記事提供:日刊サイゾー

「イスラム教徒なんて、テロを起こすんだから出ていけ!」

昨年11月のフランス・パリ同時多発テロ事件以降、ヨーロッパでは日常的にこのような声が上がっている。まるで、イスラム教徒全員がテロリストかのような扱いだ。しかし、そのイスラム教徒の数は、いまや世界に約15億人以上。

しかも年々増え続け、まもなく3人に1人がイスラム教徒になる時代がやってくるといわれている。

『となりのイスラム』(ミシマ社)は、圧倒的にイスラム教徒の数が多いんだから、この先、彼らと関わらずに生きていくなんてムリ。仲良くやっていく方法を考えましょうよ、と提案する1冊だ。

日本人にとって、イスラム教はかなりなじみが薄い。そのため、“イスラム”と名の付いているイスラム国(IS)と、善良で優しいイスラム教徒がごっちゃになって、「なんだかコワイ存在」と思っている人が本当に多い。

だからこそ、イスラム教徒とはどういう人たちなのかを知り、なぜISが生まれたのか、そして戦争やテロを起こさないために私たちができることを考えるべく、この本は生まれた。

著者は、現代イスラム地域研究専門の社会学博士である内藤正典氏。1981年から83年までシリアに留学し、91年にはトルコに家を持ち、現在に至るまで、ヨーロッパ各地でイスラム移民の声に耳を傾けてきた。

「調査方法としては、まったく古臭いやり方」と語る内藤氏だが、彼らの生の声や様子がリアルに伝わってくる。

内藤氏は、ヨーロッパの人々が自分たちの価値観に合わせないイスラム教徒に対し、“いじめ”まがいのことをする様子を目の当たりにしてきた。

いつか暴力で反撃されるのでは、と心配していたが、それは街中のテロという最悪の形で実現した。

言うまでもなく、罪のない市民を巻き込むテロを繰り返すISが悪であることは大前提だが、ヨーロッパ各地がなぜ標的にされるのか?

それは、「西欧的な進歩主義は唯一無二の正しい道」だと思い込んでいるからではないか、と内藤氏は指摘する。

西欧の人々は、イスラム教徒たちが『コーラン』に基づき、1日5回の礼拝を行い、豚肉やアルコールを禁止していることは時代錯誤で「遅れている」とみなしがちだ。

スカーフは女性の自由を妨げるものであり、イスラム教徒のシンボルだと言って、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギーでは、公共の場で禁止されている。

しかし、実はイスラム教徒の女性は、スカーフをかぶるかどうかは選択することができ、多くの女性が「恥ずかしいからかぶっている」ということを理解していない。

日本人も、どこか西欧に憧れを抱き、「発展していくことが正しい」という価値観にのみ込まれている節がある。

しかし、“発展するために”毎日働き詰めで、どこか殺伐として、結婚や子どもを持つことが困難な社会は、本当に発展しているといえるのだろうか?それって、なんだか疲弊していないだろうか?冒頭にも書いたが、イスラム教徒は増えている。

決まりごとだらけで、大変なだけの宗教ならば、誰も好んで入りたがらない。数が増えているには、理由があるのではないか――。

かつて私は、トルコやエジプト、ヨルダン、イランなどのイスラム圏をひとりで旅した。ヨーロッパは、どこかピリッとした空気に包まれているが、イスラム圏に入ると、途端にのんびりとした空気が流れる。

おもてなしの精神が強い彼らは、どこまでも親切で、優しくしてくれるので、ホッとしたことを覚えている。

混乱前のエジプトの首都・カイロで、新聞記者の夫と、会社の事務員として働く妻の夫婦に出会った。日本では新聞記者というと、昼夜問わず忙しそうだが、彼は夕方4時頃に仕事を終え、私をレストランに連れて行ってくれた。

食事をしている時、奥さんから「どうして日本の女性は、子どもを産んだら仕事を辞めるの?」と、不思議そうに質問された。イスラム世界では、すべての者は平等であり、弱者を守る文化がある。

そのため、女性や子どもを守ることを前提に社会が回っているので、小さな子どもがいるからといって、何かができなくなる、という発想がよく理解できないのだ。

イスラム世界がスバラシイ!とゴリ押しするつもりはまったくない。しかし、彼らに学ぶことも多い。偏見からは何も生まれない。浅草などの観光地を訪れれば、イスラム教徒があっちにもこっちにもいる時代が、もうやって来ている。

4年後には東京五輪も控えている。まずはこの本を読んで、彼らのことを知ることから、始めてみてはどうだろうか?

・ないとう・まさのり

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学分科卒業。社会学博士。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、現在、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。

著書に『イスラム――癒しの知恵』(集英社新書)、『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』(集英社新書)、『ヨーロッパとイスラーム』(岩波新書)、『トルコ 中東情勢のカギをにぎる国』(集英社)など多数。

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