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リオオリンピックは、日本史上最高のメダル数41個という華々しい結果となった。閉会式では2020年東京オリンピックへの「引き継ぎ」行事もあり、4年後に迫った日本でのオリンピックがいよいよ楽しみになってきた方もいるのではないだろうか。

しかし、個人的に「ん?」と思うことがある。それは時々メディアやアスリートが口にする「武士道精神」という言葉だ。

また、ロシアのドーピング問題において「日本がなぜドーピングをしないのか?」という問いに、「日本人には武士道精神があるから」と某テレビ局で流れた発言が物議をかもしたこともあった。

そもそも、「武士道」とは何なのだろう? なんだか、「日本人はすごいんだぞー」と安っぽい愛国心を持ちだした時の「都合のいい根拠」にしてはいないだろうか?

武士道の誤解 捏造と歪曲の歴史を斬る』(清水多吉/日本経済新聞出版社)は、いまいち輪郭がつかめず、ともすれば戦時中の国粋主義的な考えだと批判されかねない「武士道」を、時代の変遷を丁寧に追っていくことで「正しく」理解するための一冊だ。

まず初めに、武士道とは「武士」の目指すべき「道」である。なので、その武士がいつ誕生したのかという歴史的事実から本書は述べられている。古代より「ますらを」「もののふ」「つわもの」など、武力をつかさどる人々がいた。

「武士」は「荘園を基礎に成立した武力集団」で、鎌倉時代初頭からそう呼ばれるようになったと考えられる。初期の武士は血縁関係に基づく主従関係を持っていた。時代が下るにつれて「土地に関連する主従関係」(地縁関係)へと変わっていく。

つまり「働いてくれたお礼に土地をあげるよ」ということ。極論で言えば、現代の企業がお給料を社員に払い、お金をもらっているから社員は真面目に働くという関係だ。

会社勤めなら「お金だけの関係」でも問題がないが、主君と武士の関係は命をかけるということもあり、それでは「ゆるい」。そこで誕生したのが「名分論」という「主従関係における規範や道徳」。これが後の時代の「武士道」につながっていく。

武士道が明確に見受けられるようになるのは、戦国時代末期から語り継がれ、江戸時代初期に成立した『甲陽軍鑑』だ。これは戦国大名の武田氏にまつわる歴史話や政治について記されており、「甲州法度之次第」(甲州の法律のようなもの)についての説明もある。

そこには武士道精神の土台となった儒教倫理「五常」(仁、義、礼、智、信)について触れられており、また、「堪忍」(かんにん)という「怒りに身を任せず、忍ぶ心が大切だ」といった内容も書かれている。

しかし、この「堪忍」という条文に、当時の武田家臣団は猛反発した。「問題が起こった際、相手に恥をかかされたのにもかかわらず、『堪忍』してしまうような者では、(武士として)役に立たないのではないか?」という意見が出たのだ。

「堪忍ならぬ時には闘うのが本来の武士の道」だと訴えた。江戸時代になり、こういった戦国時代の荒々しさを感じさせる「武士道」に変化が起こる。

日常的に戦うことのなくなった武士たちは、「戦う人」というアイデンティティー以外の自己の存在意義を「武士道」ではなく、「士道」として構築したのだ。「士道」では武士は、主人に奉公して忠節を尽くし、同僚と仲良く。

心に「義」(正しいこと)を抱き、自分より階級の低い民たちの道徳的模範となり、指導をする立場になるよう位置づけられた。これを本書では「サラリーマン道」「公務員心得」と述べられている。

中世の「名分論」(主君に忠節を誓う)から、戦国時代の武力重視の「武士道」を経て、江戸時代の中期から幕末まで、お勤め人としての心得「士道」に変化したのだ。

明治になり、新渡戸稲造が『武士道』という書物を上梓したことで、「武士道」という言葉が海外にも知れ渡るようになった。現代でもっぱら使われる「武士道」は新渡戸稲造の解釈が近いかもしれない。

新渡戸稲造は「義」「正義」を最も重視し、その「義」が何に由来するのかと自問し、「道理に従って決断すること」と述べている。

と、ここまで「武士道」の発展の歴史を追ってみたが、「そういうことね!」と理解できた方は(日ごろ武士道について研究している方をのぞいて)いないのではないだろうか。

ここが「武士道」の難しいところなのだ。法典や明文化された規則がないために、武士道をとらえることは非常に難しく、新渡戸稲造の言う通り、「正しく」生きることが第一としても、その「正しさ」は人の価値基準によって異なってくる。

だからこそ、現代において「武士道」はとらえがたく、都合の良いように解釈されてしまうのだろう。本書はその武士道の歴史的変遷を追った画期的な一冊である。これを手にして、輪郭のとらえがたい武士道のことを、少しでも理解していただければと思う。

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