記事提供:サイゾーウーマン

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子がひもといていきます。

最近はいろんな場所に防犯カメラが設置されるようになった。そのため、昔よりもだいぶ犯罪が早期解決するようになったのではないだろうか。遺体が発見されたときも、その人が亡くなったときの映像がどこかに残っていたら、捜査はぐっと楽になるだろう。

いっそのこと、死んだ人の脳みそが何を見ていたのかわかる装置ができたら……? というのが『秘密-トップ・シークレット-』(白泉社)の出発地点である。


「第九」と呼ばれる捜査本部「科学警察研究所 法医第九研究室」には、遺体の“脳みそ”が送られてくる。その脳みそから、被害者や加害者が亡くなるまでの5年間に見たものをMRIで解析し、誰が犯人なのか、また犯行の動機はなにかを探るのだ。

誰にでも、人には知られたくない「秘密」がたくさんある――そういうものを暴いていく後ろめたさが、この部署にはある。本作は、大判で全12巻の長編だけれど、事件ごとの連作短編としても読める。

そして個々の事件に登場する人たちは、それぞれ事情を抱えているのだ。例えば第6巻のストーリーには胸が痛む。40代の女性が、ある日仕事先のコンビニで殺人を犯し、自殺してしまう。

彼女は、職場では有名な“姫系”で、40代にはとても似合わないフリフリの服を着ている。どうして彼女は突然、4人もの人に切りかかり、殺してしまったのか。その理由が、記憶が再現されたMRI映像により解明されていくのである。

そこには、親の介護と仕事の両立、老いることへの恐怖などが狂気の理由として描かれており、筆者は「どれも実際に自分の身にも起こるであろう事柄だ」と、読んでいて本当に胸が痛かった。

このように作者の清水玲子先生は、ストーリーをものすごーくドラマチックに練り上げるのが上手な作家さんである。小さな伏線でも力業でねじ伏せて、大ストーリーに仕立て上げる。

そこが大作家先生の力量の見せ所なのだが……被害者だけでなく、それを捜査する「第九」の警察官までもがトラウマを抱えていたり、人格に難アリだったりと、さまざまな見どころを作りまくってしまい、結果的に読者のおなかをいっぱいにさせるのだ。

そうやって作中どんどんクローズアップされるのが、「第九」のイケメン室長・薪と「第九」配属された熱血の新人・青木のカラミである。 

薪さんは少年顔のイケメンだが、同僚を殺してしまったという大きなトラウマを持っており、彼の幻覚を見ては泣いたり叫んだりしている。

そんな薪さんに寄り添うのが青木であり、薪が額に傷を負うとハンカチで拭いてあげたり、手を握りながら説得したり……と、全巻通して、この2人の“サービスシーン”が山ほど見られる。

『秘密』というタイトルには、薪さんの青木に対する秘めた想いの意味も込められているらしく、確かに興味深いのだが、本筋の事件が頭に入ってこなくなる。そして、薪さんがよく部下をけなすシーンも、ドラマチックすぎではないか。

「帰れ」は当たり前、怒鳴り散らすのも当たり前。

言うことを聞かない部下には平手打ちまでしたりする。ねえそれ、フツーにパワハラですから! パーで頬を叩くとか、職場で見たことないですから! と気になりだすと、すっかり気持ちは冷え冷え(職場で見たことないと言えば、同僚にこんなにベタベタ触る職場も見たことない……)。

そんなわけでこの作品、サスペンスとしてはとてもおもしろいし、作者お得意のドラマチックな設定や展開は、宇宙ファンタジーや異星の物語なら違和感がなかったのだけど……。

ただ、「警察官」というリアルな職業でそれをやられると、どうしてもツッコまざるを得ないシーンがいっぱいでてくる。ビジネスの場で登場人物のトラウマやからみがどんどんとクローズアップされたところで、どうにも読者置いてきぼり。

「えっ、そんな精神的に不安定な人をそのまま働かせていていいの?」「『この仲間とずっと一緒に仕事したいです!』って、そんなに職場のムードよくなかったじゃない?」など、「第九」の面々の描写が緻密になればなるほど、読者の脳みそは冷えていく。

もういいよ君たち、つらいのはわかった、大変なのもわかった。だからもっと淡々と仕事してくれ……。この作品は、作者の実力があまりに高いため、登場人物の仕事の仕方がキモチワルクなってしまった“力量が高い故のメイ作”、という珍しい作品なのかもしれない。

メイ作判定

名作:迷作=5:5

和久井香菜子(わくい・かなこ)

少女漫画マイスター、文筆家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。

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