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世の中にデキるビジネスマンは数多くいるだろう。しかし、『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』(中嶋聡/文響社)によれば、ビジネスにおいてもっとも大事な「あること」を実践できている人は、100人に1人もいないのだという。

それは「常に締め切りを守ること」。

少なくとも評者は残り99人のうちだが……。締め切りを守らないこと、さらには締め切り間際になって「間に合いません」と言われることほど上司からの評価を下げる行為はないという。

とするならば、常に締め切りを守ることは上司からの信頼を得る上で非常に有効な手段といえる。とはいえ、怠惰なせいで締め切りを守れない人などほとんどいない。

大抵は、仕事の過程において突発的なトラブルや予測不可能な事態が起こったり、他人の作業が遅れたしわ寄せだったりする。だから常に締め切りを守るなんて不可能だ、と言い返したくなる人もいるだろう。

しかし本書はそうした反論に「常に締め切りを守ることは十分に可能だ」と断言する。著者の中嶋聡氏はマイクロソフトのチーフプログラマーとしてWindows 95の開発を主導し、クリック&ドラッグや右クリックなどその後のパソコン操作のスタンダードを作り上げた伝説的なプログラマー。

超優秀な人材がひしめき合うマイクロソフト社で自分のアイデアを通すためには、時間を有効に使うしかないと思い立ち、独自の時間活用術を磨き上げてきたという。そこまで言うならば、そのノウハウをぜひ読み進めてみよう。

著者はまず、締め切りが守れない原因は大きくわけて3つあるという。それは、

1. 安請け合いしてしまう
2. ギリギリまでやらない
3. 計画の見積もりをしない

いずれも耳が痛い指摘だが、なかでも本質はその仕事にどれだけの時間がかかるのかの「見積もりが甘い」ことだという。

見積もりが甘いために、安請け合いをしてしまい、ギリギリで取り掛かったもののトラブルなどで進捗が遅れ、ラストスパートをかけてなんとか間に合わせる(時々間に合わない)羽目に陥るのだ。ではどうすればいいのか。本書の回答は明快だ。

全体の8割を、2割の時間で終わらせる”ロケットスタート”

例えば締め切りまで10日間の仕事を振られたら、最初の2日間で全体の8割を終わらせてしまえばいいというのだ。これは本書が提唱する“ロケットスタート時間術”の基本である。ラストスパートと比べてロケットスタートのメリットは数多い。

まずは納期に間に合わせるためだけのクオリティの低い仕事を避けられること。そして実際に取り掛かってみないとわからない困難が、早い段階であぶりだせること。最初の2割の時間で8割まで進めば、残りの時間でゆっくりと仕事の完成度を高められる。

もしも8割まで進まなかった時には、早めに納期の延長を相談することもできる。締め切りに遅れるかもしれないというプレッシャーや、まだ取り掛かってもいない仕事の締め切りが常に脳裏にちらつく、なんていうこともなくなり、人生に余裕が生まれる。

いいことばかりだ。本当に実行できれば……。

超速時間術を可能にする「20倍界王拳」とは

さて、ではどうやって実際にロケットスタート時間術を実践するかだが、誰でも予想がつくように、最初の2日間で仕事の8割を終わらせるのは簡単ではない。

そこで著者が提唱するのが「仕事をものすごく頑張る2日間は“界王拳”を使うイメージ」で仕事に集中すること。界王拳とは漫画『ドラゴンボール』の主人公、孫悟空の技の名前で、全身が赤いオーラに包まれ戦闘力が飛躍的に上昇する技だ。

著者は、トコトン集中する時には自分がこの界王拳を発動しているイメージをし、しかも「何倍界王拳を使うか」と具体的に数字まで決めているという。

例えば、最初の2日間はずっと20倍、メールやSNSもシャットアウトし、友人の誘いも断る。現実をシャットアウトした仙人のような状態で仕事に打ち込むのだ。

著者は、ラストスパートでの徹夜は非効率でミスも増えるとして勧めていないが、ロケットスタートと同時にノリノリで徹夜するのはアリだという。

続いて提唱されるのが、「マルチタスクを止める」こと。マルチタスクは仕事の効率を何倍も下げる。メールには即レス、といった言説に惑わされず、認知資源(決断や意思決定をする際に減少する気力のようなもの)を界王拳を使うべきメインの仕事だけに割り振ることで、効率を最大化するのだ。

とはいえ、人間の集中力には限界がある。それは最大で6~7時間。著者は一日中界王拳を使い続けるために、「限界が来た時に初めて3食のご飯、昼寝を取り、小休止が終わった瞬間に界王拳の赤いオーラに包まれるイメージをする」という。この繰り返しを2日間続けるというわけだ。

さて、こうして2日間で8割の仕事が終わったとする。ここから著者は残りの2割を仕上げるために「朝4時から2時間だけ10倍界王拳を発動する」とよいという。

家族やメールに邪魔されない朝の静謐な時間に、1日の仕事の8割を終えてしまうのだ。朝ごはんを食べたら午前中は2倍界王拳を使い、午後はメール返信や打ち合わせなど、気楽に流して仕事を進める。

いきなり朝4時に起きるのがハードルが高いならば、まずは出社の時間を1時間早めてみるとよい。この習慣が体に染み付いたところで、次は2時間早く出社してみる。人間がある習慣を身につけるには平均で66日同じ行動を続ける必要があるという。

失敗した日があっても気にせず、まずは気軽にやってみることが大切なのだ。本書の後半には、いますでに複数のプロジェクトを進めていて多忙なビジネスマンが、どうやってこのロケットスタート時間術を導入するかの細かいメソッドも載っている。

ここまで読んで「確かにロケットスタートが重要なのはわかったけど、自分には無理」と思った多忙な人こそ、実際に本書を手に取ってみてほしい。

この習慣を66日間も続けた頃には、あの人は締め切りに遅れない、と周囲の評価が激変することは確実だ。この超速時間術、多忙な人ほど、一度試してみて絶対に損はないメソッドだ。

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