90年代J-POPにおいて、抜きにして語れないのがTKの存在だ。

小室哲哉
、そして小林武史

最もCDが売れたあの時代を、それぞれ別々の音楽性で牽引してきた両者。前者は主に踊れる楽曲の中にさまざまなサプライズ要素を散りばめるエッジの効いたサウンドを得意とし、後者は日本人である我々が長く親しんできた哀愁を抱いた楽曲にポップなエッセンスを加えて上質に仕上げる手腕があった。

今回ご紹介するのは日本人の琴線に触れる、いや、それどころかがっしりと掴んでしまう小林武史プロデュースによる楽曲たち。その特徴は、私たちをあの時へ、ものの数秒で連れて行ってしまう印象的なイントロ。物事ははじめの一歩が肝心とはよく言うが、それは音楽についても例外ではないようだ。

あの時、あの曲。

#10 “イントロ大王”小林武史が生み出した、一瞬で切なさをもたらすナンバー集

「イントロ大王だなんて風情のない表現をするものだ」と思う読者も多いと思うが、この異名は何を隠そうMr.Children桜井和寿が呼び始めたのだという。長きにわたってミスチルのプロデュースをしてきた小林武史。桜井にそう言わせるまでの大王っぷりは、ミスチルのみならず90年代を代表する数々の名曲で存在感を放っている。

1. 「涙のキッス / サザンオールスターズ」

出典 https://www.amazon.co.jp

こちらより『涙のキッス』のイントロが視聴できます)

“涙のキッス もう一度 誰よりも愛してる 最後のキッス もう一度だけでも 君を胸に抱いて”

出典サザンオールスターズ『涙のキッス』

92年発売の31枚目シングル(画像は2005年再発売のもの)で、TBSドラマ『ずっとあなたが好きだった』の主題歌。ドラマの脚本を読んで書き下ろした本作は、意外にもサザン初のミリオンセールスとなった。

小気味良いリズムに乗る浮遊感のあるシンセのゆらぎが心地よいイントロだ。レコーディングの際、桑田佳祐はバンドメンバーでなく小林武史を頼ってしまうため「あいつは危ないヤツだとわかった」と発言したほどプロデュース能力に信頼を寄せていた。小林は他にも「希望の轍」「真夏の果実」をはじめとするサザンの代表的な楽曲を手掛け、世間のみならず多方面のミュージシャンから評価を獲得していく。

2. 「あなたに会えてよかった / 小泉今日子」

出典 https://www.amazon.co.jp

こちらより『あなたに会えてよかった』のイントロが視聴できます)

“時が過ぎて 今心から言える あなたに会えてよかったねきっと私”

出典小泉今日子『あなたに会えてよかった』

91年にリリースの32枚目シングルの楽曲。作詞を小泉今日子作曲を小林武史が担当した。唯一のミリオン曲であり、小泉今日子の最大のヒット曲だと言えるだろう。

この曲のイントロは切ない鍵盤のフレーズが印象的で、歌い出しのサビに向かう短い時間で気持ちをグッと高めさせる滑走路のような役割を発揮している。イントロはサビと並んで曲の名刺代わりとよく言われる。PLAYボタンを押してすぐ曲の雰囲気や歌詞の内容を表せるテクニックは、聴く人が曲に入り込める強い引力を生んでいたのだろう。

3. 「Tomorrow never knows / Mr.Children」

“心のまま僕はゆくのさ 誰も知る事のない明日へ”

出典Mr.Children『Tomorrow never knows』

アルバム「Atomic Heart」がロングヒットを続ける中リリースされた94年発売の6thシングル。276.6万枚という驚異的数字を叩きだし、ミスチル史上最大の売り上げとなった。驚くべきは「桜井の考えたAメロと小林の考えたコード進行が偶然にも一致したこともあって30分ほどの時間で曲のほとんどをを作り上げてしまった」という話。稀代のメロディメーカーと名プロデューサーが生んだ奇跡だった。

出典 YouTube

一度聴いたら忘れない美しいメロディのピアノに、グロッケンの繊細で儚い音が部分的にユニゾンする名イントロ。懐メロを扱う音楽番組でも必ずと言っていいほど紹介されることを鑑みても、日本音楽史を語るには欠かせない楽曲という評に異論が上がることはないだろう。

小林はミスチルで近年のセルフプロデュース以外のほぼ全曲に編曲で参加。「抱きしめたい」「innocent world」「口笛」などを改めて聴いてみてもイントロ大王と呼びたくなる気持ちがわかる。

4. 「Hello, Again ~昔からある場所~ / My Little Lover」

出典 https://www.amazon.co.jp

こちらより『Hello, Again ~昔からある場所~』が一部視聴できます)

“記憶の中で ずっと二人は 生きて行ける 君の声が 今も胸に響くよ それは愛が彷徨う影”     

出典My Little Lover『Hello, Again ~昔からある場所~』

小林がかねてよりデビューさせたかったというギタリストの藤井謙二と、知人に紹介され関心を持ったakkoのユニットをプロデュースする形で95年5月にデビューしたMy Little Lover。『Hello, Again ~昔からある場所~』はその3か月後に発売された3rdシングルで、日本テレビドラマ『終わらない夏』の主題歌に起用され180万枚を売り上げた。

“イントロのギターを謙二に弾いてもらった時、彼がすごく生き生きと見えた”

出典アルバム『singles』ブックレットより

藤井の書き上げたものをベースに小林が手を加えて完成した曲だったため、クレジットには両者の名前が並んでいる。イントロの滑らかに弾かれるフレーズは彼らのセンスが光っており、シンプルでありながら曲の世界観を見事に表現していた。

音楽には言語化ができない繊細な心象風景の描写を補う力がある。歌詞の持つ雰囲気に対し、楽器の編成や弾き方のニュアンスで同じフレーズでも聴き触りが変わってくるのだ。往年の名イントロが流れたときに揺さぶられる私たちの心。それは作詞作曲だけではない編曲の細部にまでわたるこだわりによってもたらされるものだということを忘れずにいたい。

ふとした瞬間に流れてきた曲が、ピンポイントで自分の懐かしい思い出を呼び起こす」といった経験はきっと誰にでもあるはず。棚の奥で眠っているあの縦長の8cmCDに触れたとき、あのイントロが流れる。時にはあなたが忘れかけていたキラキラした記憶や切ない記憶に、再び色をつける時間があってもいいのかもしれない。

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Spotlight編集部 なーろ このユーザーの他の記事を見る

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