールというコスメ会社の副社長である既婚者の海里と、そこの広報で働く未亜の不倫物語である。

とはいえ、女性向けマンガであることから、“不倫推奨”というわけではないのだろうが、ぶっちゃけこの副社長、悪者にしか見えないのである。副社長は、既婚者とはいっても妻との関係はすでに壊れていることから、未亜に手を出すことに悪気はないのかもしれない。

だけどさ……。副社長の未亜に対するアピールが、セクハラとしか言いようがない! 例えば、元カレにつきまとわれている未亜を助けるのに、副社長は彼女にキスをして元カレをけん制するのだが、そこでチューは必要なのか?

また、未亜に靴を買ってあげる際も、なぜお姫様だっこが必要なのか? さらには、風邪を引いた未亜の熱をチューで測る必要があるのか……!!??副社長、あまりに未亜にちょっかいを出しすぎなのである。

2人は副社長と社員の関係であるがゆえ、これはもはやラブシーンではなく、パワハラというかセクハラというか、とにかく悪い匂いしか感じない。そんな、あからさまなセクハラにしか見えない副社長の愛情表現に、未亜はコロッとイッてしまう。

元カレとうまく別れられなかったり、仕事で困っているときに、正義のヒーローのようにやって来ては、せっせと助けてくれるのだから、クラッとくるのも仕方がないけど、「お願い、目を覚まして」と言いたくなる。

ある意味、お似合いな2人かもしれない副社長と未亜。しかし、不可解な点がある。副社長が、未亜のホテルの部屋に姿を現すシーンがあるのだが、それまでしてなかった薬指にリングをはめてるのだ。

あんなにセクハラまがいのことをしておいて、肝心なときにちゃっかりリング? この副社長、一体何がしたいんだ。「俺はストップかけてたんだけど、向こうが迫ってきて仕方なく」なんて言い訳するために、押しては引いて、押しては引いてのさざ波アプローチをしてるんじゃないのか?

そしてそれ以上に、不可解なのが未亜の仕事ぶりである。2人の不倫がバレたことで、結局未亜は会社に「辞表」を出すのだが……、えっ、ちょっと待って。

「辞表」というのは、役職のある立場の人が書くもので、一般社員は「退職願」か「退職届」である。そんな大事なものを書くときくらいは、ちゃんと調べてからにしようよ。ネットで調べれば、すぐに書き方や辞表と退職願の違いについて出てくるはずだから!

そう、この未亜、プレゼン資料を持たずに出張へ行ったり、コスメの先行発売日を連絡し忘れて売り場をガラガラにするなど、とにかく色ボケしてミスはするわ常識はないわのオンパレード。

まあ、あんまり仕事のできる感じじゃない。基本的に、未亜の脳みそは、仕事よりも色恋でピンク一色なのである。余談だが、この先行発売日のくだり、ドラマでも再現されていた。

ドラマの舞台はコスメ会社ロワールではなく、ティファニーになっているのだが、新作の発売日、店に客が来ないからといって、未亜は街でチラシ配りをするのである。しかも自作のチラシ。

「いらっしゃいませ~、いかがですかぁ~」って、どんだけ安い会社なの、ティファニー!! 街でチラシをもらったからって、「マジ? ちょっと買っちゃおうか?」って値段じゃないでしょう、ティファニー!!

基本的に、少女マンガの世界では、仕事と恋愛・結婚の両立が難しい。だから仕事に話の重点を置くと、恋愛はうまく描きにくいのだ。仕事に時間と精力を持って行かれたら、男の相手なんかしてる余裕はないし。

仕事の描写がリアルな『リアル・クローズ』(集英社)や『働きマン』(講談社)などの女性主人公は、なんの保障もない男たちとの付き合いよりも、自分を前進させてくれる仕事を選んでいる。

一方で、社会人の主人公が恋愛に重きを置くと、どうしても仕事の描写がおろそかになる。年下の彼とエッチするたびに仕事を休む『きょうは会社休みます。』(集英社)もそうだし、まさしくこの『せいせいするほど、愛してる』もそう。

たいていの場合、主人公はなんの仕事をしているかよくわらかないとか、キャリアアップでもなんでもない理由で「辞表」を出したりするのである。少女マンガが、女の夢や妄想の詰まった玉手箱なのはいいけど、仕事は真面目にやりましょうよ、ねえ?

ちなみに、ドラマで話題のタッキーのエアギター。原作にはそんなシーンも匂いもカケラもないのだが、あれは一体何を狙っているのかな……?

・メイ作判定
名作:迷作=1:9

和久井香菜子(わくい・かなこ)

少女漫画マイスター、文筆家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。

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