これはよその国の話であって、よその国の話ではないと思います。フィリピンでこの6月末に就任したロドリゴ・ドゥテルテという大統領は、まだ就任して2ヶ月しかたっていませんが、トンデモ大統領だということがわかってきました。

法律も人権も無視して、麻薬取引に関わったとみなされる国民1700人を、かたっぱしから無条件で銃殺してしまうという、超過激な政策を行って世界をビックリさせているのです。

え、取り調べや裁判も無しに?司法はどうなってるの?と現代の法治国家の国民なら誰もが耳を疑います。もはや政策とさえ呼べないような、超法規的な私刑です。

前世紀どころか帝政時代、いや帝政時代でも裁判は行われていましたから、もっと昔に戻ったような感覚です。

また今回ラオスで開かれるASEAN首脳会議で、ドゥテルテ大統領はアメリカのバラク・オバマ大統領との会談が予定されていましたが、「オバマ大統領がフィリピンの超法規的殺害に対して異議を申し立てた場合には騒ぎを起こす」と挑発的な発言をし、「このサンノバビッチめ!」と汚い言葉でオバマ大統領を罵りました。

そのためオバマ大統領は「個性的な男だ。会談する意義があるかどうか再検討する」と言って会談をキャンセルしました。当然の話です。

南沙諸島問題等でアメリカとの協力関係の強化が不可欠なフィリピンの大統領ですから、キャンセルされてから慌てて、「言ったことを後悔している。オバマ大統領を尊敬している」と声明を出したそうですが、後の祭りです。

オバマ大統領は既にその日は韓国のパク・クネ大統領と会談することに決めてしまっていました。いったいどういう外交センスをしているのでしょう。

確かに麻薬撲滅のためには、麻薬取引に関わったとおぼしき人間を片っ端から殺してしまえば、麻薬の取引は防げます。実際にドゥテルテ大統領が大量殺戮を始めたのを知って、自分の命を守るために、多くの麻薬取引関係者が警察に自首してきました。

警察に捕まれば正当な裁判を受けられるからです。少なくとも死刑は免れる可能性があります。

フィリピンの麻薬取引はこうして激減しましたが、ドゥテルテ大統領のこのやり方が、現代の自由と人権を尊重する法治国家、民主国家において許されるはずがありません。

人類が長年にわたって築き上げてきた、自由と基本的人権を尊重する法治国家の精神を、根底から覆してしまう暴挙であることは言うまでもありません。

ドゥテルテ大統領は、フィリピン民主党・国民の力という新興政党から立候補し、その過激な発言から「フィリピンのトランプ」と呼ばれていました。それが6月の国民による直接選挙で、当選してしまったのです。

どうやら最近の民衆は、世界中どこでも国籍を問わず、過激で目立つ強力なリーダーを支持する傾向にあるように僕は思います。イギリスのEU離脱の国民投票の時にも思いましたが、直接民主主義(多数決)というのも危ういものだと僕は感じています。

11月の米大統領選挙でも、ドナルド・トランプ候補の人気が、また巻き返しているといいます。

民衆の中に、過激で目立つ国粋的なリーダーを選ぶ傾向がある以上、トランプ氏が大統領になる可能性も現実味を帯びてきました。そして自国の国益のみを追求する過激で国粋的なリーダーが世界中で誕生することも考えられます。

そもそもフィリピンの民衆だけが、無知蒙昧で愚かな選択をしてしまったのでしょうか。そんなことは決してありません。

僕らの世代以上ならリアルタイムで印象に残っていますが、フィリピンと言えば1986年2月22日に、20年続いたマルコス大統領の独裁時代から、民衆の蜂起によって政権を打倒し、エドゥサ革命によって女性のコラソン・アキノ大統領が民主的な政治を始めたことで知られています。

独裁時代に元大統領婦人のイメルダ・マルコスの集めた、膨大な量の高級靴のコレクションがテレビで報じられたことも印象的でした。20世紀のテレビカメラの前で起きた市民革命だったため、余計に印象が強いのでしょう。

いわばフィリピンと言えばマルコス独裁政権時代から、民衆が自らの手で民主主義を勝ち取った、本格的な民主主義国家だというのが世界の認識です。ですからフィリピンの民衆が無知蒙昧だったとは、決して言えません。

むしろ民主的なフィリピンの民衆でさえ、誤ったリーダーを選んでしまった、と言うべきでしょう。

そしてなぜ僕が、この話がよその国の話であって、よその国の話ではない、と述べたのか。それは世界に、そして日本の国内にも見られる、とある風潮のためです。

「国益のためなら基本的人権を無視しても良い」「国益のためなら法律を無視しても良い」そう考える国民やリーダーが、実際に身近に見られるような気がしてならないのです。

「お国のためなら血を流す覚悟が必要」と発言する政治家、憲法に違反してても通ってしまう法案、そのような超法規的な事象が我が国にはありえないと自信を持って言えるでしょうか。

今日のフィリピンの姿は、明日の日本の姿かも知れません。

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