昭和33年(1958年)茨城県水戸市で発生したバラバラ殺人事件の捜査を追った写真集『張り込み日記』(渡部雄吉:著)。2011年にフランスで発刊されベストセラーになり、その後に日本でも発売されました。2014年には構成と文を小説家の乙一氏が担当したバージョンが発売されています。奇妙な運命をたどったこの写真集について調べてみました。

きっかけは昭和のバラバラ殺人事件

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昭和33年(1958年)1月13日、茨城県水戸市である事件が起こりました。千波湖の湖畔で人体の一部が入ったオイル缶が発見され、バラバラ殺人事件として捜査開始。遺体の他部分は湖畔の藪の中で発見され、被害者が東京の男性であることがわかります。そのため捜査は茨城県警と警視庁捜査1課が合同で進めることになりました。

茨城から派遣されてきた若い刑事と、1課のベテラン刑事というドラマのような組み合わせ!カメラマン渡部雄吉氏はこの二人に同行し、捜査の様子を写真に収めていったのです。

新米刑事とベテラン刑事

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新米刑事とベテラン刑事、昭和のバラバラ殺人事件…まるで映画の世界のようです。「張り込み」というよりは捜査中の様子を撮っているようですが、当時の雰囲気が伝わってくるように感じます。

大西克己連続身代わり殺人事件

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この事件は一筋縄ではいかない複雑な事件でした。大西克己という人物が養父母を殺害し逃亡、他人になりすますため山口県や茨城県で年恰好の似た男性2人を殺害するという凶行に及んだのです。2人目の被害者の時が水戸の事件です。しかもこの犯人、もともと結婚して子供もいた上になりすまし後も別の女性と結婚・子供をもうけていました。それでも凶行は止まらなかったのです。
※1959年、水戸地裁で死刑判決。1965年、死刑執行。

水戸の事件発生時にすぐに非凡な事件だとわかったため、事件記録(調査の文書化)のために写真家の渡部雄吉氏が警察に同行することを許可されたようです。
※この画像はイメージです。

張り込み日記/渡部雄吉

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Watabe Yukichi: A Criminal Investigation

事件と捜査に密着した迫力ある写真たちは雑誌で発表されたものの、その後は特に話題にのぼることもないままでした。しかし2006年、イギリスからやってきた古書ディーラーが神保町で作品のオリジナルプリントを発見!2011年にフランスから写真集を発売し、瞬く間にベストセラーになります。

海外で大人気に!

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2011年の「BOOKS OF THE YEAR」にも選ばれ、海外のニュースサイトで好意的かつ丁寧に紹介されていました。写真の中の刑事たちを「日本のハンフリー・ボガートコロンボだ」、「レイモンド・チャンドラーの小説のようだ」「フィルム・ノワール(退廃的な犯罪映画)を連想させる」などと書かれています。

※ハンフリー・ボガート…ハリウッド俳優。ギャング映画やハードボイルド映画に多く出演した渋い俳優。
※コロンボ…刑事コロンボ。アメリカのロス市警殺人課の警察官コロンボを主役とした小説・ドラマ。
※レイモンド・チャンドラー…犯罪・サスペンス・ハードボイルド系の小説家。

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この写真のクオリティ!二人の刑事という存在だけでなく、昭和の日本の空気をくっきりと感じさせる写真が海外で先に人気になったのもわかる気がします。こうして事件から50年以上経った現在、海外版の人気を受けて日本語版も販売されました。しかし数は少なかったり絶版になったり、入手困難で値段が高騰したりとまだまだひっそりしていたようです。

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やっぱり刑事ドラマのワンシーンのように見えますが、本物の犯罪捜査の記録なんですよね…。「ただ撮った」だけでない何かがあるからこそ、海外で出版されて話題になったんだと思います。

渡部雄吉(わたべ・ゆうきち)/1924年、山形県生まれ。写真家。田村茂の助手を経て独立。ウィーン「世界青年平和写真展」報道写真部門でのグランプリなど国内外を問わず数々の賞を受賞。1992年、紫綬褒章授章。1993年に69歳で死去している。

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渡部氏は事件当時34歳。働き盛りの彼は当時、刑事コンビをどのような想いで見ていたのでしょうか…。そういうところにも想いを馳せると、また違った印象を受けそうです。

2014年、構成に乙一氏が参加したバージョン発売

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そうして2014年になり、構成に人気作家の乙一(おついち)氏が参加したバージョンがナナロク社から発売されました。写真数140点以上、ニューバージョンということで改めて購入する人や、乙一ファンが興味を持って買ってみて感動する…などじわじわ話題に!値段が高騰していた海外版に比べて購入しやすいので、手にしてみる人が増えました。

昭和三十三年、茨城県水戸市千波湖畔―。子供たちが発見したのは切り取られた体の一部だった。このバラバラ殺人事件は、更に怪奇な事件へと変貌する。犯人の手掛かりを追って、舞台は、東京へ。ベテランと若手、二人の刑事が真相に迫る。「実際の捜査」を二十日間にわたって密着撮影した、140点以上の実録写真集!

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事件や写真に興味を持った方は、ぜひチェックしてみてください。

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