それは土曜日朝の出来事だった。
私はこれからバスに乗り、行きたくない所へ向かう。そう、職場である。バスに乗ると向かいに2人のおばあちゃんが座っていた。そのうち1人は、椅子に荷物を置いていた。

近くの席が一つ空いていたので、私はそこに座った。そしてバスは走り出した。

次の停留所に着くと、おじいさんが乗ってきた。向かいに座っていたおばあちゃんが気がつき、荷物をどけて「あ、ここ席空いてますよ」と言おうとするのを、もう1人のおばあちゃんが止めた。

「いいのよ下ろさなくて!若い人がゆずるべきなんだから」と、私に視線を送ってきた。私もおじいさんに気がつき席を立とうとすると、荷物を置いていたおばあちゃんも「でも、これ荷物だからいいのよ。」とまた荷物をおろそうとした。

すると隣のおばあちゃんはついに「いいのよ!若い人は座る権利ないんだから!」と言い放った。

私は席を立ち、運転席近くで立ったまま外を見ていた。するとフツフツと、フツフツととある想いが沸き上がってきた。

なぜ、荷物のほうが私より贅沢に座る権利があるのか。若いっていったって、チャラチャラ遊んでる学生じゃない。毎日夜遅くまで仕事して、今日だって本当は休みなのに、これから会社いって仕事するんだぞ私は!権利がないってなんだ!荷物以下か?!私は!!こんちくしょう!!

悔しさのあまり、目頭に熱いものがこみ上げてきた。

すると、遠くの方で先ほどのおばあちゃん2人の話し声が聞こえてきた。

「でもほんと、いいのよ、荷物だし。あのお姉さん座ってもらいましょう」「いいのよ!そのままで!荷物持ち上げるのだって大変なんだから!」「いやでも…」繰り返してる。私はじっと外を見ていた。

ようやく荷物を下ろしたのか、「おねえさん、どうぞ」という声がかすかに聞こえてきた。私はもう反応する気がおきず、ずっと外を見ている。

するとこのバス、やたらおじいちゃんおばあちゃん達が乗っていて、一部始終みていたのか、車内中から「おねえさん」「おねえさん」と四方八方から声が聞こえてきた。

すっかりふてくされてる私は断固無視。どうして立てと言われたり、座れと言われたり、あなたたちの言う通りにしなきゃいけないの。絶対座ってやるものか!!

すると見かねた近くのおばあちゃんが、私の腕に触れてきた。「おねえさん、席空いてますよ。」

だまって振り返ると、椅子から荷物をおろしたおばあちゃんが、「ここよ、ここ」と指で私に合図してきていた。しかしその奥で、座る権利がないと言い放ったおばあちゃんは、だまって私を見ている。

静かに「結構です」と言って私はまた外を見た。

それから何分だっただろう。車内がシンと静まりかえる。気まずい空気。誰も話さない車内では、バスの走る音と、アナウンスだけが響く。

職場前のバス停に到着し、料金を支払い、バスから降りた。心の中で、ゴングが鳴る。立ってやった。立ってやったぞ、最後まで。勝った。私勝った!謎の勝利基準。自分の行動が正しかったかは置いておいて、自分で納得できる勝ち方がこれだった。

世の中には優先席がある。徹夜で仕事して疲れていようが、体調が悪かろうが、公には優先して座れる者としては選ばれないビジネスマン。

でも、こっちだって奴隷じゃないんだ。大人げないと言われたって結構。世の為に働いて、税金だって納めてる。自分が席に座るか否かくらい、自分の意思で決めさせてもらいますよ。

勝利のトロフィーは、荷物を下ろしてくれたおばあちゃんにあげよう。気を遣ってくれて、ありがとう。

仕事がんばろう。爽やかな風を浴びながら、私は職場へと向かった。

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元キャリアウーマン。2009年から7年間会社員として働き、順調に出世、メンバー16名を抱える現場責任者となった。
キャリアを積んだ後、新しいことに挑戦したくなり、退職。(会社には感謝しています。)

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