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マイクロソフト、Amazon、スターバックスコーヒー…これらの企業の共通点は何だかわかりますか? そう、全て米国シアトルに本拠地を構えている企業なんです。シアトルはスタバ発祥の地であることから「コーヒーの街」というイメージが強いですよね。

しかし、メルマガ『たまさぶろの人生遊記』では「シアトルはBARの街」でもあったと驚きの情報が。著者・たまさぶろさんがシアトルで出会ったBARの魅力を存分に語ってくれています。

シアトルで出会ったBARの魅力

「シアトルはコーヒーの街であって、BARの街ではない」。そう思い込んでいた。確かにいくつかの名BARについては、日本でも話題に上るものの、シアトルの「BARシーン」がいかほどのものか、実はそれほど大きな期待を抱けずにいた。

BARと言えば東京、ロンドンやニューヨークといった国際都市がけん引役を果たしている…そう考えるのが常だ。よって「シアトルのBEST BAR 5」企画は、容易に書けそうだ…とまったく油断していた。

しかし、久々にこの街に飛び、初日から認識の甘さを思い知る。「シアトルはBARの街」でもあった。初日、時差ボケがまったく抜けないままシアトル郊外のベルビューという街へ。「Bellevue」は、フランス語で「美しい眺め」の意。

シアトル市の東に大きく広がるワシントン湖を渡るとそこがベルビュー。人口は13万人弱という瀟洒な街だ。北側にはマイクロソフトが本社を置くレドモンドという街が隣接。そのため私にとっても馴染みがないわけではない。

かつて出張で本社に足を運ぶと、現地の友人と夕食をともにするのは、ベルビューのショッピングモールやその周辺というのが常だった。シアトルのBAR探訪が、そんな郊外の街からスタートするのは、少々意外だった。

場所はベルビューの中でも古くからある「オールド・ベルビュー」と呼ばれる界隈。近年、高層ビルが立ち並ぶ新市街地とは異なり、古き良き街並みが残る。「こんな界隈で人生を送れば、きっと幸せに違いない」。そう思わせる。


シアトル郊外のBAR「モンスーン・イースト」で出会ったバーテンダーとは?

クルマを降り、店構えを眺める。「むむ、アジア系レストランだ」。その名も「モンスーン・イースト(MONSOON EAST)」。まだ陽も高いせいもあり「BARじゃないんじゃ…」という疑念さえ抱く。ここまでやって来たのだ。意を決して足を踏み入れる。

するとアジア系レストランとしてはあまりにも大きい立派なバックバーが、どんと広がっている。「なるほど」と考え直す。あとはバーテンダー次第だ。バーテンダーと挨拶を交わすとジョン・クリステンセン氏(Jon Chiristensen)は20年以上のキャリアを誇るベテラン

ワシントン州では、ベスト・ミクソロジストのひとりとされ、シアトル市内キャピトル・ヒルにある「モンスーン」1号店および「Ba Bar」と3店舗のバーテンダーを任されている。

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私の滞在日程と彼の取材可能日時が中々合致せず、シアトル・ワシントン州観光事務所がトップ・バーテンダーを紹介するためにベルビュー店舗にて彼のシフト日を見出し、わざわざアレンジしてくれたのだった。多謝。

店はドアを開くと左手の窓際にいくつかテーブルが並び、テーブルから通路を挟んで右手には奥にむかってカウンターが延びている。カウンターはレッドウッドの1枚もの。カウンターは7席。アジア風の内装なので様々な素材を組み合わせつつも、バッグバーにウッディな棚を使用。

実に多様なボトルが並んでいる。店のドアからカウンターを避けるように右手前にぐるりと進めばレストラン・スペースだ。オーセンティックなBARではなく、レストラン・バーである点が、この店をカジュアルに仕立てている。

気軽に立ち寄れる雰囲気を作り出しているため、BARは敷居が高いと考えている方、また観光客さえも、気後れすることなく本格的にBARを愉しむことができそうだ。

銀座の超名店のバーテンダーも驚くカクテルに遭遇!

カクテル・メニューを眺める。「BARREL AGED COCKTAIL」なる文字「樽で熟成したカクテル」だ。しかも脇には「Aged In-House」とある。「スピリッツをさらに自分で樽熟成させ、それを使用したカクテル」だろうか…。

それならこれまでもお目にかかったことがある。クリステンセン氏に聞くと、そうではない。「カクテルそのものを樽熟成させるんだ。つまり、一度作ったカクテルを樽に詰め、それぞれに応じた期間熟成させ、それを引っ張り出し、改めてビルドやステアでサーブするんだ」とのこと。

さすがに「何年」単位で熟成させるわけではない。しかし、これまでに私自身、そのカクテルを試したことがあったかどうか、記憶が定かではない。四の五の考えていないで、まずはオーダーしてみる。

最初にチャレンジしたのは、「ダーティ・ブルバード(Dirty Boulevard)」。アメリカの代表的なライ・ウヰスキーである「オールド・オーバーホルト(Old Overholt)」のキナート樽で熟成したものに、カンパリ、オレゴン州ポートランドの「ハンマー&トング」社のスイート・ベルモットとともに、オーク樽で2か月寝かせた後に、それをステアし、サーブする一杯。

「クラシックなスタイルのものを作りたかったんだ」と氏が語るだけあり、どことなくマンハッタンをイメージさせるが、使用しているカンパリの苦味がきつくなく、しつこくない軽い甘味を感じさせつつ、オークの奥行きと深みがあり、得も言えぬ魔力を感じた。時差ボケボケていた私の頭も、こいつですっきりと覚める。

樽熟成したカクテルは、シアトルではポピュラーなのだろうか…クリステンセン氏に訊ねる。腕の立つバーテンダーやミクソロジストなら「待ってました。もちろん俺が発明したんだよ」ぐらいのセリフを吐きそうだ。

しかし、気さくなクリステンセン氏は「うーん、確かにそんなに多くはないね。俺が初めてってわけでもない。ロンドンか、イタリアのバーテンダーが始めたという説だけど、色々と試してみると愉しいものだよ」と肩肘張らずに解説してくれた。

「ボスはね、もっと大量に作ったら、樽だしで売れるんじゃないかなんて言ったりするんだけど、それは無理だよ」と苦笑してもいた。帰国後、この手法は私が無知なだけで、すでにかなり世界では大人気かもしれない…。

と疑問がもたげ、銀座の超名店「毛利バー」で大御所・毛利隆雄氏に訊ねたが「ほお、そんなことするのですか」と巨匠の眉もちょっと上がった。いずれにせよ、「一般的な」カクテルとは言えないようだ。私のような一介の酔っ払いとして大発見でもある。

調べると、東京でも池袋にこの技法を好んで使用するBARがあるそうだ。

現地の老夫婦が愛するマティーニを堪能

モンスーン・イーストには、ランチとディナーのブレイクもなく、取材時の夕刻も営業中。私がカクテル片手に「うーん」とか「むむ」とか唸っている間にも、次々とお客がやって来る。

カウンターの奥に座ったのは、70歳後半と思われる老夫婦。すると、ご主人がマンハッタン、奥さまがウォッカ・マティーニをオーダー。陽の高いうちから、のんびりとハードなカクテルを傾け始める。

うむ、この閑静な街で17時からこの年齢の夫婦がカクテルを嗜む…ぜひ私自身もそんな人生を送りたいと羨望の思いで眺める。

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奥さまがあまりにも美味しそうにウォッカ・マティーニを呑んでいるので「ウォッカとジンと、どっちのマティーニがお勧めか」とクリステンセン氏に訊ねると「もちろん、ジンさ」と即答。ジン・マティーニをオーダーする。

するとドンとカウンターに出してくれたのが、シアトルのローカルジン、Copperworks」とラベルされたひと品。

あとで調べるとシアトル・ダウンタウンのウォーターフロントに位置する蒸留所で、まだ創業間もなく、バーボンではなくシングルモルト・ウイスキーを生産すべく操業しているが、その前にジンおよびウォッカを作って、日々を凌いでいるらしい。癖のない素養の良さそうなジンだ。

これに「Brovo Witty」という、州内のクラフト・ドライベルモットを使用し作ってもらったマティーニが写真の通り。

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このベルモットを作っている「Brovo Spirits」は、近隣の「ウディンヴィル(Woodinville)」にある蒸留所。現在、ウディンヴィルには急速に蒸留所が増えており、私も数日後に足を運ぶことになる。

日本の芋焼酎を使ったカクテルも?!クリステンセン氏の技量に驚き

知覧醸造の「ほたる」を使用したカクテルモヒートよりもさっぱりマティーニは、コンベンショナルなマティーニよりも呑み口が軽い。ジンのクリアな素養にベルモットのフレッシュさも加わり、まだ明るい時間に呑むには打ってつけである。

色はヴェスパー・マティーニのように濁っているが、ずっとフレッシュなフィニッシュに仕上がっていた。私にとってショート・カクテル2杯はそれほど大きな問題ではない(もちろん、日本よりも相当グラスはでかいのだが…)。

しかし、クリステンセン氏は、さすがトップ・バーテンダー。強めのカクテルが続いたので「リフレッシュメントだよ」と、さらに一杯を差し出してくれた。いや、これが実にフレッシュで、目が覚める。「何が入っているか判るかい。これだよ」とさらにドンと出される。

知覧醸造の黒糖仕込み「ちらん ほたる」。ラベルに「Fire fly」と表記し、しっかり輸出している知覧醸造にも感心するが、それをしっかり仕入れ、さっと日本からやって来た呑み助に披露するクリステンセン氏にも感心しきりだ。

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クリステンセン氏が「こんなもんもあるよ」とボトルを並べ始めると、なんとそのひとつのラベルに氏の顔写真が…。これはさきほどのBrovo Spiritsが企画した「プロジェクト・アマーロ」に参加した際のもの。

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アマーロは、イタリアの薬用酒。イタリア産ビター・リキュールの総称で、かなり多くの製法と配合があると言われている。主にアロエ、アニス、ニガヨモギ、シナモン、カルダモン、ニガアザミ、キナノキ、クミン、コリアンドロ、ウコン、ダイオウ、アーティチョークなど実に多様な薬草が使用される。

シアトルでそのアマーロを作るプロジェクトに13人のバーテンダー、ミクソロジストが参加。商品化され、そのひとつが氏の顔がラベルとなっている「#11」。13種類の中でも#11は特に人気の一本と、地元のニュースメディアでも賞賛されていた。

クリステンセン氏のカクテルを3杯飲んで気持ちよくなった私は、シアトルのダウンタウンに夢見心地で戻る。シアトル一軒目から素晴らしいバーテンダーに巡り会ってしまった。

帰国後、#11とグレープフルーツのリカーを使用した「EU238」というクリステンセン氏のオリジナルがあることを知った。後の祭りだ…。また、彼を訪ねる旅の機会がすぐに訪れることを祈る。

クリステンセン氏自身、日本のバーテンダーにも非常に敬意を抱いており「いつかは日本に行きたい」と熱心に語っていた。日本のバーテンディングを取り入れた時、氏のカクテルも、きっと新たなフェーズへと発展するかと思うと、ぜひ来日を実現して欲しいものだ

MONSOON EAST
10245 Main Street,Bellevue, WA 1-425-635-1112

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