ネットやテレビで話題のニュースに関して、編集部が独自の切り口で取材調査をする「ソコ行く!?ソレ聞く!?取材班」のコーナー。

千葉県船橋市で先月、夫が介護していた認知症の妻の首を絞め殺害しようとするという痛ましい事件が起こってしまいました。今回の事件に限らず、このような「介護疲れの末に...」と聞かれるニュースはしばしばあります。どのようにして人はそんな状況になってしまうのか?悲惨な事件を繰り返さないために、介護をする際私たちが考えることは何か?文筆活動でも活躍する月読寺の僧侶・小池龍之介さんに教えていただきました。

介護は望んだリターンが返ってこないから辛い

出典Spotlight編集部撮影

大切に想っていたであろうパートナーを「殺したい」と考えてしまうことは、本来ならばありえないこと。そのときの状況や、相手の反応、自分の気持ち、様々な条件が積み重なって、「殺さざるを得ない」状況になってしまったのではないでしょうか。そのような状況まで、人の心が追い詰められてしまうメカニズムについて、最初に考えてみましょう。

人は、自分が相手に何かを「してあげた」とき、無意識に相手からのリターンを求める気持ちを抱いてしまうものです。たとえば、自分が相手に優しくしてあげているんだから、相手からも優しくされたいと感じる。何かモノをプレゼントしたら、それに対して喜びのリアクションや感謝の言葉がほしいと思う。

今回の事件はパートナーの介護ですので、介護する側は介護される側に、大変なことをやっているのだとわかってほしいとか、ねぎらってほしいという気持ちが生まれていたのかもしれません。しかし介護となると、たいていそのリターンが自分が望んだ分も返ってこない。それどころかゼロ、ということはしばしばあります。介護される側は申し訳ない、恥ずかしいといった気持ちから冷たい態度をとってしまうこともあるでしょうし、認知症の場合なら、介護してくれるパートナーのことをパートナーと認識できなくなっている場合すらある。一生懸命介護をしている側からすると、「こんなにやっているのに、どうして」と無力で報われない気持ちが続いてしまいます。

介護をする、される関係になる以前が、良好なパートナー関係だったならなおのこと。自分が何かすることで喜んでくれていた相手が、何の反応も示さなくなってしまえば、その落差はより大きく感じられいっそう無力感を感じることにつながってしまうのです。

「閉じた世界」で追い詰められると、その世界を壊したくなる

これが夫婦間あるいは家族間の閉じた世界で起こっている場合、介護する側は生活の大半を無力で報われない辛さに満たされて過ごすことになってしまう。精神的に追い詰められてしまうのです。

このようにして人が極限まで追い詰められたときにどんな気持ちになるか。それは「この閉じた、ふたりの世界を壊してしまいたい」という気持ち。このニュースで取り上げられている方に限らず、誰しもに生まれ得る感情です。その「壊したい」が行動として表れるのが、相手を殺すこと、自死あるいは心中すること、それから介護を放棄することです。その中で、「相手を殺す」という結果に至ってしまったのが今回のケースなのだと思われます。

介護する側とされる側だけの世界をつくらないことが大事

「壊したい」という感情が誰しもに生まれ得る感情だと言いましたが、最悪の事態を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。

まず大切なのは、介護する側と介護される側、ふたりだけの閉じた世界をつくらないことです。夫婦間あるいは親子間でも、介護関係は閉じた世界になりがちです。そうではなくて、家族の中でも分担を行っていくとか、もう少し広く親戚の力を借りるとか。金銭的な問題もありますが、介護の専門職の方の力を借りたり、介護施設を利用したりということも有効な手段だと思います。介護専門職の方であれば、介護される人との関係が元々ないので、リターンを求める気持ちが比較的弱い。「報われない」という辛さが少ない状態で介護できます。

それから、介護をする人は相手がどんなに大事だったとしても、介護が自分の生活の全てになってしまわないようにすることも大切です。他の趣味や交友関係をきちんと築き、優先順位も高くしておく。介護で何か苦しいことがあっても、他のものがあれば、それがいい意味で「逃げ場」になってくれます。大切なパートナーだけを何よりも優先しなければならない、という気持ちは、結果的にパートナーのことも自分自身のことも苦しめてしまう。別のものをきちんと大切にする、というのも介護の健全なあり方のひとつなのです。

自分の“当たり前”を相手に求めない

出典Spotlight編集部撮影

介護する側になったときには、「自分の“当たり前”を相手に求めない」ということを意識してみてください。たとえば介護してもらったらお礼を言うべきだ、とか、大切な自分の名前は憶えていて当然だ、とか。介護されるようになってしまったら、まして病気になってしまったら、お礼の言えない状況も、相手の名前や存在がわからなくなってしまうことも、よくあることです。

そこで「どうしてわかってくれないんだ」「ちゃんとしてほしい」と望んだって、仕方のないこと。相手はあなたのルールに従うことは出来ないわけですから、そこを理解し、割り切って、自分のルール通りに動いてくれることを求めずに接してみてください。そうすればきっと、介護される人との新しい関係を築いていくことが可能となるのではないでしょうか。

(小池龍之介)

【次回予告】

次回のテーマは、今年何かと世間を騒がせた「浮気」。人は、どうすれば浮気したい欲求を抑えることができるのか。こちらも大変参考になるお話を聞くことができました。

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ギリギリ昭和でゆるゆるゆとり世代。「わからないことは人に聞けば大体教えてもらえる」がモットーの、人物取材系の企画が好きなフリーランスのライターです。記事・企画とは全く関係なくとも、取材した人のグッとくる一言を収集する趣味があります。

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