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スタジオジブリが初めて海外スタジオと共同制作した『レッドタートル ある島の物語』。

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の短編『岸辺のふたり』(2000年)に感銘を受けたジブリの鈴木敏夫プロデューサーの「この監督の長編を観てみたい」という気持ちが出発点となり、高畑勲監督の協力を仰ぎながら、8年の歳月を経て完成した。

宮崎駿監督の長編からの引退でジブリの今後への注目が高まっているなか、外国人監督による“スタジオジブリ作品”となる今作の制作の裏にはどのような意図があるのか。

ジブリのこの先に向けてのどのような位置づけになるのか。高畑勲監督、宮崎駿監督の近況も含めて鈴木プロデューサーに話を聞いた。

ジブリ作品を外国人監督にオファーした理由

――今回はスタジオジブリ初の“海外との共同制作”という触れ込みで、鈴木さんがプロデューサー、高畑勲さんがアーティスティック・プロデューサーという肩書でクレジットされていますが、アニメーション制作の実作業的な部分でジブリはどのように関わったのでしょうか?

鈴木敏夫 アニメーション制作の実作業に関しては、すべてヨーロッパのスタジオで行いました。日本でやるかどうかは最初に話し合ったのですが、言語などの問題から、マイケルがヨーロッパでやりたいと。

そこは僕らもこだわるところではなかったので、向こうのスタジオでやってもらいました。僕と高畑さんがそれぞれのプロデューサーという立場で参加しています。

――2000年に公開され、米アカデミー賞短編アニメーション映画賞を獲得したマイケル監督の短編『岸辺のふたり』に感銘を受けた鈴木さんが、マイケルさんに長編を撮ってもらいたいということで、監督のオファーを出したと聞きました。それはどのタイミングでそう思われたのですか?

鈴木敏夫 本人と知り合ってからですね。人間的にとてもいい人なんですよ。ジブリの監督たちとは違って(笑)。語弊があるかな…。

思索的な人というか、頭に浮かんだことをすぐに口にしないというか。それが僕のなかで大きかった気がします。とにかくいい男。宮崎駿もそう言っていましたね。彼の家族も美男美女ばかりでした(笑)

――『レッドタートル』は、アート作品的な色合いも強いと思いました。アートとエンタテインメントとの棲み分けはどのように考えられていますか?

鈴木敏夫 フランスのヌーベルバーグがあって、それ以前と以降で、映画は変わったと思っています。もともと映画は作るのにお金がかかるものだから、商業主義を入れざるを得ない。

だからみんながエンタテインメントをやりながらも、そうではない部分も入れ込んで1本の作品のなかで両立していました。

それがヌーベルバーグ以降は、商業主義を外して作っていいという流れができて、エンタテインメントとそうではないアート系や社会派などの映画と大きくふたつにわかれました。

高畑さんにしろ、宮崎駿にしろジブリ作品というのは、実はヌーベルバーグ以前の映画を作っているんです。要するに、ひとつの作品のなかに両面を入れる。というふうに僕は思っています。

――これまで短編しか撮ってこなかったマイケルさんに長編を撮らないかと提案したそうですが、これまでの鈴木さんのジブリ作品でのお仕事ぶりを拝見すると、クリエイターを刺激するというやり方を貫いている気がします。

挑発しているという言い方もできるかもしれませんが。鈴木さんにとっては、挑発することこそがプロデューサーの仕事であるという考えなのでしょうか?

鈴木敏夫 ある意味、挑発ですし、そういうのが好きなんでしょうね。ただ、この『レッドタートル』に限って言うと、今までとはまるで違う。

今までは高畑さんや宮さんにしろ、作ってもらわないとジブリがやっていけないということがありましたけど、マイケルの場合はそうじゃなかった。本当に素直に彼の長編作品が観たいと思っただけなんです。

その違いはありましたね。結果として公開までに8年かかってしまいましたけど、僕はこの映画をすごく気に入っています。いろいろな人に見せたいな、という気持ちが大きいんですよ。

ジブリといえば夏のアニメ…今作が秋公開の理由とは?

――今回はマイケル監督が来日して、高畑さんや鈴木さんたちと一緒に1ヶ月近くにわたってシナリオ作りに励んだそうですね。

鈴木敏夫 なんでそうなったのか、正確なところは覚えていないんですけど、ホテルではなくて、アパートみたいなところを借りられないか、という話になったんです。

それでジブリの近くにあった、作業用のアパートをマイケルに提供したというわけなんです。

好奇心の強い人だから、日本のことを知りたかったんでしょうね。そこからジブリに通うマイケルと高畑を中心に、いろいろな話し合いを重ねて内容を練って、シナリオから絵コンテまで作りました。

――公開時期としてはいかがですか?ジブリ映画といえば夏公開というイメージが大きいですが。

鈴木敏夫 東宝の夏のアニメは決まっていましたから、僕が『レッドタートル』を夏公開でと言い出したら困るだろうなと思って。

そこは気を遣ったんですよ(笑)。でも実は、いつ公開にしますか、と言われたときに、夏前に公開しようか、という案もあったんです。でも結果として(宣伝の)時間もあったから秋で良かったですけどね。

――今回の作品は百数十スクリーン規模での上映となりましたが、どのように宣伝展開をしようと思ったのでしょうか?

鈴木敏夫 この規模のスクリーン数でやろうといったのは東宝なんです。僕の方からはとくに、どれくらいでやりたい、という要望は出していません。だいたい僕は昔からそうなんですよ。

言われたことに合わせて、そこからどうしようかなと考えるということです。だからこの規模で公開することになり、がんばらなきゃな、とは思いましたけどね。

創作意欲は衰えず!高畑勲、宮崎駿の近況は?

――最近、宮崎さんはCGを駆使して美術館用の短編を作っているそうですが。

鈴木敏夫 そうです。ただ、CGを使っているのは全面的にではなくて、だんだんと手描きの部分も増えています。順調にいけば来年の頭には完成すると思います。

――高畑さんも『岸辺のふたり』がお好きだったと聞きました。本作でもアーティスティック・プロデューサーとして参加されていますが、まだまだ高畑さんも創作意欲が旺盛ですね。

鈴木敏夫 宮崎駿もですが、高畑さんも意欲は衰えませんね。自分が作ったものを世間に出して、それで大向こうをうならせるのが映画監督というものだとしたら、やはり1回その味をしめた人は死ぬまでそこから離れられないですよね。

映画監督なんてそういうものですよ。そういう意味ではむしろマイケルの方が珍しい。その要素が少ないんですから。普通は大きな予算をかけて長編を作るとなったら心配になるじゃないですか。

いつのまにか心が弱くなって、ついついサービスをしておこうかなとなってしまう。

それはひと言でいうと「媚びを売る」ということなんですが、彼にはそういう要素がない。驚きですよね。世の中には、“媚びを売る映画”ばかりあふれている時代ですから。

――高畑さんは最近は何をやられているんですか?のんびり過ごされているわけではないですよね?

鈴木敏夫 全然!僕は最近、分かってきたんですけれど、人間って年をとればとるほど忙しくなるなんだなと。高畑さんも精力的に日本全国を飛び回っていますよ。それどころか海外にも出かけて、講演会をやったりしています。

求められるがままに、それこそ、そこが行きたい場所だったらすぐにでも飛んで行ってしまうんですよ。今度もまた海外に行くと聞いていますしね。ふたりには隠居という気分はまったくないですね。

――そうすると鈴木さんも休めないですね。

鈴木敏夫 僕は隠居したいんですけどね。僕ね、マイケルから真剣に聞かれて困ったことがあったんですよ。なんで自分で映画を作らないんだと。隠居したいからっていう本当の答えは言いづらかったです(笑)

転換期を迎えている日本アニメ。スタジオジブリの今後は模索中

――ジブリのアニメーション映画が夏休みの映画館で観られる日はまたいつか来るのでしょうか?

鈴木敏夫 あったとしても、とうぶん先になるでしょうね。やはりいまはジブリの転換期だと思います。

今までやってきた作り方も内容も含めて、次にいったい何を作ればいいのかと、みんながそれぞれにテーマを探しあぐねている時代ですから。

そして手法としても手描きからCGへと移っていくなかでどういう体制でやるのか。これらを見極めるのにもう少し時間がかかります。

――3DCGのアニメを作るかもしれないし、今まで通りかもしれない。そういう状況のなかで宮崎さんの制作へのモチベーションも高まっていると。

鈴木敏夫 そういうことですよね。自分の年齢の問題もあるから、若いスタッフと組んでやるというのもあるかもしれないですしね。いろいろな意味で、今は日本のアニメーションの転換期だと思いますよ。

手描きのアニメがなくなったわけではなくて、今でもたくさん作られているけど、その作っている人たちの高齢化が進んでいます。僕らが『となりのトトロ』を作っていたときは、みんな30歳前後でしたから。

あんまり言うと業界のマイナス要素になってしまうか(笑)。でも、そんななかで新海誠監督の『君の名は。』があれだけヒットしているのはすごくいいことですね。

――宮崎吾朗さんは今は武者修行中ですか?

鈴木敏夫 そんなことはないです。自分の信じた道を行きなさいですよね。何をやるかは、そのひと次第です。なかには映画以外のことやりたいというひともいるかもしれないし。

――スタジオジブリのこの先の方向性とは…。

鈴木敏夫 ひと言でいうなら「スタジオジブリの今後は模索中」です。

レッドタートル ある島の物語

嵐のなか、荒れ狂う海に放りだされた男が九死に一生を得て、ある無人島にたどり着く。

男はいかだを作りながらも必死に島からの脱出を試みるが、見えない力によっていかだは破壊され、何度も島に引き戻される。絶望的な状況に置かれた男の前に、ある日、ひとりの女が現れる――。

原作・脚本・監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット

脚本:パスカル・フェラン

アーティスティック・プロデューサー:高畑勲

音楽:ローラン・ペレズ・デル・マール

プロデューサー:鈴木敏夫/ヴァンサン・マラヴァル

製作:スタジオジブリ/ワイルドバンチ

9月17日全国ロードショー

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