「障害者は不幸をつくることしかできません」

今年7月に起こった相模原障害者施設殺傷事件後の、植松聖容疑者の供述です。

この言葉に、きっと多くの人は否定的な態度をとるし、「そんなことない」と反論するはず。しかし、「じゃあ具体的に、どうすれば彼らと一緒に幸せになれるのか」「障害を持つ方がもっと社会とつながっていくにはどんな解決策があるのか」と聞かれたら?

瞬時に答えられる人は、多くはないんじゃないでしょうか。

障害者に関する知識も少なく、偏見もないとはいえない世の中で、どうやって支援を行っていくのか?誰がケアを行うのか?

出典Spotlight編集部

このような問いに対して、障害者が「働く」ことを通じて社会とつながり、自立を目指すことを掲げている団体があります。それが社会福祉法人いたるセンター

今回は株式会社リディラバの主催するスタディツアー「障害者の『働く』を支援する福祉施設を巡るツアー」(https://traveltheproblem.com/tours/116)に編集部が参加し、いたるセンターの数施設と、そこで働く知的障害を持つ人々に直に触れさせていただきました。実際に働いている障害者のみなさんの仕事や生活について知る1日のレポートです。

障害者を知り、触れて、一緒に働いてみる。

いたるセンターは「どんな人でも、少しでも」自立に向けて進んでいけるはずだという考えから、障害者を支援する施設を複数運営しています。今回のツアーで見学させていただいたのは、東京都杉並区にある作業所3か所と、障害者が共同生活を営むグループホーム、それからみなさんがつくったパンを販売している店舗「pukupuku」です。

途中にはこれらの施設でみなさんがつくったカレーをランチとしていただく時間があったり、ツアーで学んだことを参加者同士でディスカッションする時間があったり。障害者の「働く」について、全身で考えるツアーとなっています。

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知的障害者に関する基本的な知識から皆さんの日々の様子まで、施設職員の方がとても丁寧に説明してくださいます。

知的障害者は自立度合いで、どのように働けるかが分けられています。日常生活に人の介護が必要で、働くことも少し難しい「生活介護」。そこより自立度合いが高いが、一般企業で働くことは難しい「就労継続支援A」と「就労継続支援B」。一般企業に就職できる、あるいはそれを目指せる「就労移行」。今回は生活介護、就労継続支援A/Bの方が働く場所へ、主に訪問させていただきました。

障害者の方は実際にどのような仕事をしているのか?

まずこちらは、障害者と支援職員の方が一緒に働く作業所の様子。

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ここで生活介護の方が取り組んでいらしたのが、こちらの虫よけスプレーのパッキング作業です。分量通りに薬剤をボトルに詰めたり、ボトルの封を締める、検品、出荷準備を行ったり。薬品製造以後の工程を一通り、障害者の方が支援職員の方の補助を受けながら取り組んでいました。

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他の施設では、こんな仕事も。

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これは、手づくりのメモ帳をつくるために紙を数えているところ。紙の枚数をたくさん覚えておくことが難しい人もいるので、それを補助するような道具も用意されていました。1から10までの数字の上に一枚ずつ紙を並べていき、10まで並べ終わったら束にしてまとめるというもの。

道具があれば、ある程度ひとりで仕事に取り組むことができる人もいるようです。この日はツアー参加者も隣に座り、働く方と一緒に作業体験をすることができました。

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就労継続支援Bの方は、さをり織という布を織る仕事やシルクスクリーン印刷でオリジナルのTシャツなどをつくる仕事をしていました。

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とくに印象的だったのは、さをり織。様々な色の糸を紡いで仕上げていく作業であるため、織物をする人個人のセンスがダイレクトに表れるものになります。独特な色使いにこだわりがあるらしく、仕事を見せてくれた障害者の方も「もっと見て!私がやったんだよ!」と嬉しそうに、誇らしそうに、自らのつくったものを自慢してくれました。

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比較的、自立度が高い「就労継続支援A」の方は実際の社会でも活躍

就労継続支援Aの方は、施設以外のところで働いている方もいらっしゃいます。

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こちらは荻窪にあるパン屋さん「puku puku」。奥の厨房やレジには障害者の方もいて、お店に入ると笑顔で接客して、レジでパンの袋詰めなどをしてくれます。

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パン自体も、結構評判がよいらしく、人気のクルミパンなどは早くに売り切れてしまうこともあるんだとか。

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こちらは缶詰のタイカレー。なぜパン屋さんでカレー?と思えば、こちらのカレーもみなさんが施設でつくっているもの。「puku puku」での販売はもちろん、地域の様々なところで売られているんだそう。お味が気になるところだが…、

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もちろん、いただいてきました!

今回のツアーでのランチは、このみなさんがつくったタイカレー。見た目はもちろん、食べてみると想像以上に「タイっぽい」味で結構辛く(子どもには厳しいくらいに辛い)、十分に「買いたい!」と思う美味しさのものでした(食レポスキルの低さが申し訳ない限りである)。

「偏見はダメ」よりも大事なこと

今回巡った3つの施設の中で、障害者のみなさんは想像以上に社交的で、話しかけてくださることも多かったです。自分の仕事を見せに来てくれる人、名前を聞いてくれる人、握手を求めてくれる人、帰るときは外まで見送りに出てくれる人。

もちろん外部の人が突然来ることに驚いてしまう人もいるので、そこはきちんとマナーを踏まえて。いきなりこちらから話しかけたり、身体を触ったりしないことなどは気をつけなければならないのですが(っていうかこれは誰に対してでも当然だけど)、かなりみなさんフレンドリーに接してくれて、素直に「嬉しい!」という気持ちになりました

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正直なところ最初は、「どう接していいかわからないし、ちょっとこわい」という想いと、「いやいや、そんな偏見を持ってはダメだ」という想いと、色々抱えながら参加したライターだったのですが、「偏見を持っちゃダメだ!」とルールのように唱えることよりも、実際に彼らに接して感じた「嬉しい」という想いを大切にすることの方が意味のあることなんじゃないかと思ったりもしました。

この施設での「働く」の目的は、工賃を得ることだけに限らない

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みなさんの作業する方を見ながら思ったのは、「労働や自立とはどういうものなのか?」ということ。虫よけ薬剤のボトル詰めも検品も、生産性が高いとは言えないし、職員の方のサポートが必須なように見えてしまう。いたるセンターはどのように考えているのか気になりました。

施設見学後のディスカッションタイム、そんな話題が出た際に、今回のツアーを案内してくださったいたるセンターの吉田さんはこんなふうに答えてくれました。

「そういった疑問はたしかにあるかもしれません。でもここでの『働く』というのは、工賃をもらうために労働すること以上のことを目指しているんですよね。働く前は数が数えられなかったのに、ここに来てからできるようになった人もいる。さをり織や絵を描くことなど、自分の強みを見つけて得意なスキルを伸ばして何かを生み出せる人もいる。ここで働くことで、少しずつではあるがみなさんが自立に向かっているのは確かなことだと思いますよ」。

自立とは、よりどころを増やしていくことなんじゃないか。

かつて障害者のケアは、その家族が担うことが多かった。家庭の領域に閉じこもって、社会とのつながりもなく、家族だけに大きな負担がかかってきました。

その状況を脱し、障害者自身が社会とつながっていくための方法のひとつが、今回の「働く」ということです。

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それまで家族だけに頼りきりだったことが、施設の様々な職員の方のサポートを受けられること。家庭に閉じ込められていたことから、「働く」を通じて必要とされたり褒められたりする経験があること。それによって工賃が得られること(そのお金で何か好きなものを買って経済活動を行えば、それもひとつの社会とのつながりだしね)。そして、今回「見てみて!」とさをり織を自慢してくれた方のように、自分の仕事や行いに誇りが持てるようになること。

ただ助けてもらうだけだった存在から、様々に頼る先や心の支えになるものが増えていくことで、少しずつでも自身が成長していけるのであれば、それは「自立」と呼べるはず。そうやって障害者自身が社会とつながろうとしているのを支援することが(知ったり、寄付したり、この施設でつくられた商品を買ったり、手段はきっと何でもいい)、私たちがまずは出来ることの一つなのではないでしょうか。

次回の障害者の「働く」を支援する福祉施設を巡るツアー開催予定

日時:2016年10月20日(木) 09:45〜15:40
行き先:社会福祉法人いたるセンター

▼詳しくはこちらをご覧ください
https://traveltheproblem.com/tours/116

今回ご協力いただきました株式会社リディラバさんは「社会の無関心を打破する」をコンセプトに社会問題の現場に訪れることができるツアーを提供しています。他にも、社会問題の現場に実際に訪れることができるツアーがたくさんあるので、ぜひご覧ください。
https://traveltheproblem.com/

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ギリギリ昭和でゆるゆるゆとり世代。「わからないことは人に聞けば大体教えてもらえる」がモットーの、人物取材系の企画が好きなフリーランスのライターです。記事・企画とは全く関係なくとも、取材した人のグッとくる一言を収集する趣味があります。

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