“ミレニアル世代“によるNEO TOKYO MAGAZINE「SILLY」が、社会に埋もれた20代の声を代弁するコーナー「アノニマスリポート」。今回は、外見のコンプレックスに苛まれた若者と、それを救ったファッションのチカラについて。


人間は見た目じゃない、内面が大事なんだ」と、私たちは常に言われ続けて育った。学校の先生も、親も、流行りの歌までもが、「心の美しさが大事だ、自分らしくあればそれこそが美しいんだ」と繰り返した。

そんなこと、分かってる。でも、それじゃあ救われない。だって、結局のところ、人は見た目で判断する。第一、自分でさえ好きになれない外見を持つ人間を、だれが好きになってくれる? 鏡の前で絶望する毎日に光が差し込むのはいつなんだ?――悶々と悩み続けた末に彼が手にしたのは、『ファッション』という処方箋。今回の主役は、コンプレックスで固められていた自分の殻を洋服の力で破り、東京での大学生活を謳歌するに至った19歳だ。

出典SILLY編集部

コンプレックスの塊だった少年時代

「最悪の子供時代。太っていて、足がすごく遅かった。いいところ?ひとつもなかったですね」

渋谷駅前のカフェ。窓の外で延々と続く工事中の風景を見やりながら、都心のミッション系大学に通う彼は、表情ひとつ変えない。カジュアルだけれど隙のない着こなし。綺麗に磨かれた靴。人よりも頭半分くらい高い背。パッと見る限り、何の悩みも持たずに抱えてきた、実に恵まれた人に見える。そんな彼が、九州の田舎町で過ごした日々を振り返り、顔を曇らせる。話をしながらも、視線は窓の外に向けたままだ。

「中高時代も同じ。とにかく根暗でしたね。ほんとイケてなかったんですよ、僕。自分が嫌いすぎて、人と繋がることが苦手になりました。自己顕示欲とか承認欲求だけはどんどん膨らんでいくのに、人に認めてもらえるような強みは全然なくて。中学では卓球部に入りましたが、部活も勉強も中途半端。結局、地元の中堅公立高校に進学しました。知ってる奴だらけの学校だから、高校で人生をリセットしたくてもできなかった。それで、1年生の時に不登校になりました

出典SILLY編集部

1枚の写真がきっかけで東京行きを決意

そこまで一気に話すと、彼はコップの水を口にした。友達とうまくいかなくなったわけでも、特にだれかに苛められたわけでも、授業についていけなかったわけでもない。ただ、「こうありたい自分」と「現状の自分」の折り合いがつかなかった、それだけだ。はちきれんばかりの自意識を持て余しながら、ベッドの上で天井を見つめる毎日。そんな彼を救ったのが、たまたま手にしたファッション雑誌のグラビアだった。

ヴィヴィアン・ウエストウッドの服が載ってたんです。見た瞬間、あ、こんな服着て街を歩きたいな、って思いました。だれよりもお洒落になって、同級生のやつらを見返してやりたい、って」

そう思ったら、後は早かった。

「こんな田舎の垢抜けないやつらにどう見られたって関係ない」

そう開き直った彼は学校に戻り、東京の大学に進学するべく猛勉強を始めたのだ。努力の甲斐あって、彼は見事に第一志望に合格。入学祝いとして母に頼み込んで買ってもらったのは、ドット柄のポール・スミスのセットアップだった。コンプレックスだった脚の太さは隠し切れなかったが、サイズ補正をしてもらったら、意外にもその個性的な服は自分にぴたりと似合った。

出典SILLY編集部

人生を変えてくれたドット柄の服

記念すべき東京デビューの服ですから、こだわり抜きましたよ。シャツとネクタイ、靴下もドット柄で合わせて。そしたら、なんと入学式で『お洒落だね』って声をかけられた。びっくりしました。そこで、思い切ってLINEで『ドット柄の服着てる人間が立ってるところに集まれ』って送ったら、40人以上集まってきて。気付いたら、彼らの中心に自分が寝そべって記念撮影してました。その瞬間、『僕は服で生きていくんだ!』と確信したんです」

そこからの彼は、服にどんどんのめり込んでいく。「お洒落だね」「似合うね」と褒められるたびに、自信は増していったようだ。今はバイトを3つ掛け持ちして洋服代を捻出。気が付くと、彼の瞳には光が宿っていた。

「どうしても欲しいものがある時には月に10万くらい使っちゃうこともあります。古着を組み合わせたりしながら工夫してますけどね。着たい服があるから、それに合わせて肉体改造にも取り組むようになりました。将来はファッション誌の編集など、洋服に関わる仕事がしたいなあと思っているので、今はその準備中です」

出典SILLY編集部

自分を駆り立てるファッションへの想い

何という情熱。でも、最近では彼のように服への愛を語る若者は稀だ。もちろん、経済的な問題もあるだろうが、それだけが理由なのだろうか?

「うーん、ファッションに興味がないというより、人と違う格好をすることが嫌なんじゃないですか?僕の周りの子たちが来てる服を見ても、“こういうジャンルの人だと思われたい”みたいな、消極的な理由で選んでるとしか思えない。言っちゃ悪いけど、そういう服の選び方って退屈だし、子供っぽく見えます。服は自己表現。服を通じて自分をどう見せたいかが大事じゃないですか」

ちょっと興奮した様子の彼は、さらに畳み掛けるように言葉を継いだ。

「服よりも中身が大事だと言う人はいっぱいいます。外見で人生が変わるわけない、それよりも中身を磨け、と。でも、実際に僕の人生はファッションの力で180度変わったんです。僕がファッションって本当にいいな、と思う理由は、“1番がいないこと”。顔の優劣を競うミスコンみたいなものと違って、だれもが正解なんです」

……確かに彼の言う通りだ。私たちはつい、外見の重要性を軽視してしまう。ただ、彼のように、最初のインパクトで他人を魅了できる例は稀だろう。ちょっと意地悪な気持ちになり、あなたはたまたまラッキーだったけれど、変なやつ、と嘲笑されて終わることだってあるんじゃない?と水を向けると、彼は「そうですか?」と目を見開いた。

出典SILLY編集部

外見と内面。どちらが先でも大事なのは「変わること」

「僕はそうは思わないな。それに、笑われたっていいんですよ。大事なのは変わること。僕が変われたんだから、だれだって変われるはずです。自分の見た目に悩んで引き籠ってる暇があったら、まずは服を着替えてみなよ、と思う。そしたら、いろんなことが好転してくるから。そう、大学に入って、人生で初めて彼女ができたんですよ。「お洒落だね」って向こうから声をかけてくれたんです」

清々しい。大学デビューのお洒落男子なんて……と勝手な先入観を抱いていた自分が、私はちょっと恥ずかしくなった。そうだ、私も今週末は自分のワードローブを見直してみよう。もしかしたら何かが変わるかもしれないから。服の力で。


text:廣井紫陽(リベルタ) / Shiyo Hiroi
photographer : 延原 優樹 / Yuki Nobuhara

■コンプレックスと闘う若者たち

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