記事提供:幻冬舎plus

「死んでいく患者も、愛してあげてよ――」終末期医療の在り方を問う、現役医師による感涙のデビューミステリ『サイレント・ブレス』。刊行を記念して、著者の南杏子さんよりメッセージをいただきました。

どんな人にも必ず死が訪れます。老いや病気で自分の体を思うように操れなくなる時期が来ます。元気に活躍するお年寄りや百寿者の増加がもてはやされていますが、誰もが終末期を迎えるのです。

しかし、長く医療の現場では、患者の死は「負け」と位置づけられてきました。私自身医師として、同じ哲学のもとに病気と闘った時期もあります。

その一方で、祖父を介護した経験に始まり、終末期を迎えた多くの患者と向き合いながら、徐々に考えが変わりました。その間の迷いや学び得たことを、ミステリーの味つけでつづったのが本作です。

そこには、天才外科医も奇跡の治療法も登場しません。ただ、何人かの患者たちが、小さな謎を抱えながら物語の中を行き交います。一つ一つの真実が解き明かされたとき、人生の最後を彩る「光」と「影」を読者の皆さんに感じていただければ幸せに思います。

終末期医療の現場では、患者も家族も迷いの連続です。それはまた、医療者の側も同じことです。口から食べられなくなったら胃瘻をするのか?点滴はどうする?延命治療を行うのか?そもそも、どこからが「延命」なのか……。

さらに高齢患者の手術や抗癌剤治療の是非についても、医療現場の議論は分かれます。すべての人に当てはまる正解などはありません。しかし、人生の最後であっても、いや最後であるからこそ、生きることを楽しむのを忘れてはならないと強く思うのです。

たとえば冒頭で紹介したように、死を「負け」と考えるのでなく「ゴール」と考えることで、終末期医療の風景は180度異なってくるはずです。いつか巡りくる死をどんなものにしたいか、どんな姿が理想なのか――。

この小説が、読者の皆さんが心の準備を始める小さなきっかけになればと願っています。

関連書籍

南杏子『サイレント・ブレス』(9月8日発売)
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大学病院の総合診療科から、「むさし訪問クリニック」への“左遷”を命じられた37歳の水戸倫子。そこは、在宅で「最期」を迎える患者専門の訪問診療クリニックだった。命を助けるために医師になった倫子は、そこで様々な患者と出会い、治らない、死を待つだけの患者と向き合うことの無力感に苛まれる。

けれども、いくつもの死と、その死に秘められた切なすぎる“謎”を通して、人生の最期の日々を穏やかに送れるよう手助けすることも、大切な医療ではないかと気づいていく。

そして、脳梗塞の後遺症で、もう意志の疎通がはかれない父の最期について考え、苦しみ、逡巡しながらも、決断を下す―ー。その「時」を、倫子と母親は、どう迎えるのか……?

南杏子(みなみ・きょうこ)

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、都内の大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを勤める。

帰国後、都内の終末期医療専門病院に内科医として勤務。本書がデビュー作。

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