記事提供:サイゾーウーマン

「ペットブーム」真っ盛りの今、メディアでは犬や猫がもてはやされ、ネット上にはペットの愛らしい動画が次々とアップされています。

しかしその一方で、子犬を繁殖させるブリーダーが、何十匹もの犬たちを抱えたまま倒産する「ブリーダー崩壊」は後を絶たず、飼い主の見つからない動物の殺処分が問題視されているのも事実。

それを受けて、行政が「殺処分ゼロ」を目標に掲げたというニュースも日々流れるなど、なにかとペット業界の動きを耳にします。

私、ライターの和久井香菜子は前々から、ペット産業について疑問がありました。数年前、家族がペットショップで柴犬を購入。その子には股関節に障がいがあり、そして「噛み癖」もひどく、激しく噛まれるので、手を出すのもためらわれるほどでした。

そんな身近なペットとの関係性から、健康とはいえない犬に、なぜ高額の値段がつくのか? なぜ人は、そうした犬を買いたいと思うのか? そもそも、生き物に値段を付けることは正しいのか?

また「噛み癖」は、幼いうちに親犬から離された子犬に起こると聞き、ペットの福祉・権利を取り巻く状況にも関心を持ちました。

そこで、ペットに関する短期連載を行い、動物の命を扱うこと、動物愛護、動物と暮らすことについて考えていきたいと思います。

初回は、ペットと人間との関係を研究する、東京農業大学農学部バイオセラピー学科の太田光明教授に“ペットブームの現在”についてお話をうかがいました。

――最近のペットブームについて、どのようなお考えをお持ちかお聞かせ願えますか?

太田光明氏(以下、太田) まず、メディアではペットブームと言うけれど、飼育されているペットの総数は減っているんですよ。

――冒頭から、いきなり予想外です。

太田 猫の飼育数はほぼ横ばいですが、犬は2007年の1300万頭をピークに減り続け、今は980万頭ほどです。毎年30~50万頭近く減り続けています。今、飼い犬の平均年齢は14.5歳なので、このペースだと、10年以内に犬は700万頭になるでしょう。

小動物の獣医さんが全国に1万1,000件ほどありますが、そのうちの3割は潰れるかもしれません。にもかかわらずブームと言われる原因の1つは、テレビ。北海道犬が出演するSoftBankのCM以降、CMに動物が多く登場するようになりました。

また、バラエティ番組では、視聴率が落ちると「動物特集」を放送する傾向があります。年3回くらい、そういう時期がやってくるので、そのたびに特集を組む。今はもっと頻度が高いかもしれませんね。

動物ものの番組なら、ご飯を食べながら見られるし、どぎつくないから子どもにも安心して見せられるというメディアの内情が見えます。こうしてペットブームといわれるようになったのでしょうが、実態とはかけ離れているんです。

――どうして犬ばかりがこんなに減っているのですか?

太田 1つは値段です。ペットショップでは、子犬1匹50万円なんてざらで、そんな値段の犬を買える人はそうそういません。売れないから供給量は減り、値段が上がります。

猫は犬ほど高くはありませんが、30~40万円はざら。猫は売れているので、本来は値段を上げる必要がないはずなので、便乗値上げですね。

また住宅環境の変化もあるでしょう。昔は一戸建ての屋外で飼っていましたが、今はほとんど室内飼いです。ペット可のマンションやアパートは増えてきましたが、住宅供給公社をはじめ賃貸や集合住宅には「ペット可だが10kg以内」と制限があります。

ラブラドール、レトリーバーなどは20kgを超えますから、賃貸ではまず飼えません。「猫ならいい」という大家さんは多いので飼育数も横ばい、同じ理由で、ハムスターや兎、鳥の飼育数は減っていません。

――外国人に「日本で驚いたこと」を聞くと、よく「犬が小さい」と言われます。小型犬がやたら多い印象です。

太田 昔は、ペットに役割があったんです。犬は番犬として飼っていたので、体も大きかった。猫にもねずみ取りという役割がありました。古い木造の家にはネズミがいたので、猫を飼うと極端にネズミが減ったわけです。

――今はそんな理由でペットを飼う人はほとんどいませんよね……。

太田 現在は、購入・飼育費にお金がかかることから、犬を飼うことは“ステータス”になってしまいました。日本の犬の飼い方は明らかにおかしい。今は“飾り”のように扱われています。

小型犬ならえさの量も少なく、お金もかからないので飼いやすいと思われがちですが、本来40kgあった犬の原種を小型化したため、遺伝病も多いんです。

また、子犬は皮膚病にもかかりやすいし、目に見える病気はお金に余裕のない人でも病院にかかりますから、維持費がかかるんです。

――維持費を確保できなくなって処分する人も増えているのでしょうか?

太田 それは昔と今とで割合は変わりませんし、殺処分はむしろ減っています。里親に出すというのは公的機関ならどこでもやっています。しかし問題は、繁殖のシステムです。昔は、街のおじいさん、おばあさんが趣味で繁殖していました。

犬を飼って、子犬を産ませて、近所の人に譲ったりということが主流でしたし、その子犬を業者に預けるシステムもありました。

それが全国で2万軒ほど。しかし、そういった方が亡くなるなどして生産者が極端に減り、多いときで年間100万頭が市場に出ていましたが、今は激減しているものと思われます。

――数が少ないから子犬の値段が上がる、上がるから飼えない、ますます飼う人が減る、という悪循環なのですね。現在は、ブリーダー業者が子犬を繁殖させていますが、どんな問題点があるのでしょうか?

太田 売れない犬がいる、ということです。ブリーダーは繁殖させても1頭につき3回、6~8歳までで、先ほども言った通り今は犬の寿命が14.5歳ですから、6~7年は無駄飯を食べさせることになる。また、生まれた子犬が全部売れるわけではありません。

値段が極端に高いと、1~2歳でも売れなくなる。そういった犬を無償で提供すればいいのだけれど、消費者は「ちょっと待っていれば安くなるだろう」と考え始めるため、本来売れるべき年齢の犬も売れなくなります。

結果、繁殖できない犬や売れない犬が大量に捨てられることになる。今は少し減りましたが、こうしたブリーダーは反社会的組織がやっていることも多かったので、「生き物を扱っている」という認識が薄いんです。生き物ではなくモノを生産している感覚ですね。

――犬がブランド化している背景には、大量の廃棄犬がいるわけですね。

太田 以前は、保健所や動物愛護センターが廃棄犬を引き取っていましたが、現在は法律で断ることができるようになっています。

僕は、これは悪法だと言っているんですが、そういった影響もあり、ブリーダーは、繁殖や商品としてつかえなくなった犬たちを山奥などに捨てたり、穴を掘って生き埋めにしたりすることもありそうです。

――こうした悪循環から抜け出すためには、どうしたらいいのでしょうか。

太田 昔のように、素人が繁殖をすることです。生き物を商品としてしか見られない人たちが、商売として繁殖をするから、おかしなことになる。それに、犬のブランド化も危険です。

小型犬のかなりの割合は帝王切開であるため、ブランド化が進めば進むほど、犬の健康は損なわれます。雑種の方がはるかに健康的ですよ。

――ペットを飼いたいという人にとって、高い額のブランド犬と雑種の優先度が逆転することを願います。

太田 新規で動物を飼う人が増えるきっかけになるのであれば、ペットブームといわれるのもよいことかなと思います。ペットを飼うメリットはたくさんあって、子どもの情操教育にいいのは有名ですね。

あと猫が喉を鳴らすときの「ゴロゴロ」という音は、人の健康にいいんですよ。

「ゴロゴロ」を聞くと穏やかな気持ちになることも知られていますし、まだ研究中ですが、「ニャー」という鳴き声を聞くと、脳の血流が上がり、「ゴロゴロ」を聞くと下がることがわかっています。

認知症の一番の問題は、脳の一部が機能しなくなること。ですから、血流が上がったり下がったりすれば、予防できる可能性が高いんです。ちなみにこれは、猫を飼っているエイズ患者に延命効果があったことから始まった研究です。

――猫のゴロゴロで認知症が防げたら、医療負担がグッと減りそうですね。最後に、海外のペット事情から見て、日本の現状はどうなのか教えてください。

太田 ヨーロッパでは、日本のように繁殖を商売にしている人なんていません。ボランティアのようなお年寄りが1~2頭飼っていて、繁殖しています。子犬が生まれたら、えさ代くらいの経費をもらって人に譲渡するんです。

そこで稼ごうなどと考えてもいないでしょう。生き物を扱うモラルが浸透しているんです。それに比べて日本はモラルのカケラもないですね。

――ドイツに行ったとき、犬のしつけが行き届いていたことに驚きました。

太田 ヨーロッパでは、犬がバスや電車に乗れるんです。遺伝子や生まれ育った環境のどちらもしっかりしているので、しつけがしやすいこともあり、行儀がいいのでので、どこへでも連れて行ける。

日本は「問題が起きたら困る」という理由でペット不可のところが大半です。公共の交通機関にペットが乗れない先進国なんて、日本以外にありません。そういったことを、皆さんに広く知ってもらいたいですね。

お話をうかがうと、日本のペット産業に大きな問題があるようです。生き物を商品として扱い、値段を付けて売ることを起因とし、値段の高騰で、犬を飼う人が減る。

犬を飼う=ステータスとなり、血統というブランドを追い求めるあまりペットへの体の負担が増し、しつけがしにくくなる。しつけがしにくいから、もてあまして飼えなくなる。

結果、さらに犬を飼う人が減り、犬の数も減ってゆく――この悪循環を、どこかで絶ち切らないといけません。人とペットがよりよい関係性を築くためには、一体どこから始めればよいのでしょうか。

「ペットを飼いたいと考えたときに、どういう手段があるのか」を次回考えていきます。

太田光明(おおた・みつあき)
東京農業大学農学部バイオセラピー学科教授。動物介在療法学研究室にて、ヒトと動物の関係学に取り組んでいる。

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