激動の昭和の時代を振り返るとともに、現代に残したい当時の学びを探るコーナー「昭和土産ばなし」

昭和のマナー・モラルについて語る今回の記事。前編では『「昔はよかった」と言うけれど』の著者である大倉幸宏さんの話から、昭和のマナー・モラルは今よりも乱れていたことがわかりました。後編では、当時の昭和のことを実体験として記憶している方にも話を伺います。

『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』(東京創元社)などの著作を持つSF作家の山本弘さんは、1956(昭和31)年生まれの60歳。山本さんも、「昭和よりも今の時代の方が断然マナー・モラルは向上しています」と話すひとりでした。

お話を伺ったのは、東京・飯田橋にある、創業40年の老舗喫茶・カウベル。昭和のことを聞くにはうってつけの場所です。

人も歩けば、糞尿に当たる?

出典Spotlight編集部

山本弘さん(以下、山本):日本人のマナー・モラルは、いまの方が明らかにいいですよ。

例えば『犬のフン』。僕が小さい頃、つまり昭和30年代から40年代前半にかけてですが、道端にコロコロと落ちていて、よく踏んづけたものです。

あと、『小便鳥居』の存在をご存知でしょうか?昔はそこらじゅうで立ち小便する人が多かったものですから、家の塀などに縁起物の鳥居を描いたり置いたりして、小便を引っ掛けられないようにする文化があったんです。

山本:電車にしたって、昔は『降りる人が先』なんてルールはなかったですからね。ドアが開いた瞬間、降りる人を差し置いて、座りたがる乗客が我先に乗り込んだものです。

他にもたくさんあるんですが、昭和後期にあたる1970年代や80年代だって、国内旅行に行った人が、ホテルの備品を盗んできたことを自慢げに話していたことだとか、そういう話はよく聞きましたね。印象に残っているのは、ある漫画家さんの漫画に、『公衆トイレに入ってトイレットペーパーを盗んでくる』というストーリーが当たり前のように描かれていたことです。当時の人にとっては、ただの体験談というか、“悪いこと”という認識すらない。マナー・モラルが昔よりいまの方が向上していることは明らかです。

さらに、さまざまな「データ」を見るのが好きだという山本さんからは、こんな話も飛び出しました。

山本:マナー・モラルの話とは少しそれるのですが、実は、殺人事件の数ですとか、少年犯罪の数も、昭和に比べて平成の方がどんどん減っていってるんですね。もうこうなってくると、『昔の方がよかった』なんてのは、ただの間違いなんですよ。

確かに「年次統計」のサイトなどを見ると、殺人事件の数は昭和25年あたりから明らかに減少しているのがわかります。それでは、なぜ昭和の時代は“美化”されているのでしょうか。山本さんはこう話します。

山本:僕は日本人の性質だと思いますね。報道とかは抜きにして、人々の傾向として、嫌なことは忘れて、いいことしか語り継がないという性質が、このような現象を生み出したんだと思います。

“古き良き時代”なんて言い方もしますが、いいところばかりを切り取ったものだったなんて、なんだか騙された気分です…(笑)。

では、マナーやモラルはどのようにして向上したのか?

今の時代、舗装されたアスファルトの上には、山本さんが言うように「よく踏んづける」ほど犬のフンは落ちていませんし、銭湯の湯を汚したり、列車内でゴミを投げ捨てたり、ましてや川にゴミを投げ捨てたりする人はほとんどいません。では、なぜ日本人のマナー・モラルは向上したのでしょう。

前編に登場してくださった、『「昔はよかった」と言うけれど』の著者、大倉さんは、次のように話します。

大倉幸宏さん(以下、大倉):日本人のマナー・モラル向上については、昭和30年代後半から、昭和40年以降が一つの転換期だと思います。いくつかの要因があって、ひとつは1964(昭和39)年の東京オリンピックです。オリンピック開催前に、“東京を、外国人に見られても恥ずかしくない街にしよう”という運動が活発に行われ、全国に広がっていったと言われています。

また、高度経済成長期に、例えばインフラが整備されて街にきちんとしたゴミ回収システムができたことや、公衆トイレが増えたことなど、環境が整ったことで必然的に街がきれいになっていったのです。

かつて、東京オリンピックで日本がよくなったということは、通算2回目の東京オリンピックが行われる2020年前後にも、何か大きな変化が生まれるかもしれませんね。

大倉:大きな流れで見た場合、明治や大正、昭和初期の日本と、戦後・高度経済成長を経た日本を比べると、一人ひとりが見える“社会”が大きく広がっていますよね。日本人は世間体を気にするところがあるので、知人などに対しては元々礼儀正しいんですね。でも、赤の他人に対しては傍若無人

戦後、他人と触れ合う機会が増えたり、テレビを通して広い世界を見たりしたことで、“社会”に対する意識が変わり、他人に対しても配慮する必要性を感じるようになっていったのだと思いますね。

山本さんにも同じ質問をしたところ、このような答えが返ってきました。

出典Spotlight編集部

山本:なぜ日本人のマナー・モラルが向上していったかって?僕は「衣食足りて礼節を知る」ということわざがすべてを表現していると思いますね。日本は豊かになった。余裕ができたからこそ、マナーやモラルもよくなっていったんです。

1926年〜1989年まで、約63年間という長い間続いた昭和の時代は、マナー・モラルがひどい時代もありました。しかし、戦後の復興に尽力し、高度経済成長期を経て、現在に至るマナー・モラル、きれいな日本の礎を作ったのもまた昭和の人たちということになるのでしょう。

「昔はよかった」というのは、そのまま鵜呑みにするものではないということがわかりました。ただ、やはり昭和という時代があったからこそ今の日本があるのは間違いありません。

今後、2020年の東京オリンピックをひとつの契機に、日本がより素晴らしい国に生まれ変わるかもしれませんね。

出典Spotlight編集部

取材協力:カウベル
東京都千代田区飯田橋4-5-2
創業40年を誇る、昔ながらの純喫茶。夜はスナックへと姿を変える。
営業時間は喫茶10:00~18:00
スナック18:00~23:30(L.O.23:00)

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