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「『キャプテン翼』の高橋陽一先生が日本のサッカーを作った、と言っても過言ではない」

80年代のサッカー好き家電芸人・土田晃之さんがラジオ番組で熱く語った。けだし名言である。

『キャプテン翼』は、サッカー後進国日本に大ブームを巻き起こしただけではなく、ジダン、イニエスタ、デル・ピエロ、ロナウド、メッシ…数えきれないほどのスーパースターたちに愛される世界的な「サッカーのバイブル」となった。

時に2016年──「女子サッカーのバイブル」になりえるマンガの連載が始まり、サッカーファンをざわつかせている。それが、『さよなら私のクラマー』(新川直司/講談社)だ。

本作は、2009~2010年にかけて連載された『さよならフットボール』の続編ともいうべき作品で、作者の新川氏が満を持して世に送る「女子“フットボール”マンガ」だ。

『さよならフットボール』では、才能はあるが環境に恵まれず、“男子サッカー部”でプレーする天才少女・恩田希が、あの手この手を使って中学の新人戦に無理やり出場し、“フィジカル”の壁に立ち向かう──姿を、幼馴染の男子たちとの恋心などを交えつつ、魅力的に描いた。

だが、それはあくまでも「男のサッカー」の中での戦いだった。

対して、本作『さよなら私のクラマー』では、高校に進学した希が、「女子サッカー部」に入り、それまで出会ったこともないようなハイレベルの女子プレイヤーたちと出会い、「夢のようなサッカー人生」を歩み始める。

ストーリーは王道。主人公をはじめチームメイトや監督、コーチ、敵チームのキャラクターは、ひと癖もふた癖もあって個性豊かで魅力的だ。

その上、ユニフォームや練習着、シューズや用具などの描き方も丁寧なうえに着こなし方などが絶妙で、スタイリッシュ。なによりプレー中の選手の描き方がいい。

足首の角度、指先の形、競り合うときの体の入れ方、掛け合うセリフ──作者の新川氏のフットボール愛とこだわりを感じるのだ。

(ただし、プレー中の描写は流れよりも「動きの瞬間」を切り取り過ぎているためか、サッカーをあまり見ない読者には、前にボールを蹴っているのか、フェイントをかけているのか、わかりづらい描写があるのは否めないが、とはいえ)

この作品がこの勢いのまま続いていけば、『キャプテン翼』のように日本全国の少女たちに影響を与え、女子サッカーの裾野が広がるだろうと期待が膨らむ。

しかし、この作品は、女子サッカー選手たちが強敵を打ち破っていくだけのサッカーマンガではない。

セリフの端々、キャラクターたちの心の動きや置かれた状況には「女子サッカーとはなにか?」「日本女子サッカーが瀕する危機」というテーマが込められている。

たとえば、希たちの蕨青南高校の深津監督は、“女子サッカー”に対してまったくやる気を見せず、問いかける。

「女子サッカーに未来はあるのか?かつて世界王者となった女子サッカーを取り巻く環境はどうだ。純粋なプロクラブはいくつある?いくら稼げる?環境改善に協会は何をしてくれた?(才能のある選手を)世界のフットボーラーに育成する土壌はあるか?」

出典 http://ddnavi.com

2011年のW杯でなでしこジャパンが優勝し、日本に巻き起こった女子サッカーブームは、2012年のロンドン五輪の銀メダルでやや失速。

2015年のW杯決勝での惨敗、レジェンド澤穂希選手の引退、リオ五輪の予選敗退などが重なり、女子サッカーの雲行きは怪しくなっている。なでしこリーグの観客動員数は年々右肩下がりだ。

「なでしこジャパンの国際大会での活躍頼み」では、女子サッカーは一過性のブームを繰り返すだけで、文化として定着しない。

「えー!!女子サッカーぁ!?レベル落ちちゃうじゃないですか!!なまっちゃう!!」

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世間の声を代弁するかのような希のセリフ。

「レベルが低いならお前が上げてこい。なまるのなら、お前が走れ。もう一度、女子サッカーを世界一にしてこい──お前は、女子サッカーに行くんだ。

(中略)

世界中の人々が手も使えない不自由なスポーツに、何故こうも熱狂するのか、その理由を俺達に見せつけてくれ──」

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中学時代の鮫島監督は、熱い思いを希に託し、告げる。

このやりとりこそ、本作のテーマだ。

『さよなら私のクラマー』というタイトルは、「日本サッカーの父」と称されるドイツ人指導者デットマール・クラマーと決別し、“日本の女子サッカー”という新たなフットボールを作り上げてほしい──作者の新川氏が本作に込めた、女子サッカーへの熱い思い、エールなのではなかろうか。

であるならば、作者の新川氏と月刊マガジン誌には、構想している内容すべてを描き切るまで連載を続けてもらわなくてはならない。もはや、それは義務だと断言してしまおう!

いちサッカーマンガではなく、日本女子サッカーの未来を背負ったマンガなのだから。

ボールは丸い。蹴りだせば、運命は転がり始める。

『さよなら私のクラマー』が、日本の女の子たちがサッカーと出会うきっかけになることを願う。

そして、日本に“女子サッカー”という新たな“フットボール”が生まれ、根付き、なでしこの花が可憐に咲き続けることを、願って止まない。

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