記事提供:日刊サイゾー

“町中華”という言葉をご存じだろうか?主に個人経営の中華料理店のことで、中華と名乗りながらも、カツ丼やらカレーも食べることができ、店内には昭和のレトロな雰囲気が漂っている。

さらに、おいしさはさほど重要ではなく、数百円でおなかがいっぱいになる、といったら、なんとなく伝わるだろうか。

でも、そういえば、最近見かけなくなった?

『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(リットーミュージック)は、サブカル界のスターの北尾トロ氏(隊長)と下関マグロ氏(2号)、さらに、ゲイマガジン「薔薇族」の二代目編集長・竜超氏による、町中華の記録本である。

町中華の店主たちは、主力が70代で、80代もちらほら。超高齢化の荒波にさらされ、ひょっとして滅亡の危機に瀕しているのではないか――。

「急がないと、大変なことになる」と、30年来の盟友である北尾氏と下関氏が立ち上がり、町中華の面白さを伝える親睦団体「町中華探検隊」を結成。

のちに、竜氏をはじめとする隊員をどんどん増やしながら(40人超!)、怒涛の食べ歩きを始めた。

活動のきっかけは、高円寺にある町中華「大陸」の閉店だった。この店は、北尾氏が20歳の時から30年以上にわたり、足しげく通った店で、いつも注文していたのは“まずくてうまい”300円のカツ丼。本書には、こう記されている。

「丼のぎゅうぎゅう押し込まれた飯と分厚い衣にくるまれたカツが織りなす力強さは、たいしてうまくないという現実を忘れさせるパワーに満ちていた。しょっぱすぎる味付けで、合成着色料たっぷりの沢庵三切れがつく。とにかく飯の量が多くて、そんなに押し込んだらまずくなると思うのだが、腹ぺこ野郎どもを満腹にしてやることに使命感を感じているようだった」

そう、町中華は、味はどうあれ、おなかいっぱいになることが最重要なポイントなのだ。北尾氏によれば、食べた直後は「もうやめよう」と思うのだが、10日もすると、ウズウズして懲りずに訪れてしまう。

たいしておいしくないにもかかわらず、引き寄せられてしまう。これぞ、町中華の真骨頂なのかもしれない。

一方の下関氏は、そういったお店をよく利用していたものの、“町中華”という言葉は知らなかった。

ごく初期には、町中華の定義を知りたいと、町中華らしき店を見かけては、北尾氏に「ここは町中華なのか?」と確認していたが、ほどなくしてやめる。どうも答えが“ゆらぐ”のだ。

当初、北尾氏は「カツ丼がある店」ということを絶対条件として挙げていたが、その後、カツ丼、カレーライス、オムライスがあることが町中華の「三種の神器」だと言い始めて、でも、やっぱり定食もない…と、コロコロ言うことが変わる。

さらに「駅前の店限定」「単品はあってもエビチリはない」、挙げ句は「床が少しぬるぬるしている店」などの条件も増やしてみたりと、迷走を繰り返した。店主の個性が激しく反映される町中華は、どうもビシッと“くくれない”のだ。

1年がたったころ、少食の2人は調査に限界を感じ、もっと町中華の実態を知るべく、竜氏をはじめとするメンバーをどんどん増やし始める。そして、駅に集合して周辺エリアの町中華をめぐり、気に入った店で食事をする“地域アタック”を決行するようになる。

武蔵小山、西荻窪、荻窪、下北沢、築地、押上などなどを訪れ、とにかく町中華を求めて町を歩き回り、各自が行きたい店を訪れ、食べまくる。そして、“油流し”と呼ばれる、喫茶店での恒例儀式(感想会)を開く。

店舗の実名もバンバン出て、感想が述べられているので、気づけば自分も参加しているような気になる。

「オヤジさん、出前に備えてバイクのヘルメット被って鍋振ってましたよ。あれすごかったなあ」

「決しておいしそうに見えず、サイズだけを強調している盛り付けが立派です」

「いや~、まずかったなぁ」

「全部食いきれるかどうかヒヤヒヤしたよ」

そんなコメントを聞いているうちに、うちの近くにも、町中華あったっけな?と思い始め、探したくなってきた。町中華が、なんだか妙に気になってくることは間違いない。

・きたお・とろ

1958年、福岡県生まれ。ライター。本やマニア、裁判傍聴、狩猟など、好奇心の赴くまま、さまざまな分野で執筆。

町中華探検隊では隊長を務めるものの、好きな割に食べっぷりは力弱く、隊員の助けを借りて完食にこぎ着けている。『裁判長!ここは懲役4年でどうですか』(文春文庫)、『沈黙の オヤヂ食堂』(KADOKAWA)など著書多数。

・しものせき・まぐろ

1958年、山口県生まれ。街歩きをしながら、ネタを探して原稿を書いている。町中華探検隊では2号。店舗ファサード、店の歴史などに興味あり。主な書著は『歩考力』(ナショナル出版)。メシ通に「美人ママさんハシゴ酒」を連載中。

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