“ミレニアル世代“によるNEO TOKYO MAGAZINE「SILLY」が、社会に埋もれた20代の声を代弁するコーナー「アノニマスリポート」。今回は、食を通して日本の「幸せ」について考える、一人の女子大生に迫る。


日本は、飽食の国である。

駅前のファミレス、雑居ビルの居酒屋チェーン、路地裏の小料理屋、雑誌で話題のカフェ。これらのキッチンの片隅には大きなポリバケツがあり、日々残飯が無慈悲にも放り込まれている。一方の家庭はどうだろう。添加物たっぷりの加工食品と農薬だらけの野菜が食卓に並び、ファストフードを昼に食べた父親と子どもが好き好きにそれらを箸で突つく。

いつから日本は、食事を、空腹を満たす『作業』に変えてしまったのだろう。

出典SILLY編集部

この現実を危惧し、自分にできる「何か」を模索し始めた彼女が、今回の主人公。

稲子きよみ。大学3年生。

彼女のブログには、こう書いてある。「この日本には食べ物が溢れ、モノが溢れている。なのに日本人は何か満たされず、不幸そうな顔をしている。長年飲食のバイトをしてきた私は、食から日本をどうにかしよう、そう思ったのです」と。

日本人の父、タイ人の母を持つ彼女は、幼少時から日本とタイを行き来するなかで、海外の人々の暮らしや働き方に興味を持つようになった。昨年は、タイ・シラチャにある飲食店で1か月間のインターンシップを経験。現在は、ラオスにあるラム酒のブルワリーで1年にわたる長期インターンシップに励んでいる。

食と日本と海外インターンシップ。これらをキーワードに、彼女が感じる日本の食の課題とその解決策を探しはじめた彼女の小さな一歩を尋ねた。

出典SILLY編集部

捨てられる残飯、死にそうな顔の店長…彼女が見た飲食業界の裏側

「高校生の頃から、飲食業でアルバイトをしてきました。コーヒーショップチェーン、立ち食いそば屋、個人経営のカレーショップ…。いろいろな店での経験をとおし、その店の存在意義が何かを考えたりしています。若いながらも思うところは、たくさんあるので」

インタビューが行われたのは、彼女がラオスに旅立つ1か月前。序盤から今回の核心である、日本の食の課題について触れた。

「アルバイトのなかに、食べ放題の店がありました。そこに来るお客は、食べきれないほどの料理を皿に盛り、平気な顔で残して帰っていく。そうやって日々大量に発生する食品ロスを始末する店長は、毎日死にそうな顔をして1日中働いていました

立ち食いそば屋では、前もって作り置きされた麺を注文が入るたびに温め、お客に提供していました。給仕の早さがウリの“立ち食い”ですから、そうなってしまうのも仕方ないのでしょう。

ただ、お客の腹が満たされればいいと考える店と、それを無意識に許容するお客の構図が、なんだかロボットのようで。自分がこれらの加担者になっていると考えたら働くのが嫌になり、両方とも早々に辞めてしまいました」

出典SILLY編集部

タイを知り、日本を思う…物質的な豊かさと幸福度は比例しない

若干二十歳にして飲食業の裏側を知った彼女だが、この経験を食の課題として明確に感じとったのは、タイでのインターンシップを終えたあとだという。

タイの所得水準は、日本の10分の1ともいわれており、日本人よりもはるかに不便でつましい暮らしをしています。多くの人は、粗末なものでも大切にしなければ生きていけず、それが食べものなら、なおさらのこと。それなのに、誰もが幸せそうで、生き生きと働いています。

一方の日本は、食べ物が溢れ、治安も環境もタイどころか世界有数の高水準にも関わらず、誰もが沈んだ顔で働き、全然幸せそうに見えません。この構図を前に、『日本は、いつから幸せじゃないんだろう』と考えるようになっていました。

食は人が生活を営むうえでの原点です。飲食業界でのアルバイト経験、タイでのインターンシップ体験を通じ、日本で食を介した幸福をつくっていきたい。自分のなかで悶々としていた思いが、次第に顕在化していきました」

彼女の話を聞きながら、ひとつ思ったことがある。

東南アジアの人たちは、リゾート目的で訪れる我々のような観光客をどんな目で見ているのだろう?我々は旅先のホテルで、ここぞとばかりの贅沢を楽しみ、ときに食を粗末に扱う。現地の給仕スタッフは、それらを黙々と片付け、自らは質素な食事を済ませる…。

渡航経験のある人なら、誰もが感じられるギャップ。リゾート目的で来ているのだから、そんなの気にはしていられないのだが、そんな旅も現地の人のリアルな生活が支えているのだ。

食を通じ、日本を幸せにしたい。彼女がとった次の行動

目標を見つけた彼女は、次のアクションをラオスでの長期インターンシップに決めた。

「インターン先である、ラム酒のブルワリーのオーナーとは、1年以上前にイベントで知り合いました。はじめは大学の授業の相談をしていたのですが、食に関するわたしの思いや夢を聞いてもらううちに、『ウチで働いてみたら?』と、声をかけてくださったんです。

お酒ではありますが、食という共通項があり、ラオスという国もまた、タイのような素朴な情緒が残っています。いまは、タイで見つけた目標を実現するための一歩を、ラオスで踏み出すことができたら、と考えています」

出典SILLY編集部

みんなが幸せと感じるなら GDPが下がってもいい

そう話す彼女が、理想とする日本の社会とは。

自分の人生を歩める人を容認できる社会になれば、と思っています。在宅勤務が主流になり、労働時間が減り、余暇を楽しむ人が増えれば、沈んだ顔をして通勤電車に乗る人たちも、人生楽しいよねって顔になるんじゃないのかな。いまほどに働かなくなるだろうからGDPが下がるかもしれませんね。でも、いいんじゃないですか。それぞれみんなが幸せなら」

あくせく馬車馬のように働き、食べものを粗雑に扱った挙句、ただ荒んでいくばかりの今の日本より、ずっといいと彼女は言った。

ラオスから帰国したあとは、どんな道に進もうと思っているのだろうか。

食をビジネスフィールドにした起業を考えていますが、具体的なことは、まだ描けていません。ラオスでインターンシップを体験するなか、食に関するファンダメンタルズを学び、その根本を飽食の日本に向け、今一度提起できれば。アルバイトとインターンシップを通じて得た知識と経験を、日本の幸せづくりに役立てたいですね」

何がしたいのか、何ができるのかを、日本を離れしっかり考えたい。そう話す彼女のオリエンタルな瞳は、酷暑続きの東京の気温を少し下げてくれるかのような清涼感を帯びていた。

出典SILLY編集部

日本の食をめぐる課題は、何も飽食だけではない。食の欧米化による成人病の増加、就農人口の減少、農薬や遺伝子組み換え作物の問題。生命あるものにとって最も大切とされる食は既に、健全さを失いつつある

これらに警鐘を鳴らす彼女の存在を知るだけで、私たちの意識は少しずつ変わっていく。彼女との出会いにより、わたしもまた食の課題と向き合う当事者になった。本記事を精読している皆さんはどうだろう。身近な食にもまた、たくさんの大きな課題が潜んでいることに、しっかりと目を向けてほしい。

食を通じた日本の幸せづくりはどんな姿になるのだろう。


Text: 香川妙美(リベルタ) / Taemi Kagawa
photographer: 榊 水麗 / MireiSakaki

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